ニコンとキヤノンが失速! パナとシグマが目指す デジタルカメラは万人向けから専門ニーズ時代に

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デジタルカメラ市場において、老舗カメラメーカーのニコンおよびキヤノンが業績予想の下方修正をしたことが報道された。カメラ市場の縮小傾向に歯止めがきかない状況が改めて明確となっている。

2018年の昨年は、この2社においてまだ手つかずの領域であった(35mm判)フルサイズミラーレスカメラ市場へ参入は業績プラスへの期待が大きかった筈だ。
ところが、大きな注目はされたものの売上に対する貢献度は低かったようである。そもそも、スマートフォンカメラの高性能化の影響により、勢いが落ちているデジタルカメラ市場においての新製品の投入は時期的に遅すぎたという見方もできる。


Nikon Z 6


このニコンとキヤノンが参入したフルサイズミラーレス市場は、
今から6年前の2013年にソニーが標準モデルの「α7」と高画素モデル「α7R」を投入。
2014年には高感度モデル「α7S」を投入した。
ライバル不在とは言え、ソニーは早い段階からフルサイズミラーレス市場におけるニーズに合わせたラインナップ展開と、「FEマウント」レンズの充実を図ることの重要性を理解していたと言える。

奇しくもニコンとキヤノンが参入した2018年は、ソニー待望の大口径望遠レンズ「FE 400mm F2.8 GM OSS」を発売し、プロのニーズにも応えられるラインナップが充実したタイミングであった。

ソニーの先行優位があったとはいえ、デジタル一眼レフカメラで確固たる地位を築いて来たニコンとキヤノンの2社が、ここまで苦戦したのは魅力的なフルサイズミラーレスのカメラボディを提供できなかったことがあるように思う。

1つは、業績において長年培ってきた技術の集大成とも言えるデジタル一眼レフという柱への配慮があると思われる。
もう1つは、明確なニーズを打ち出せなかったことにある。


Canon EOS R


ニコン、キヤノンともに、メインであるデジタル一眼レフ事業とは被らないミラーレスカメラの製品ラインアップを企画し、そこに買い増しというニーズを狙っていたのだろう。

しかし、ユーザーが望んでいたのは、デジタル一眼レフのサブカメラではなかった。
先行するソニー「α7」を超える、デジタル一眼レフの代わりになる製品であったように思う。

α7だけではなく、一眼レフの市場も喰ってしまうような、本気で作ったミラーレスカメラを待ち望んでいた層に対して、ニコン、キヤノンの新製品が魅力的に映らなかったと言える。

そしてフルサイズミラーレスカメラの新製品に、デジタル一眼レフを超える性能を期待していたユーザーに、
「これならデジタル一眼レフのままで良い」
こうしたモチベーションに後退させてしまったことで、自らの首をしめてしまう結果となったのではないだろうか。


とはいえフルサイズミラーレスは、ソニーでも最初から好調だったわけではない。
ニコンとキヤノンはユーザーを振り向かせられる技術をもったメーカーなので、今後の本気度と製品のグレードアップには期待したいところである。

ところで暗い話題が続くデジタルカメラ市場だが、明るい未来はないのだろうか。
実は、ユーザーニーズにマッチしたヒット製品を出しているメーカーがある。

それは、高性能なレンズでプロにも支持されているレンズメーカーのシグマが10月25日に発売した「SIGMA fp」(以下、fp)だ。


SIGMA fp


このfpの特徴は、動画撮影、とくにシネマ撮影に特化したことにある。
初心者が使う上で撮影の設定など面倒なことが多いのだが、必要とする層にはピッタリとハマる、まさにニーズをしっかりと読み切った製品なのだ。

ニコンやキヤノンのミラーレスカメラも、動画撮影機能があるのだが先行する他社を凌駕する機能をもっていないことが、fpのようなユーザーを取りこぼしているように思う。

fpのズバリ良いところは、コンパクトなボディながら無制限に動画撮影が可能であること、拡張性が高いこと、そして必要なプロの現場で必要な機能に特化したことによるコストパフォーマンスの高さだ。

評価されているコストパフォーマンスの高さとは、全部入りのお買い得感を特徴としているニコンやキヤノン、そしてソニーのミラーレスカメラとは逆の、必要な機能だけに絞った“思い切りのよさ”にある。

現在、動画も手軽にスマートフォンで撮影できるようになり、静止画同様にニーズは有るが、使い勝手の良いスマートフォンに集約してしまう傾向がある。

こうした背景から静止画だけではなく動画に至っても、新たに初心者を掘り起こすことは難しい。
以前は、スマートフォンからのステップアップというニーズを想定した製品づくりも成功していたが、市場の動きを読み解くとそのニーズにも大きな期待ができない状況へと変化しているようだ。


シンプルな構成の高画質記録向けSSD接続のデモ機。USBケーブルでSSDが接続可能だ


つまりfpで示されたのは、必要としているユーザーに対して、魅力的で的確な製品づくりが必要であると言うことである。

最後に、最後発となるパナソニック「LUMIX DC-S1H」について振れておこう。
パナソニックはニコン、キヤノンよりも遅い2019年3月にフルサイズミラーレス市場に参入している。




LUMIX DC-S1Hは静止画・動画ともにプロをターゲットにした製品だ。

ミラーレスカメラボディは、一眼レフカメラよりもコンパクトにできるが、S1シリーズはその逆に一眼レフカメラの大きさのボディにすることで、内部容量(空間)を大きくすることが可能となり性能を維持するためのクーリングに役立てることができる。

こうした設計によって、
・フルサイズイメージセンサーで時間制限なしで4K 30P動画を撮影可能である
・フレーム数がさらに倍の滑らかな4K 60P動画を29分59秒撮影できる
という安定した動画記録を実現している。

パナソニックは「DC-S1R」と「DC-S1」の2モデルを
・高画素モデルの「DC-S1R」をプロフォトグラファー向け
・静止画と動画のハイブリッドモデル2420万画素の「DC-S1」をハイエンド向け
このように位置づける。
このことから、動画撮影のプロ向けモデルはDC-S1なのだと理解していたが、ハイブリッドモデルと称していることから、製品の押し出しに物足りなさを感じていたのも事実だ。

一方で、このコンセプトはニコンやキヤノンにはない明確なターゲットを想定したもので、ソニーのα7シリーズを必要としているユーザーもターゲットとしており、業務として使用しているフォトグラファーやビデオグラファーをピンポイントに狙った製品である。

新製品のDC-S1Hは、動画に特化した機能とハードウェアを搭載したシネマ向けのカメラである。




最後発のシグマfpにコンセプトは近く、プロ仕様のカメラとしての信頼性や堅牢性を追求しており、防塵防滴性能はもちろんだが、長時間撮影時のイメージセンサーや画像処理エンジンの発熱に対応するために、ボディ内に静音ファンを内蔵して信頼性を向上させているのである。


映画撮影用にシステムを組んだデモ機


DC-S1Hは50万円を超える価格設定で高価なイメージを受けるが、実は、数百万もするプロ機材と比較すると破格の安さで業務利用できる。

冒頭で、フルサイズミラーレス市場においてニコンとキヤノンが期待された結果を出せなかったことに触れた。
その一方で、シグマとパナソニックが、フルサイズミラーレス市場において、ピンポイントなニーズに応える製品を世に送り出してきた。

縮小し続けるデジタルカメラ市場では、新しいユーザー層を取り込むことは難しい状況だ。万人に受ける製品ではなく、ニーズに合った、期待値を超える製品が必要な時代になったと言える。


執筆  mi2_303