著名投資家のジム・ロジャーズ氏は「今後、私の人生で一番のベア(弱気)マーケットに突入する」と警告する。左は経済キャスターの江連裕子氏(撮影:今井康一)

米中貿易戦争が長期化するなかでも、NYダウ平均株価は再び過去最高値圏に浮上している。一方で世界景気の悪化懸念は消えていない。個人投資家は今後どう行動すべきか。世界を代表する投資家のジム・ロジャーズ氏に、経済キャスターの江連裕子氏が聞いた。

トランプ大統領は他国に責任転嫁をしている

――現在の米中貿易戦争の行方はどうなりますか?

残念ながらアメリカのドナルド・トランプ大統領は、貿易戦争はいいものだと思っている。彼は常々そう考えてきた。彼は歴史的な現実を理解しようとしない。自分が歴史よりも賢いと思っている。だから、彼のせいでわれわれはすでに貿易紛争に巻き込まれている。中国だけではない、メキシコ、韓国、日本、全世界がだ。

今後、問題はさらに悪化するだろう。時折、事態は良くなるというアナウンスがされ、われわれも「良くなっている」と実感することもあるかもしれない。しかし、今後1〜2年でアメリカの状況が悪化していくと、彼はさらに酷い貿易戦争を仕掛けるだろう。そうなると、全世界が極めて大変な問題に直面する。なぜなら、トランプ大統領は世界がどのように回っているかを理解していないからだ。なので、皆さんは心配すべきだ。

――米中両大国の交渉決裂はあり得るのでしょうか?

時には状況が改善することもあるかもしれない。だが、基本的には悪化する方向だと見る。なぜなら、トランプ大統領は問題に直面した時に、「私が間違っていた」とは決して言わず、「あいつらが悪い」というからだ。韓国やドイツに向かっても「あいつらのせいだ」、と。結局は、さらなる貿易戦争で対抗するだろう。

――トランプ大統領は中国に「関税攻撃」を仕掛けましたが、結局アメリカの対中貿易赤字はほとんど減っていません。


「もし賭けろと言われたら、私はトランプ大統領が再選する方に賭ける。投票はしないけどね」(撮影:今井康一)

対話は継続しており、どこかのタイミングでは「両者とも状況は改善した」と言うだろう。実際に、しばしの間は改善するだろう。市場は回復するだろうし、アメリカも何か手を打つだろうし、中国も手を打つだろう。

繰り返しになるが、アメリカが再び困難に直面し始めたら、トランプ大統領は他の国のせいにし、貿易戦争を激化させるだろう。

今後、貿易戦争が改善に向かっていると思うこともあるかもしれないが、実際には悪化していく。そして世界中で深刻な問題に直面するだろう。

――「アメリカの中国たたき」は決して上手くいっているようには見えませんが、2020年の大統領選がカギを握っています。トランプ大統領は再選されるでしょうか?

難しい質問だ。ほとんどのアメリカの現職大統領は再選されている。いろいろな理由があり、(再選出馬した)現職の大統領を負かすのは極めて難しい。なので「賭けろ」と言われたら、私はトランプ大統領が勝つ方に賭ける。ただし、私は彼には投票しないけどね(笑)。

債券バブルは「今までで最もひどいバブル」

――現在の「債券バブル」をどう見ますか? もし崩壊するとしたら、何がその原因で、その後どうなりますか?

債権バブルはあらゆるバブルと似ているが、これまでで最も酷いバブルだ。もしバブルがはじけたら、極めて多くの人々が甚大な損失を被るだろう。世界の歴史の中で、金利水準が世界中これほどの規模で低下したり、マイナス金利となった例はない。

――これに関連して、MMT(現代貨幣理論)についてどうお考えでしょうか?ロジャーズさんは賛成ですか、反対ですか?それはなぜですか?

MMTは(ちょっと)ばかげていると思う。いろいろ試されてはいるが、もしMMTが事実なら、いま世界で1番お金持ちの国はジンバブエだったはずだ。アルゼンチンもとても裕福になっているはずだ。私は(MMTは)ばかげていると思う。「タダ飯」なんてものは、世の中に存在しないのだから。一時的には効果はあるかもしれないが、長期的にはしっかりと裏付けされたお金がないと、全てが瓦解する。

 ――これから、マーケットはどうなるのでしょうか?ドル安円高が進み、日本株が大きく下落する可能性はありますか?

私は米ドルを多く保有している。米ドルはほとんどの通貨に対して値を上げている。つまり、ほとんどの通貨は下がるということだ。日本円は他の通貨に比べたらそこまでは下がらないかもしれないが、それでも下がる方向だ。

一時的に1ドル=100円を割る可能性はあるかもしれないが、そうした水準は長く続かないだろう。私は円安傾向だと思っている。日経平均が大きく下落する可能性?可能性はあるかもしれないが、私には分からない。市場のタイミングを読むのは得意ではないので。

今後、2〜3年のうちに相当厳しい相場に突入する

――では、ロジャーズさんは今、何に注目していますか?株ですか、不動産ですか?それとも金(ゴールド)ですか、キャッシュでしょうか?

今は全てを注視している。不動産というが、どこの不動産か?不動産は「どこの」「どんな」不動産かで全く違ってくる。

ニューヨークの不動産は買わないだろう。上海もどうか。ロシアや中国の田舎の不動産は買うべきかもしれないね。今、上海のマンションは買わないけど、中国で農場を買ったら、すごく儲かるかもしれない。金は保有しているし、銀も保有している。いまはどちらも買い増していないけど、持ち続けてはいる。

――「有事の金買い」ではありませんが、金価格が今後ドルベースで史上最高値を更新して、1トロイオンス=2000ドル超になる可能性はありますか?

直近ではないだろう。将来的に2000ドルを超えるかもしれないが、今は違う。しばらく、金は下がるだろう。なぜかと言えば、金の価格が急伸しているからだ。急激に上がったものはなんでも下がるものだ。私は金を保有しているが、今は買い増そうとは思わないね。

――日本の投資家は今後、どうすればいいでしょうか?

かなり注意した方がいい。今後2〜3年のうちに、私の人生で一番のベア・マーケットに突入する。2008年のリーマンショック不況は過剰債務によって引き起こされたが、その後、世界中の債務はその時よりも大幅に増えている。今度、問題が発生した時には、もの凄くひどい状況になるだろう。