若い世代を中心にECが普及する中で、リアル店舗やその販売員が生き残るすべはあるのだろうか?(写真:gpointstudio/iStock)

なんとなく服を見にお店に入って、目にとまったものを手にとった瞬間に店員から話しかけられ、買う気がなくなってしまったことはないだろうか。

お店に入ってぶらぶらしていると店員が後ろからついてくることがわかり、逃げるにようにお店を出たことはないだろうか。

若い世代を中心にECが普及し、価値観も多様化する中、「販売員のあり方」は転機を迎えている。

新刊『2030年アパレルの未来 日本企業が半分になる日』を上梓した福田稔氏が、若者の新しい消費行動とアパレル販売員の未来について解説する。

「約8割の消費者」は衣服の選択にサポートが必要だ

アパレルの消費者の約8割はファッションに対して受動的で、衣服の選択において何かしらのサポートが必要である。

これまで彼ら彼女らの服選びに、これまで大きな影響を与えていたものは販売員だった。


ファッションにさほど関心が高いわけではないが、販売員との昔からの付き合いで毎年服を買い続けているという消費者は、団塊ジュニア以上の世代で意外なほど多い。

ただし、若い世代では、ECでの購買が当たり前となったことなどで販売員の影響力は低下している。

その一方で、人々の服選びをサポートする「新しいタイプのサービス」が、テクノロジーの進化とともに生まれている。

例えば、チャットボットを活用したEC上での購入サポートや、レンタルやサブスクリプション型EC(定期購買)における似合う服の「レコメンデーション」は、その典型だ。

「レコメンデーション」とは、ユーザーにとって価値があると思われる商品や情報を、「パーソナライズ」して提示することを指す。

例えば、ECサイト上や広告欄などに、顧客が購入したアイテムやお気に入りのアイテム、閲覧履歴や年齢などのデータから好みに合うと分析されたアイテムが表示される。

この「レコメンデーション」により、消費者側も無数にある商品をチェックする時間が節約できるため、合理的に「選ぶ」ことが可能になる。

ネット上のレコメンデーション広告が典型例だが、大量のデータを活用する「レコメンデーション」は、テクノロジーと極めて相性がいい分野である。

このような新しいタイプのサービスを提供し、若い世代に支持されている企業を2つ紹介したい。

まず、1つ目に紹介したい企業が、衣服のレンタルサービスの国内先駆けである「エアークローゼット」である。

「販売員」代わりとなる新しいサービスを提供する企業

.譽鵐織襯機璽咼垢旅馥眄莇遒院屮┘◆璽ローゼット」

エアークローゼットのレンタルサービスには、月1回3着まで借りられるライトプラン(6800円/月)と、借り放題のレギュラープラン(9800円/月)がある。現在のところユーザーの多くがレギュラープランを選んでおり、多忙な働く女性を中心に支持を集めている。

同社の強みは、ユーザーのタイプや好みを分析し、複数のブランドからユーザーに寄り添った質の高いパーソナルスタイリングを提供できることだ。

ユーザーの趣向分析にテクノロジーを活用し、データを基にプロのスタイリストがアイテムを選んで提案するというシステムである。

同社のサービスでは、レンタルして気に入った服は、そのまま購入もできる。結果、レンタルから購入という新しい服の選び方が、若い女性を中心に普及しつつある。テクノロジーを活用したこのサービスシステムは、特許も取得している。

その中心価値をなすのがパーソナルスタイリングという「レコメンデーション」である。会員数は2018年10月時点で16万人を突破し、日本最大級のファッションレンタルサービスになっている。

独自性で急成長を遂げる「リフォーメーション」

もう1社は、サステイナビリティー(持続可能性)をブランドコンセプトとして、2009年にアメリカで発足した「リフォーメーション(Reformation)」だ。

同社はEC化率が80%を超えているものの、全米に8つの実店舗を有している。

このうちの数店舗は、実店舗での購買体験をターゲットであるミレニアル世代に、魅力的なものにするための工夫がなされている。

例えばいくつかの実験店舗において、販売員に話しかけられずに1人で商品を選べるようなオペレーションが試みられている。最大の特徴は「試着プロセス」だ。

顧客は、試着したい商品・サイズを店内に設置されたタッチスクリーンから選択し、試着室に案内される。試着室には、試着室内外からアクセスできるクローゼットが設置されており、選んだ商品は、あらかじめここに販売員が入れておく。

もし別の商品やサイズを試着したくなった場合は、試着室内のタッチスクリーンから商品を選択すれば、再び販売員がクローゼットへ商品を補充する。

これによって販売員と顧客の直接の接点がなくなり、顧客は販売員の目を気にせずに好きなだけ試着を行うことができる。

また、試着室ではタッチスクリーンから好みの音楽・照明を選ぶことができるなど、顧客が自分好みの空間で、快適に商品を選ぶための工夫が凝らされている。

テクノロジーの進化に伴い、若い世代をターゲットとした新しいサービス、「レコメンデーション」のあり方が台頭してきている。

ただし、このまま「販売員の仕事」がなくなってしまうのかというと、決してそんなことはない。

デジタル化社会における「販売員」とは

どんなにデジタル化が進んでも、販売員とのコミュニケーションを通じたリアルでの購買を好む人は一定数いる。信頼できる販売員からの季節ごとの「レコメンデーション」を好む人もいるだろう。

一方、店舗は好きだけど販売員と話すことは嫌いなので、店舗で気に入った商品を見つけても、その場では買わずにECでの購買を好む人や、そもそもECでしか購買しない人も確実に増える。

要は、価値観の多様化とテクノロジーの進化が進むと、人々の買い方も千差万別になっていくわけだ。

このような消費社会では、販売員の接客においてもいかにテクノロジーを活用するかが重要となる。

例えば、お客様が店舗に入った際に、「この人は話しかけられるのが嫌かどうか」や「過去、何を購買したのか」が瞬時に販売員に共有されれば、その後の接客対応も向上するだろう。従来、ベテランの優秀な販売員にしかできなかったことが、テクノロジーの力で誰でもできるようになるのだ。

実際、画像認識AIの進化に伴い、技術的には来店者の自動認識は可能となっているし、来店者カウントなど店頭でのAI利用も徐々に始まっている。

このように多様化する消費者に合わせた「パーソナライズ」や「レコメンデーション」は、オンラインだけでなくリアルの場でも常識になっていくだろう。

中国ではすでに、デジタルがリアルを包含した結果、オンラインとオフラインという概念はなくなり、24時間いつでもどこでもオンラインいう生活環境となっている。2030年に向け、日本も似たような環境にシフトしていくだろう。

そのような社会では、テクノロジーの効果的な活用はあらゆるシーンで必須となる。販売のような一見アナログな分野においても、デジタル活用が成否を分ける時代が来るのだ。多様化するお客様の見極めをせずに、通り一遍な接客を続けるようなお店は、客足が遠のいていくだろう。

デジタル化社会では、企画、ものづくり、広告宣伝、販売など、あらゆるバリューチェーンで「パーソナライズ」が可能となる。

多様化する消費者に合わせた「パーソナライズ」や「レコメンデーション」を、いかに自社のビジネスモデルに取り込むか。これからのアパレル企業の成否を分ける鍵である。

書籍『2030年アパレルの未来 日本企業が半分になる日』の第2刷の一部におきまして、弊社の編集過程で誤りがありました。著者ならびに読者の皆さまに心からお詫びの上、以下のように訂正させていただきます。
224ページ前から5行目
誤:「約5000億円」
正:「約500億円」
なお、当該書籍をご購入された方は、下記まで着払でお送り下さい。訂正済みの書籍と交換させていただきます。
〒103-8345 東京都中央区日本橋本石町1-2-1 株式会社東洋経済新報社 営業推進部

(東洋経済新報社 出版局)