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パナソニック ホームズは、東京や大阪などの都市部向け土地活用提案のひとつとして、宿泊事業に本格的に参入すると発表した。

同社の宿泊事業の総称を「Vieuno Stay(ビューノステイ)」とし、同社の工業化住宅である「Vieuno(ビューノ)」の重量鉄骨構造などの特徴を生かす。さらにサブリーススキーム「インバウンド・リンク」や、パナソニックの美容家電を常設する「Be-Lounge」との組み合わせによって差別化し、家電メーカーとしての特徴を生かした新たな住宅事業の姿を模索する。

○背景に益々旺盛なインバウンド需要

宿泊事業を取り巻く環境が大きく変化している。

2020年に4,000万人の訪日外国人獲得に向けて、インバウンド需要が拡大しているのに加え、2020年の東京オリンピック/パラリンピックの開催時には、都内では、最大1万4,000室の客室が不足すると予測されており、国内では、それに向けた対策が模索されている。

実際、政府によると、2018年度の訪日外国人は3,119万人と、前年の2,869万人から大きく上昇。観光庁の速報値によると、2018年の東京における客室稼働率は、80.3%に達し、大阪でも79.8%という高い水準を維持している。

政府では、2018年6月の民泊新法の成立と同時に、旅館業法も改正。従来に比べて、宿泊事業への新規参入を緩和している。たとえば、一室から旅館業を営むことが可能であるほか、テレビ電話などを活用した本人確認を条件にフロントを設置しないで済むといった緩和策もある。

パナソニック ホームズ 事業推進センターの榎本克彦所長は、「宿泊施設不足に対応するための法律整備が進んでおり、民泊事業を行いやすくなっている。今後10年間は、訪日外国人数は高い水準で維持されるとの見方もある。賃貸物件で運用するよりも民泊で運用したほうが、累積収益は120〜150%になると想定されており、土地および物件を持つオーナーにとっては、民泊事業が大きな魅力になっている」と指摘する。

○民泊新法の制限を考慮した提案が必要

だが、民泊を運用するには、いくつかの注意点が必要である。

民泊では、年間180日までの住宅への宿泊という日数の制限があることや、居住履歴がない民泊専用の新規投資マンションでの営業は不可としており、リノベーションした既存住宅を見据えた法律となっている点などである。加えて住宅専用地域では、さらに年間営業制限日数が短縮されており、港区では94日、千代田区、中央区、文京区、目黒区では104日などとなっている。

もちろん、こうした点を考慮した運用も可能だ。

たとえば、新築時には1年の定期借家や1カ月契約などによる賃貸事業でスタート。その後、制限日数内で民泊を運用。民泊を運用する際には、7月〜12月、1月〜6月という形で行えば、年間180日という制限のなかでも、実質的に1年間連続での運用が可能だ。

民泊施設は、利用者が1カ月以上滞在し、部屋の清掃を自ら行うなどの条件を満たせば、民泊新法枠外の賃貸住宅と見なされることから、民泊施設を賃貸住宅として活用することも可能になる。

この際には、賃貸物件として運用できるように建築をしておくのがいい。ホテルや旅館の場合は、窓先空地が不要であったり、居室有効採光が不要であったりといった条件での建築が可能だが、将来、賃貸住宅に転用する場合には、これらの優遇条件に頼った建築をしていては転用が難しい。設計は賃貸住宅として行い、運用はホテルや旅館の仕組みを活用する形にしておけば、将来の賃貸住宅への転用が可能になる。

パナソニックは、こうした宿泊事業を取り巻く市場動向を捉え、都市部における土地活用提案のひとつとして、「Vieuno Stay(ビューノステイ)」を展開する。

○パナが提案する都市型コンドミニアム施設の中身

パナソニック ホームズは、住宅メーカーとしては最高となる9階建までの建築が可能な重量鉄骨構造「Vieuno(ビューノ)」を製品化。重量鉄骨構造による強い構造と、土地ぎりぎりまでの建築が可能な15cmピッチの自由な設計ができること、工業化製品ならではの短工期で完成させられる強みを生かす一方、土地や建物をオーナーから一括借り上げして、運営事業者へ貸し出す、独自のサブリーススキームを用意することで、宿泊施設の建設需要に対応しようとしている。

「戸建てや賃貸住宅、商業施設において、培ってきた設計ノウハウを活用。Vieunoの短工期の特徴と、狭小地でも建築可能な工業化住宅のメリットを生かすことで、パナソニック ホームズであれば、いまからでも東京オリンピックの開催前に開業が可能であり、宿泊施設の不足緩和にもつながる」(榎本所長)とする。

同社では、2018年6月から、宿泊事業のテストマーケティングを開始していた。目標としていた10棟の受注を約9カ月で達成するなど、需要性を確認できたことで、宿泊事業に本格的に参入することにしたという。今年の4月25日から、Vieuno Stayの第1号となる建設着工を、東京・蒲田、大阪・日本橋の2カ所で開始しており、8カ月後の2019年12月に竣工する予定だという。2019年度には、13棟の受注を計画し、受注金額は54億円を目指すという。さらに、2021年度には、27棟、100億円の受注を目指す。

パナソニック ホームズ 家づくり事業部の藤井孝事業部長は、「パナソニック ホームズは、多層階住宅では40年以上の歴史を持ち、2万棟近い実績を持つ。だが、その多くは、集合住宅や併用住宅であり、宿泊事業は2018年度受注実績で2%に留まっている。業界ナンバーワンのプラン対応力で、非住宅用途にも展開したい。オーナーの資産価値を高め、インバウンド需要に対応していきたい」と語る。

宿泊事業において、パナソニック ホームズが力を注ぐのが、ホテルと民泊、双方のメリットを併せ持つ、都市型コンドミニアムタイプの宿泊施設の提案だ。

同社が、日本人の国内宿泊旅行にも着目した宿泊施設への意識調査を実施した結果、ホテルの利用意向は高いものの、コストの高さを指摘する回答が46.2%、家族や大人数では宿泊できないことへの不満を指摘した回答が22.6%に達したことが明らかになった。その一方で、民泊に対しては、メリットとしてコストパフォーマンスの高さが51.5%で、大人数での利用にも適すると32.0%が回答したが、デメリットとしてセキュリティについて不安があるとした回答が48.0%、設備への不安や不満があるとした回答が44.0%を占めた。

家族や大人数で泊まれないという不満は、訪日外国人の方がさらに顕著だと言っていいだろう。実際、東京都内のホテル1室あたりの宿泊人数は1〜2人が中心であり、3人以上で泊まれる部屋数は、全体の1.5%に留まるという。

榎本所長はこれに対し、「Vieuno Stayでは、リビングやキッチンを備えた1LDKタイプを中心とした客室プランを提案している。近くの店で食材を購入してもらって、自分で料理をしてもらい、日本の滞在を楽しんでもらうことができる。ホテル並みの安心感を提供した民泊の実現も可能であり、住まいのように楽しんでもらうこともでき、ホテルと民泊の双方のメリットを持つ宿泊スタイルを提供できる。また、運用においては、サブリーススキームであるインバウンド・リンクを活用することで、委託することが可能。運営事業者は規模が小さいところが多いため、直接契約が不安だという場合にも、オーナーはパナソニックホームズ不動産とマスターリース契約を結び、パナソニックホームズ不動産が運営事業者とサブリース契約を結ぶことで安心して運用サービスを活用できる」としたほか、「将来的にインバウンド需要が減少した場合でも、賃貸住宅への転用が可能であり、用途変更の場合にも、賃貸住宅として運用を受け持つことから、土地オーナーにとって安心の提案プランとなる」とした。

同社の試算によると、4,000円で家族4人が宿泊した場合には、1泊あたり1万6,000円の宿泊費が収入となることを前提に、34室で、稼働率80%の場合には、年間1億5,884万円の収入が得られるという。そのうち、40%を運営経費と算定し、残りの60%の9,530万円から、一括借り上げの運用事業者フィーおよび借上料率を差し引いた、残りの75%となる7,147万円が年間収益になるという。

Vieunoを活用して、東京・三ノ輪で、2018年4月から、「ホテル セイルズ」としてホテル事業を行っているエヌエイビルの青山順吉社長は、「いまは、集合住宅よりも、ホテルの方が2割ほど儲かる」としながら、「Vieunoは、必要なものを組み合わせていけば、すぐにコストが計算できる。集合住宅に必要な下駄箱、食器棚などを不要とする一方で、24時間対応の受付カウンターの作り込みや照明などの出費は増えるが、トータルの建設費用にはそれほど大きな差はなかった。また、RC工法では2年間かかるが、Vieunoは約半年間で建てることができる。ここまでの速さで建築できるのは、パナソニック ホームズだけだ」と話す。現在、東京オリンピック開催前の稼働に向けて、Vieunoを活用した2つめのホテルを、東京・千束に建設しているところだという。

○家電の強みを活かした付加価値で勝負

パナソニックでは、Vieuno Stayの展開において、パナソニックの美容家電やリフレ家電を備えた「Be-Lounge」の提案を新たに開始する。

Be-Loungeでは、パナソニックコンシューマーマーケティングが提案しているセルフエステ空間の提案で、パナソニックの美容家電である「Panasonic Beauty」を活用する。これによって、ヘアケア、フェイスケア、ボディケアなどのセルフエステを行える場を提供しようというものだ。もともとはシェアハウス向けのコンセプトルームとしてスタートしていた。これまでは、エステサロンなどへの提案が中心だったが、今後、宿泊事業においても展開することで、家電メーカーならではの宿泊事業提案につなげる。

榎本所長は「パナソニックグループの美容、家電設備を設置することで付加価値を提供して、子育て家族などの利用を促したい」としている。

さらに、Vieuno Stayでは、パナソニックの先進設備や最新家電機器を積極的に採用する。室内には、ナノイーを使った空気清浄機やエアコン、ビエラによる薄型テレビ、テクニクスによるオーディオを設置する提案を行うほか、ネットワークカメラによる顔認証、デジタルサイルーネージやスペースプレーヤーなどの活用により、宿泊施設のサービス向上とセキュリティ強化を実現していく。「リピート宿泊の獲得だけでなく、パナソニックの商品を知って、触れて、体感してもらい、商品の購入にもつなげたい」(榎本所長)。

Vieuno Stayは、他の住宅メーカーにはない、パナソニックならではの提案になる。

藤井事業部長は、Vieuno Stayで、「サポート体制、構造技術、パナソニックの暮らし提案、という3つを特徴として、宿泊事業を加速させる」と語る。

住宅メーカーとしての蓄積と、家電メーカーとしての差別化を兼ね備えることが強みだが、特に現時点では、「いまからでも東京オリンピックに間に合わせて開業ができる」というスピードが、大きな武器になりそうだ。