パスタじゃなくて、スパゲティ。

前者には感じない郷愁を“スパゲティ”から感じるのはなぜか。

それはスパゲティが日本の文化として独自の進化を遂げたから。

郷愁があって、どこか懐かしい。そんな日本が誇る懐かしのスパゲティ事情を完全網羅!

まずは、66年に渡る日本のスパゲティの歴史を年表形式で振り返り、その中から、いま食べるべきひと皿をご紹介!


◆知っておきたい、日本スパゲティ年表


人気のスパゲティ店は、一店ごとを見ていくとバラバラに見えるが、実はしっかりとした系譜が存在している。

大きく、『ハシヤ系』『ロメスパ系』、それ以外という風に分けることができる。


独創性の賜物! 日本のスパゲティの歴史はここから始まる!


スパゲティの歴史がはじまったのは、1953年に渋谷『壁の穴』が誕生したことから。

同店が「たらこ」など、和の食材を使い出したことで、イタリア由来のパスタ文化とは違う、独自の文化が生まれた!

・1953年…『壁の穴』(渋谷)が創業
・1967年…『ハングリータイガー』(虎ノ門)がイタリアンレストランとしてオープン



『壁の穴』は渋谷のほか、関東では原宿と千葉に。札幌、大阪にもお店を構える

『ハングリータイガー 』は2012年にリニューアル。店内にはオープン当時の写真なども飾られ、レトロな雰囲気
伝説の代々木八幡『ハシヤ』が一斉を風靡! かたや、ロメスパというジャンルも


代々木八幡に『ハシヤ』が誕生し、以降、『ハシヤ』出身のお店が増えていく。

わかりやすい見分け方としては、「たらこ」メニューが木の器であること。

「たらこスパゲティは熱々が一番で、冷めると味が変わってしまう。熱を保つために木の器にしている」という。

さらに、炒めスパゲティが特徴の「ロメスパ」もこの時期に誕生。

・1972年…『ハシヤ』(代々木八幡)創業。店主は『壁の穴』出身 ※2018年3月に閉店
・1973年…ロメスパの祖『リトル小岩井』創業 ※現在、改装中につき、10月1日にリニューアル
・1976年…『ダン』(目黒)オープン
・1978年…『ハシヤ』(新宿)オープン
・1979年…新宿センタービル内に『あるでん亭』オープン
・1980年…今も抜群の人気を誇る『ジャポネ』(有楽町)オープン。創業者は『リトル小岩井』出身


スープスパゲティという新たなジャンルが生まれ、全国に広まっていく!


お皿ギリギリまでスープが注がれた、スパゲティらしからぬビジュアルで話題に。

しっかりと食べ応えもあり、以降スパゲティの一ジャンルとして確立した。

・1983年…『スパゴ』(北参道)オープン
・1984年…『パスタビーノ・ハシヤ南口店』(立川)オープン
・1988年…『ホームズパスタ』の登場で、スープパスタに脚光



センター街からほど近い場所に位置する『ホームズパスタ』。アットホームな雰囲気は創業当時から


90年代、00年代、いまも人気のスパゲティの名店が続々と登場!

『ハシヤ』系列のお店が続々と登場し、人気を集める。吉祥寺『スパ吉』といった行列店もできる。

2018年には惜しまれつつ、代々木八幡の本家『ハシヤ』が閉店し、多くのファンが悲しんだ。

一方、最新店『TOKYO SPAGHETTI IBUSANTOCO』は、『ハシヤ』系列の恵比寿『アンクルトム』の出身。

店主の指宿さんは『ハシヤ』に魅せられた張本人であり、その味を継承する意思は強い。

・1990年…『ハシヤ 幡ヶ谷分店』オープン
・1993年…『アンクルトム』(恵比寿)オープン、連日行列を作る
・1995年…『マイヨール』(八丁堀)オープン
・2004年…『スパ吉』(吉祥寺)オープン、爆発的人気に
・2007年…『スパゲティ心』(人形町)オープン
・2007年…『スパゲティ麦小家』(外苑前)オープン
・2013年…中目黒に『関谷スパゲティ』オープン。店長は『リトル小岩井』出身
・2018年…『TOKYO SPAGHETTI IBUSANTOCO』(白金高輪)オープン



『TOKYO SPAGHETTI IBUSANTOCO』は白金の焼肉店『金竜山』のそば。オーナーが元慶應生のため、夜限定で日吉にあった『マリーン』の味を再現したメニューもあり(詳細はお問い合わせを)


駆け足で歴史を見てきたが、いかがだっただろう。この他にも、年表に頻出する「ロメスパ」系も人気。

これは、路傍のスパゲティという意味。茹で置きした麺を炒めて仕上げていくのが特徴で、有楽町『ジャポネ』が代表格。

このように、歴史を紐解いていくと、日本のスパゲティの進化は先人たちの創意工夫の賜物とわかる。

いずれも独創的で唯一無二。そして、とことん日本人向け。だからこそ、こんなに我々の生活に馴染んでいるのだ!

さらに、長らく動きのなかった、この界隈に新店『TOKYO SPAGETTI IBUSANTOCO』ができたのは明るいニュース。

ということで、この年表から特に重要とされる4軒にスポットを当ててご紹介。

一体、どんなスパゲティが楽しめるのか?



いますぐ行ける、日本のスパゲティの代表的な4軒がこちら!




約66年前に生み出された日本のスパゲティの元祖!
『壁の穴』の「たらこスパゲティ」

1953年創業。まだまだイタリア料理は日本人に馴染みが薄かった時代に、スパゲティが身近になるようにと創業者が試行錯誤。

日本独自のスパゲティを生み出すべく研究した結果、「昆布粉」を入れると日本人の味覚にフィットする味になることを発見。

これが後の「和風スパゲティ」の隆盛へとつながった。

客からの要望で作ったキャビアのパスタをベースに生まれた「たらこスパゲティ」は¥1,058。

これが、日本における「たらこスパ」のはじまりなのだ。

そのほか、納豆や釜揚げしらすなどの和の食材も『壁の穴』が使ったことにより、スパゲティの具材として定着した。

研究熱心だった創業者が「丼やお茶漬けに使う食材ならスパゲティにも合うはず」という発想から選んだという。

66年たった今でも、その味は健在。

「たらこ・しらす・しそ」など、たらこベースのメニューも常時6種類揃うので、何度も訪れて新しい組み合わせを試してみたい。



スパゲティとの相性抜群な釜揚げしらす

納豆はたまごなどとともに混ぜ、エアリーな食感

場所は、渋谷の道玄坂近く。世代を超えて通う人が多い、まさに老舗



イタリアンの技が光るボリューミーな一品!
『ハングリータイガー』の「ダニエル」

虎ノ門で今も人気のイタリアンレストラン。

常連にファンも多い「ダニエル」¥1,000はたっぷりのハムとベーコン、そぼろ状の卵が2.1mmの太麺に絡む。

大盛(+¥150)なら260gの圧倒的存在感から今に続くロメスパの源流と思うが、さにあらず。

先代シェフはあの飯倉『キャンティ』出身。「炒めるのでなく乳化しろ」が口癖で、一体感ある仕上がりに知恵と工夫で本物を志向した王道の系譜を実感。



虎ノ門の路地にある『ハングリータイガー』は、ピンクの壁が目印



なみなみのスープに衝撃!これは絶望するほど旨い!
『ホームズパスタ 渋谷店』の「絶望のスパゲティ」

熱々のスープで皿を満たすスタイルは開店当初から。現社長の本田浩三氏がほかにない個性を求めて考案した。

タイトルも独創的な「絶望のスパゲティ」¥1,300はミートソースに忍ばせた黒オリーブのみじん切りがコクを醸す人気作。

仕上げに加える生クリームの効果から名に反してマイルドな美味しさでクセになる。

オーダーの度に茹でる「ディ・チェコ」1.6mmのコシもしっかり。80年代に勃興した“イタめし”黎明期のプライドを今に伝えている。



渋谷はスパゲティ文化が色濃い。宇田川町にある『ホームズパスタ 渋谷店』もその一端を担ってきた



『ハシヤ』のイズムを継ぐ、最新店が白金にオープン!
『TOKYO SPAGHETTI IBUSANTOCO』の「アサリと納豆」

長らく新店が無かった『ハシヤ』系列に彗星の如く現れたのがここ。

店主の指宿さんは、『ハシヤ』のたらこスパに衝撃を受けて以来、人生スパゲティ一筋。

同店の門を叩き、紹介された恵比寿の『アンクルトム』で10年修行し、昨年独立を果たした。

場所は白金の五之橋からすぐ。白を貴重としたカフェのような雰囲気。

夜はしっかりお酒を楽しめるのも嬉しい。

自慢の「アサリと納豆」¥1,300は、ジンジャーソースとガーリックソースが選択可。

定番の「たらことウニ」もいいが、こちらも一度試してもらいたい。



「たらことウニとキムチ」¥1,300。新鮮なたらことバター、コク深いウニが抜群



麺は茹で上げ釜で茹で、木のザルで水を切る。注文が入るごとに茹で上げていく



指宿さん夫妻。ふたりとも30代半ばと若い。「『ハシヤ』創業者が第一世代なら、僕らは第三世代ですね」