あなたは商品じゃない! Webブラウザ「Brave」が目指す新しいインターネット広告の世界

写真拡大 (全8枚)

パソコンでも、スマートフォンでも、インターネットを利用すると広告が表示される。いまや、広告がないとインターネットは成立しない。
さらに、その広告を表示するために、大量の個人情報が使われている。

しかし、それは本当に正しい世界なのだろうか?

Webブラウザ「Brave(ブレイブ)」が目指しているのは、今とは異なる世界だ。
プライバシーが大切にされた新しいインターネット広告の世界を体験したい方は、ぜひ試してみよう。


●「広告」で成立している現在のインターネット
いまや「インターネット」と「広告」は、切っても切れない関係にある。GoogleやFacebook、YouTube、Twitterなどのさまざまなサービスが無料で使えるのも、すべて広告のおかげだ。

しかも、昔に比べると無関係な広告を見せられる機会は圧倒的に減った。
たとえばテニスが趣味で、Googleでいつもテニス関連の情報を検索していれば、どのWebサイトを訪れても、テニス関連の広告が表示されるようになる。

これは、ユーザーのWeb上での活動や行動の情報がサーバに送られて、ユーザーの動向にマッチングする広告を選択するために使われているからだ。いまや、広告には一人一人の趣味嗜好が反映される時代なのである。
人工知能が進化すれば、この傾向はさらに強まるだろう。
便利といえば便利だが、一種の「不気味さ」「怖さ」を感じる人も少なくないはずだ。

こうした広告の仕組みによって、ユーザーが得られるメリットは「利便性」だ。
実際に、必要としている情報が広告に表示されて助かった、という人も多い。

一方、デメリットもある。それが次の2つだ。
・Webのパフォーマンス
・プライバシー

いまや、どのWebサイトを表示しても広告が表示される。その分、表示には時間や通信量などがかかり、パフォーマンスは低下している。

プライバシーも重要な問題だ。個人がどんな情報を見ているかという活動情報は、ある意味、究極の個人情報だからだ。その情報が、仮に広告だけに利用されるとしても、第三者に使われるのは。決して気持ちのよいものではない。

Webブラウザの「Brave(プレイブ)」は、こうした問題の解決を目指して開発された。
以下は、Braveのホームページのトップに書かれているメッセージである。

「あなたは商品ではありません。
なぜ、あなたは、あなたを商品のように扱うブラウザを使うのですか?
Braveでプライベートで安全な高速ブラウジングをお楽しみください。」



Braveのホームページ(https://brave.com/)。



広告を減らして、スピードとプライバシーを重視したWebブラウザ「Brave」
Braveは、Brave Softwareが開発しているWebブラウザ
Google Chromeと同じChromiumをベースにオープンソースで開発されており、Windows版やmacOS版だけでなく、iOS版やAndroid版も用意されている。開発したのは、JavaScriptの開発者であるブレンダン・アイク氏だ。

Braveの最大の特徴は、広告をブロックする機能が最初から組み込まれていることだ。
ただし、すべての広告をブロックするわけではない。ユーザーの行動を追跡するトラッキングを行わず、広告配信側のデータだけを使用する広告はそのまま表示される。

以下は、BraveとChromeでYahoo! JAPANを表示した画面だ。
Braveでは、広告が抑制されているのが分かるだろう。


BraveでYahoo! JAPANを表示した。



Google ChromeでYahoo! JAPANを表示した。


広告を表示しないため、Webの表示速度は速い。
Chromeなどのブラウザでは、Webの本体が表示されたあと、少し間を置いて広告が表示される。しかしBraveでは、一部の広告表示がされない分、サクサク表示される。

また、新しいタブでは、ブロックされた広告の数と、広告をブロックしたことで節約された時間の推測値が表示される。余計な広告を見たくない人には、うれしい仕掛けだ。


新しいタブには、ブロックした広告数と節約できた時間が表示される。


なお、Chromiumベースなので、操作性はChromeとよく似ている。また、Chromeと同じ拡張機能も利用できる。

Webの履歴等を残さないプライベートウィンドウも強力だ。
接続経路を匿名化するTor(トーア)に対応し、自分のIPアドレスを秘匿できる。
これにより、利用しているサービスプロバイダや企業のシステム管理者に対しても、自分が訪れたサイトを隠すことが可能になるという。


Torに対応したプライベートウィンドウが用意されている。



Chromeと同じ拡張機能も利用できる。



●Webを見ただけで仮想通貨が手に入る? 新しいネット広告モデルを目指す
Braveのもう1つの特徴が、Webサイトを表示するだけで仮想通貨の一種であるBAT(Basic Attention Token)を手に入れられることだ。

広告そのものを否定すると、現在のインターネットは成立しない。
Braveも、広告をすべて否定しているわけではない。
ただし、現在の広告ではユーザーの個人情報が過剰に利用されている。また特定の企業にだけ広告利益が集中し、ユーザーには選択の自由が少ない点が問題だと考えているようだ。

そこで、Braveでは、ユーザーの不利益が少ないトラッキングなどを行わない広告は、そのまま表示させている。さらに、Braveが提供する広告プラットフォームに参画する企業の広告は配信している。これらの広告は、ユーザーのプライバシーに配慮した広告である。

そして、ここが面白いのだが、
Braveを使ってこれらの広告を見たユーザーには、仮想通貨のBATが配られるのだ。
これは、広告を見てもらったことに対する感謝料といったイメージだ。
ユーザーは、Webを見るだけでBATが貯まるので、ゲーム感覚でBraveを利用するようになり、Braveを使うユーザーが増えていく。

また、Braveの広告を配信したり、コンテンツを制作したりする側に、貯めたBATを寄付する仕組みも用意されている。


Webサイトで広告を見たユーザーには仮想通過のBATが配布される。これは。獲得した貨BATの管理画面だ。


この新しい仕組みによって、ユーザーのプライバシーを守り、トラッキングなどで発生するトラフィックを減らしてインターネットの負荷を下げる。
そしてユーザーのプライバシーに配慮した広告で発生した収益を、特定の企業だけに集中させない新しい広告モデルをインターネット上に作ろうとしている。

こうしたプラットフォームが、Braveが目指している世界のようだ。
あえて「ようだ」と書いたのは、筆者も完全にBraveが目指す世界を理解しているわけではないからだ。また、このモデルが成功するかどうかも、まだよく分からない。

ただWebブラウザとしてみれば、余計な広告が表示されないし、サクサク動作するので快適なブラウザであることは間違いない。
Chromeなどのブックマークや履歴をインポートする機能もあるので、Chromeから移行しても違和感なく使えるだろう。

Braveは、現在のインターネット広告モデルとは異なる新しいの世界を目指している。
そんな Braveの魅力を一度、試してみてはいかかだろうか。

Brave


井上健語(フリーランスライター)