大原浩氏

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 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長周辺の緊張感は極限状態か。米特殊部隊の「斬首作戦」動画が公開後、イラン革命防衛隊のガーセム・ソレイマニ司令官が殺害された。国際投資アナリストの大原浩氏は、北朝鮮が「クーデター封じ」に血道を上げているとみる。

 正恩氏は「クリスマスプレゼントを楽しみにしていろよな!」とトランプ大統領に妄言を吐いたが、結局プレゼントは届けられなかった。これは、「正恩斬首作戦」の訓練ビデオが公開(流出?)された影響が大きいと考えられる。米韓合同の特殊部隊が正恩氏役の男を拘束するシーンは本人に大きな衝撃を与えたはずだ。

 訓練は昨年12月8日から11日まで韓国で行われ、23日までに同国の主要メディアが報じた。ビデオ公開は米国の「プレゼント阻止作戦」であった可能性が高い。

 昨年末に平壌(ピョンヤン)で開かれた朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会は4日間という異例の長さで、しかも1000人という大人数で行われたとみられる。

 これは「プレゼント未遂」という失態を隠すためのものに見えるが、より本質的にはクーデター対策であろう。

 クーデター首謀者となりうる各分野の幹部の大部分を、正恩氏の目の前に長期間集結させ監視したわけだから、もしクーデターがひそかに計画されていたとしても実行は困難だった。しかもテレビ放映による自身の「新年の辞」は見送り、年末の党中央委員会総会の「結果報告」という形でお茶を濁した。

 かといって米国を刺激しないように強硬路線を「調整」すれば、経済制裁で疲弊している国内の不満は抑えきれない。12月22日には国連制裁による出稼ぎ労働者の帰国期限が到来したが、色々な抜け道を模索しているようだ。いずれにせよ、これまでよりも外貨収入が減ることは避けられない。

 「内憂外患」の正恩氏を震え上がらせたと思われるのが、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官が今年1月3日にイラクのバグダッドで米軍の空爆によって死亡した事件である。ソレイマニ司令官が斬首されたのは、ドナルド・トランプ大統領がイランと戦争を行いたいからではない。イラクという米国の核心的利益にイランが手を出していることに対する警告だ。

 1990年のイラクのクウェート侵攻をきっかけに、91年1月17日にイラクを空爆した湾岸戦争は米国の完勝だったが、4月6日に正式に停戦合意を行って、イラクのサダム・フセイン政権を温存させた。今となれば、このジョージ・ブッシュ(父)大統領の判断が賢明だったことが分かる。

 その後、2003年のイラク戦争でフセイン政権を打倒したのが米国の不幸の始まりだ。フセイン大統領は06年に逮捕され死刑に処せられた。イラクでは少数派であるスンニ派が力を失い、多数派であるシーア派が勢力を拡大した。米国自らが、イランがイラクを抱き込むことを手助けしてしまったのである。

 バラク・オバマ前政権によって11年に米国はイラクから撤退したが、14年に派兵を再開した。これまでに多くの米国の若者が犠牲になった。

 苦労して維持してきたイラクをイランの手に渡すわけにはいかないのが、米国の事情であり、「イラクでの空爆で斬首した」のは「イラクに手を出すな」という警告だと取ってよいだろう。

 米国の「斬首作戦」の遂行能力の高さが改めて証明されたことで、正恩氏は悪夢にうなされているのではないか。

 ■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。