ゲトラグ製6速MTを積む電気マッスルカー「マスタング・リチウム」フォードが開発中
フォードのマスタングといえば米国のスポーツカーを代表するマシンであり、自動車好きなら一度は運転してみたいと思うクルマのひとつ。そして野太い雄叫びをあげる5リッター自然吸気V8エンジンを手懐けるには、最新モデルの10速ATよりも6速マニュアルミッションが相応しいと誰もが思うことでしょう。

しかし、フォードはいま、マスタングのEVバージョン「マスタング・リチウム」を独ベバストとともに開発しています。電動になれば強大な馬力とトルクを獲得できるかわりに、あの雷鳴のようなエキゾーストノートとギヤボックスが失われ、コーナーへダイブする際の小気味よいダウンシフトも味わえなくなってしまいます。

ところがフォードは、この駿馬には少なくともシフトレバーが必要だと考えているようで、900馬力の電動機にドラッグレースにも対応するゲトラグ製6速トランスミッションを組み合わせることを明らかにしました。ブレーキングとダウンシフトでマシンをねじ伏せるあのスリルと喜びが、EVになったマスタングでも、排気ガスで大気を汚染することなく味わえます。マスタング・リチウムには電圧800Vのバッテリーシステムが搭載され、最大1MWの放電特性で高いパフォーマンスを引き出すとされます。出力はコクピット内の10.4インチタッチパネルで調整でき、トルク設定を「Bullet」モードから「Beast」モードまで選べるとされます。

お金を気にすることのないクルマ好きならきっとこのマスタング・リチウムの発売がいつになるのかが気になっていることでしょう。残念なお知らせです。フォードはこの特別な電動マスタングは"ワンオフ"、つまり1台限りのものだと述べ、それがバッテリーシステムの冷却や効率を試すテストベッドであり市販されるためのものではないと協調しました。また、テストで良好な結果が得られたとしても、近い将来にややマイルドな市販版「マスタング・リチウム」が登場することもなさそうです...。

せめてもの慰めとしてお伝えしておくならば、フォードは現在より実用面を強化した「マスタングにインスパイアされたSUV」を開発中で、これが11月17日に公開される予定。こちらは2020年には販売を開始する予定。フォードはさらにフルサイズピックアップトラックF-150の電動バージョンも数年以内に発表する予定です。レーシングカーやスポーツカーが"走る実験室"と形容されたのはもうかなり昔の話ですが、マスタング・リチウムとともにこれから開発される技術は、おそらくこれらの"より売れるクルマ"たちに提供されていくはずです。

ちなみにマスタング・リチウムでフォードと協力するベバストは、サンルーフや電動ソフト/ハードトップ技術に秀でた企業。その日本法人はこれまでにダイハツ・コペンのデタッチャブルトップ、マツダ・ロードスターのリトラクタブルハードトップなどを開発してきた実績があります。またトラックやキャンピングカーで使用される、エンジンを切ったまま燃料を使って車内を暖められる「ベバストヒーター」でも知られています。