クレームを気にしすぎて安全運行に支障をきたす場合も

 バス業界の事情に詳しいA氏によると、「街なかを走る一般の路線バスの運転士の多くが『遅発』にナーバスになっています」とのこと。遅発とは交通渋滞などで到着が遅れ、時刻表通りにバスが来ないため、発車できないことを指す。

 運転士がナーバスになる背景には、遅発を発生させれば所属バス事業者から何らかのペナルティでも課されるのかと思いきや、「乗客の一部からのクレームが激しく、それを気にしてナーバスになってしまうようなのです(前出A氏)」。

 いまどきは、都市部では線路を走る鉄道ですら、朝夕のラッシュ時間には定時運行されていれば、“奇跡”ともいえる路線が目立っている。そのなかで、道路渋滞など不測な事態に遭遇しやすい路線バスの定時運行は大都市ほどかなり難しい。

 そもそもバス停に掲示される時刻表は、日本の路線バスは乗降客のいないバス停は通過することもあり、“予定通過時間”となり、確実な到着及び発車時間を掲示しているわけではないのである。その結果、できるだけ避けたいのだが、遅発はやむを得ないものともされている。

 一方で、“早発(バス停の時刻表の時刻より早く発車すること)”は絶対にNGとなっている。最近路線バスに乗っていると、道路が空いている時は頻繁に、早発を防ぐためにバス停で長めに停車して時間調整するのが目立っている。

海外ではバスの現在地がわかるシステムを構築する都市も存在

 そうしたなか、道路渋滞などで明らかに予定どおりに運行されていないバスに乗り合わせた時に、「なぜ時間通りにこないんだ」といったクレームを乗車時に運転士に言っている乗客を筆者も見たこともあるが、このようなクレームは多くなる一方のようだ。

 一部乗客からの強いクレームに運転士が委縮したり、過度に警戒しながら運行業務に従事することで、安全運行を阻害、つまり事故を誘発しやすくなっているという話も聞く。

 筆者が見てきた限りでは、海外の路線バスではバス停に時刻表は存在しない。最近では、バス停においてだけでなく、スマホでのバスロケーションシステム(接近情報などの提供)の情報提供が充実している都市も多いので、時刻表がなくとも不自由することが少なくなった地域も多い。

 日本でも仮に遅発に関しての運転士へのクレームがこれ以上ひどくなれば、時刻表を廃止して、ロケーションシステムでの“あと●分で到着します”といった情報提供の充実に切り替えたほうがいいのかもしれない。