40〜60代が転職に際して考えるべきこととは?(写真:masaya/PIXTA)

一口に転職といっても、実は年代によってとるべきアプローチは異なる。なぜなら、人材ニーズが年代ごとに異なるからだ。20〜30代の若い年代であれば転職のニーズは高い。一方、40〜60代の場合、転職の難易度が急激に高まる。

40〜60代はどうやって転職先を見つければいいのか? 『転職の「やってはいけない」』の著者であり、これまで3000人以上の転職・再就職をサポートしてきた郡山史郎が解説する。

20代、30代と比べて、40代の転職は難易度が数段階高まる。理由は簡単だ。40代に期待している会社が少ないのだ。

求人元の会社が転職希望者に求めているのは、新たな職場環境でこれまで以上に力を発揮する人材である。しかし、残念ながら、40代に伸びしろはほとんどないうえに、環境順応性も低い。したがって、40代を迎えたなら、転職するよりも現在の会社にとどまることを第1に考え、そこで自分の能力を伸ばすこと、あるいはこれまで身に付けてきた知識やスキルを維持することに注力したほうがいい。

「給料」を理由に転職しないほうがいい

とはいえ、40代が転職できないわけではない。門戸は狭いものの求人はある。その前提で述べると、40代で転職するなら、それは自分のビジネスキャリアを完成させるための転職であると考えるべきだ。

人は長い年月をかけて、さまざまな能力を身に付けながら成長し続ける。そして、45歳前後を分岐点としてその能力は衰え始めるといわれている。しかしながら、平均寿命が延び続け、人生100年時代といわれるようになった今、90歳まで現役で働く人が次々とあらわれると私は予想している。

そうなったとき、40代は、ズバリ人生の折り返し地点ということになる。とするなら、転職を考えている40代は自分の人生の前半戦を完成させるとともに、その後のキャリアをよりよいものにするために転職を考えるべきだと思うのだ。

「人間関係がうまくいかないから」「給料を少しでも上げたいから」といった理由なら転職しないほうがいい。40代が転職に際して考えるべきは、第1に、これまで培ってきた知識やスキルを生かして、ビジネスパーソンとして仕上げのフェーズに移行することであるはずだ。

50代、60代、70代と年齢を重ねるなかで、自分が持っている知識やスキルを活かして何を実現するか、そのためにはどんな環境が必要なのかをじっくり考えてキャリアを築くことを目指すのである。

もちろん、40代にもなると、自分のキャリアだけを考えればいいということはない。家族のことや老後の生活のことなども考える必要がある。転職せざるをえない状況になったら、準備を怠らず、つねにリスクマネジメントを意識しながら転職活動を進めてほしい。

近年は小規模ながら、50代の転職市場が形成されている。ただしエグゼクティブの転職を除けば、この世代の転職希望者が仕事の領域を広げて収入も増やす転職を実現するのは、極めて難しいのが実情だ。

客観的に見て、50代は転職するには遅すぎる年齢だ。希望する条件での転職はできないという認識を持つことが、まずは求められる。転職を希望する場合も、本当に転職しなければならないのかをよく考えて行動に移さなければならない。

40代に計画し、綿密に準備してきたキャリアプランを50代で実現しようというのでもない限り、厳しい転職市場に打って出るのはおすすめできない。50代が転職を決断するのは、やむをえず職を変えなければならない事情があるときだけだと考えるのが賢明だ。

50代は“守りの転職

ただし、ごくまれに50代でも理想的な条件で転職できることがある。私の会社でも、50代の転職希望者が、人材登録からわずか10日ほどで採用されたことがあった。転職希望者は、取り扱い企業が国内に3、4社しかないという、ある希少な商品の営業に携わっていた経歴の持ち主である。

人材登録の際、当人から「自分は、その商品しか売ったことがない。ほかの営業はできない」という話があり、おそらく希望どおりの条件で転職するのは難しいだろうと私たちは考えていた。

そんな矢先、その商品に通じた人材が欲しいという求人依頼があったのだ。求人元はその商品の取り扱い企業ではないが、事業拡大を目指し、新規プロジェクトでその商品を取り扱いたいということだった。

特殊業務の求人ということで、待遇も破格である。結局、その転職希望者は、本人が提示していた条件以上の高待遇で転職することができた。 「ファインセラミックを扱っていた人はいないか」「高圧ボイラーを設計できる人はいないか」というように、よく似たケースは技術系の職種ではときどきある。といっても、求人に見合う人材がタイミングよく登録しているとは限らない。

そんな巡り合わせで転職が決まるのは、宝くじ並みの確率だということだ。その前提で考えると、転職活動中に条件がピタリと合う求人に運よく巡り合ったなら、思い切って転職を決めるべきだといえそうだ。

どういう形にせよ、50代が転職を決意したらなら“守りの転職”を心がけてほしい。簡単にいえば、不要な冒険は自重し、これまで築いてきたものを守り切ることに全力を傾けるということである。そうやって、60代を迎えてからも元気に仕事を続けられる環境を築くことが、50代が転職を考えるうえで最も重要なポイントということになる。

60代になると雇用を取り巻く環境は大きく変化する。もちろんそれは、転職希望者にとって不利な状況へと変化するということだ。60代にしてなお精力的な人なら、「豊かな経験と知識を生かして、新たな職場で役に立ちたい」と考えるかもしれない。しかし厳しいようだが、その思いは片思いでしかない。

多くの会社は、基本的にシニアの力を必要としていない。しかも、産業技術が急速に進化している現在、ベテランの経験値が活きる場面は激減している。

だから私は、60代は「転職」するのではなく、「求職」するのだと主張してきた。身に付けた知識やスキルを生かして、次なる活躍の場を探すのが転職であるなら、自分の知識や経験を売り物にできない60代は転職できないことになる。

ではどうすればいいのかというと、業種・職種を限定せずに、自分ができる仕事を求めて探し回るしかない。だから転職ではなく求職なのである。それが現実だと割り切り、新しい視点で仕事を求めることをおすすめしたい。

60代はこれまでの「経歴」を捨てよう

新しい視点とは、ありていに言えばこれまでの経歴を捨てるということだ。定年前の役職やポジション、収入にこだわってはいけない。


ある企業が、シニアを対象に求人したいと当社に問い合わせてきたことがあった。給料はいくらぐらいか尋ねると、「年収300万ぐらいから」という答えが返ってきた。

当社に登録しているシニアの転職希望者には、大企業の重役を務め、かつては年収が3000万円を超えていたという人も少なくない。そんな人なら、年収300万円の仕事には目もくれないと思うかもしれない。しかし、現実は違う。この条件でもいい、ぜひ働きたいと積極的にアプローチしてきた元大企業重役の転職希望者が、思いのほか多かったのだ。

こうした事実が、シニアの転職市場の厳しさを物語っている。シニアが年収1000万円以上を超える高収入の仕事に就いた例もあるが、それはごくまれで、前にも述べたように宝くじに当たるようなものだと考えたほうがいい。

60代の転職では、基本的に選り好みをしないで、自分が必要とされているならどんな条件でも迷わず受け入れる柔軟さが求められていると知っておいてほしい。