保育園に子どもを預けて働くと「母親失格」?

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「義母から『保育園に子どもを預けて、楽な子育てをしているあなたは母親失格だよ』と言われた」

 ネット上に投稿された、あるワーキングマザーからの相談が話題になっています。女性は経済的に苦しいからではなく、仕事にやりがいを感じて正社員として働きながら子育て中とのこと。専業主婦として子どもを育てた義母は、女性に対し、「面倒なことは全部保育園に見てもらっている」「全然子育てをしていない」などと繰り返し、投稿者の夫も「(妻は)楽しているんだから、子育てを手伝わなくてよい」という姿勢だといいます。

 保育園に子どもを預けて働くのは「楽をしている」ように見えるのだろうかという女性の疑問に対し、ネット上では、「楽なわけがない」「働きながら育児しているけど毎日くたくたです」「義母も夫も想像力が足りていない」といった怒りの声や、「専業主婦ですが、ワーママだった義母に『楽でいいわね』と嫌味を言われている」といった逆パターンの体験談など多くの意見が上がっています。

 専業と兼業、そして夫や義母との関係…さまざまな立場や価値観が交錯する現代の子育てに、女性はどのように向き合っていけばよいのでしょうか。子育てアドバイザーの雨宮奈月さんに聞きました。

夫婦間のコミュニケーション不足?

Q.まず、この相談内容について、子育ての専門家としてどのように思われますか。

雨宮さん「単純に夫婦間の話し合いが足りていないと思います。批判を覚悟で正直に申し上げますと『妻も夫も、どっちもどっち』なのです。そして『保育園に預ける=母親失格』というお義母(かあ)さまはお考えが古く、言葉のチョイスを間違えたと思います。

まず、現代の子育てにおいて、さまざまなツールを使いこなせているお母さんはとても素晴らしいです。保育園や幼稚園、延長保育、ファミリーサポート、時短レシピ…どんなものでも上手に活用して、家族の生活が上手に回るような選択をしているのであれば全く問題ありません。

自分の家族にマッチした形の子育てをすればよいですし、それらを選択できるのが現代の子育てです。選択肢の少なかった祖父母世代にはなかなか理解できないかもしれませんが、だからといって話し合うこともせず、いきなり『母親失格』と言うのは、とても残念でショッキングなことです。

夫婦間でお互いに納得している問題であれば、他の人に何を言われても夫婦で向き合えばよいのですが、今回の内容を見る限り、ご主人が納得していないのではないかと思います。『子育てを手伝う』という発言から、ご主人やお義母さんには『子育ては母親がするもの』という認識があるのでしょう。ご主人とよく話し合って、お仕事を始めておられるのかが気になります」

Q.育児中において、異なる立場の専業主婦とワーママはそれぞれ、時に相手の立場をうらやましく感じることもあるようです。

雨宮さん「環境や立場が違えば、感じ方も人それぞれに違うものです。働きたくてワーママをやっていても、家族の協力の有無で大変さは異なるでしょうし、専業主婦でいたいのに働かざるを得ない人もいます。また、『保育園に空きがない』『さまざまな条件がマッチしない』『家族の理解を得られない』などのために働けない人もいます。

それぞれ違った立場と環境で精いっぱい子育てをしている中で、不平や不満を言っても仕方ないとは分かっていても、どうしても“ないものねだり”をしてしまうこと、また、どうしても『自分の庭の花よりも、隣の花の方がきれいに見えてしまう』ことはあります。しかし、人をうらやんだり、ねたんだりする気持ちはとても自然なこと。こうした感情にふたをせず、とことん向き合ってみることが大切です。

相談者のお義母さんもきっと『私の子育て中にも、働くという選択肢が欲しかった』『あなたばかり選択の自由があってずるい』とうらやましがっているのでしょう。もちろん、言っていいことと悪いことはあります。現状、相談者が子育てを頑張っていることは誰にも否定できません」

Q.もし相談者が義母に反論するとしたら、どんな内容を、どのように言えばよいでしょうか。

雨宮さん「本来は、夫婦間で話し合いをして、子育てにおけるスタンスを共通認識にしておけば、義母に反論する必要もありません。つまり、『私たちには私たちのやり方があります』で済むのです。しかし、今回の場合、もし相談者が夫の理解を得ることなく、また、子育てに対する考えを夫婦で事前に取り決めることなく仕事をすることを強行してしまっていたのであれば、義母に反論する前に夫とじっくりと向き合うべきでしょう。

もし本当に、義母に自分の思いを理解してもらいたい気持ちがあるのなら、ただ正論を返すのではなく、相手の言葉の意図を受け止めることも大切です。なぜ義母がそこまでの言葉を放ったのか、彼女にも我慢のならないことがあったのではないかと想像を巡らせてみましょう。

そして、その上で、『お義母さんと同じ子育てができず、申し訳ありません。お義母さんのような子育ては私には向いていないので、私が思う最善の子育てをしています』と、そもそも別の思想の持ち主であることを伝えましょう」

Q.考え方や価値観の異なる義母に厳しい言葉を言われたり、関係に悩んだりしている女性は、専業・兼業問わず少なくないようです。

雨宮さん「元々は、別の環境で育った別の家庭の人間なので、価値観が違って当たり前です。また、女性同士だからこそ気になったり、言われたくなかったりする言葉もあります。育児中のお母さんは、過剰に防衛本能が働くもの。お互いに、常に相手をおもんぱかる想像力を持って接することができればよいのですが、子どもを大切に思うからこそ、育児というテーマになると価値観の違いが目立ちます。

嫁の立場であれば、できるだけ面倒がらずに、自分たちにも子育てについての『きちんとした考えと理想』があることを伝え続けることです。そして、姑の立場であれば、自分たちの理想や希望は伝えてもよいですが、基本は息子夫婦を信じ、口を挟まないことです。価値観を押し付けないことは、家族間における大切なマナーでしょう。

相手の立場を想像して、相手の環境を思いやって、どんな相手にも言葉のチョイスは丁寧に、女性同士だからこそ慎重に伝え続けてください」