最前線で体を張り続けた稲垣(右から2人目)【写真:荒川祐史】

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一躍注目を浴びた日本のスクラム、最前線で体を張り続けた稲垣にとっての課題と収穫

 ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会は20日、東京スタジアムで準々決勝が行われ、日本は南アフリカに3-26で敗れた。4強入りはならず、快進撃もストップ。健闘及ばず涙をのんだ。今大会で一躍、日本のストロングとして注目を浴びるようになったスクラム。最前列で体を張ったPR稲垣啓太は、世界屈指のフィジカルを誇る南アフリカに対しては反省を口にしつつも、「長谷川コーチとやってきたスクラムが世界に通用することが証明できた」と胸を張った。

“笑わない男”として一躍、脚光を浴びた稲垣。試合後はピッチに出て、仲間と健闘を称えあうと、思わず男泣き。試合中はなかなか感情を表に出さないポーカーフェイスが感極まった。

「南アフリカのセットピースは非常に強力でしたし、そういう南アフリカさんの強みが出てしまった、出させてしまったなという感じですね」

 フロントローの一角として、強靭なフィジカルを誇る南アフリカと激しくぶつかった。前半10分には危険なタックルで相手がシンビン(一時退場)となる場面も。後半8分に中島イシレリと交代するまで、肉弾戦を挑み続けた。

 間違いなく強みとなった今大会の日本のスクラム。アイルランド、スコットランドには押し負けず、世界を驚かせた。この日も真っ向勝負を挑んだが、世界最高峰の南アのFW陣に対しては後手に回るようなシーンもあり、「前半最初のファーストスクラムはちょっとコールが聞こえなくて、それでペナルティ取られましたけど、それからほぼ問題なかったですね。ペナルティを取ったシーンもありましたし。ただ、後半になって、その辺の境界線が曖昧になってしまってペナルティを重ねたシーンもあったんですけど、やっぱりいいスクラムも当然あったし、ただ、今日は悪いスクラムが先行してしまった感じですね」と悔しさも覗かせた。

 さらに日本がセットピースを強みとするために、何が必要なのか。「もっと向上させる必要があります。結局、今日はそこで南アフリカが全面に出してきましたから。セットピースは継続して向上が必要なんじゃないですかね。

 まずしっかりボールに対してコンタクトすること。相手がラインアウトでアタックしてきた時に空中で競ること。もし取れなくても相手のパワーポジションを崩すことでモールの力を相殺することをねらっていたんですけど、やはり南アフリカのラインアウトが非常に優秀でスキルも高かった。当然サイズも高かった」と相手の技術の高さを認め、さらに磨き上げていくことが必要だと強調。

 そのうえで「まずペナルティをしないことをやって、前半はそれができた。セットピースに対するディシプリン(規律)が勝敗を分けたんじゃないですかね」と冷静に分析した。

目標だった決勝トーナメントには進んだが「誰もベスト8で満足していない」

 確かにペナルティの増えた後半に失点を重ね、トライも立て続けに奪われた。その点は課題として即座に振り返った。

 だが、1次リーグの4戦の中でティア1の強豪と真っ向勝負で渡り合い、日本にスクラムありを見せつけたのも、これまで取り組んできた成果だと強調する。

「長谷川(慎)コーチとやってきたスクラムが世界に通用することが証明できたのは、選手全員が喜んでいるんじゃないですかね。全員が慎さんをリスペクトしていましたし、慎さんが話すことにみんなが耳を傾けていたので。

 ただ、その中でW杯で一番自信を持てた瞬間っていうのは、アイルランドとのスクラムでターンオーバーを奪ったシーンじゃないですかね。ティア1に対してああやって相手を押し込んで、ターンオーバーすることができるんじゃないかと、そういったことを証明できたんじゃないですかね」

 こう振り返り、充実感も口にした。目標だった8強には到達した。この結果を次に、4年後にどう生かすのか。

「誰もベスト8で満足していないでしょうし、次の目標を見据えることが非常に大事だと思う。ベスト8の目標がかなった以上、次に進む必要があると思いますし、今度は予選リーグを勝ち抜いて、こういった勝てば次に進めるというファイナルラグビーに対して、どういうことが大事になってくるのか。そういう部分を4年で詰めていく必要があるんじゃないですかね」

 最後まで笑って終えられるのは1チームだけ。“笑わない男”はすっきりした表情で、早くも新たな挑戦を見据えた。(THE ANSWER編集部・角野 敬介 / Keisuke Sumino)