装身具ブランドのバブーン(Baboon)が、投資ラウンドで290万ドル(約3億1000万円)の資金を調達した。これは、2018年のプレローンチ段階でエンジェル投資家から小規模な投資を受けたのち、初の資金調達ラウンドである。このラウンドは、ランダ・デジタル(Randa Digital)やアミティー・サプライ(Amity Supply)、チェリー・ツリー(Cherry Tree)をはじめとするベンチャーキャピタル(VC)、個人投資家のブライアン・スパリー氏、およびスコット・ベルスカイ氏をはじめとするエンジェル投資家が主導するラウンドだ。

バブーンは昨年7月にCEOであるアンディ・パーソン氏によって設立された。同氏は、オープニングセレモニーでCOO兼CFOを務め、ノースフェイス(The North Face)やアーバン・アウト・フィッターズ(Urban Outfitters)でCCOを務めるマイケル・クシュナー氏やCOOを務めるトレイ・シッソン氏とともにグローバルディレクターの職務も果たしていた。バブーンは、テクニカルファブリックを使用して開発したリュックサックや携行品、そのほかの旅行用装身具を都会に住んでいるミレニアル世代(ノースフェイスでパーソン氏がターゲットにしていた本格的なハイカーではなく)のライフスタイルも考慮に入れて販売している。

新たな資金調達によって、バブーンは製品の品揃えを強化し、より多くの消費者にリーチし、イベントや提携、そのほかのフォーラムを介して、同業界の顧客層を拡大することを計画している。バブーンは具体的な収益について話すことは控えたが、過去6カ月で販売高を3倍にしたと発表した。

VCの罠にハマらない



しかし、D2C(Direct to Consumer)ビジネスが急速に顧客から認知されるようになって、すでに10年以上の時間が経っている。いまさらバブーンは、ベンチャーキャピタルのトラップに、ハマるつもりはない。

「私たちは、評価される段階で追い詰められ、評価によって自分たちが産み出すビジネスを妨げられるような状態に陥りたくなかった」と、パーソン氏は述べる。続けて、バブーンはすぐに結果を求めるのではなく、同社が今後10年間で達成したいと考えていることを手助けしてくれるような投資提携先を探し出したと語る。

昨年、このD2Cブランドの領域に15億ドル(1604億円)もの資金が流れ込んだが、大半のベンチャーキャピタルは現在もこの投資に対するリターンを得られていない。つまり、リテールのカテゴリは、技術ソフトウェアを扱う業界よりもずっと長い成長の道筋のうえに成り立っているということだ。この事実が明白になったため、投資家からの資金調達から完全に手を引く決断をしたブランドや、少なくとも可能な限り独力で進もうとするブランドもある。タフトアンドニードル(Tuft & Needle)やネイティブ(Native)、MVMTをはじめとするブランドは、投資資本を一切またはほとんど利用せずに1億ドル(107億円)を超える収益を上げる企業へと成長した。ロージーズ(Rothy’s)は、ゴールドマンサックス(Goldman Sachs)が中心になって提供する、3500万ドル(約37億4500万円)もの莫大な額の資金調達ラウンドではじめて資金調達を実施する前、売上が1億4000万ドル(約107億円)に達するまで、3年間も待っていた。

門扉を開いておく戦略



「軍資金を持っている企業は、売上を増加させることだけを重視している。なぜなら、巨額の投資を受けているからだ。そのような企業はこの資金を利用して売上を増加させたいと考えている」と、中小の消費者向けビジネスを支援する金融会社であるマーチャントファイナンシャルグループ(Merchant Financial Group)のCEO(最高経営責任者)、アダム・ウインターズ氏は言う。「これは、それらの企業が持続可能なビジネスモデルを持っているということを意味するわけではない」。

このコメントの真意は、資金調達戦略の良し悪しということではない。しかし、ノースフェイスのオーナー会社であるVF Corp.での仕事を通じ、7年間で約40のブランド買収を統括してきたパーソン氏は、ベンチャーキャピタルが資金を投資して数十億ドルの投資を得たと評価されると、ブランドが目前に計画している選択肢に対して大きな制限が課されるところを見てきた。バブーンは、巨大複合企業に買収されることを狙っているのではなく、すべての可能性のあるものに対して門扉を開いておくブランド戦略を練っている。

「私たちは長い時間をかけて規模を拡大できるブランドを作りたいと考えており、ベンチャーキャピタル業界も規模を拡大できるブランドに非常に関心がある。しかし、そのようなベンチャーキャピタルが私たちにとって救世主というわけではない。私たちは自社の力で成長し、自社への請求は自社で支払い、自力で進む選択肢が欲しい」と、パーソン氏は言う。「ある規模に達したという評価を嫌がる提携先もある。そのため、健全で良好な指標を持ち、空の彼方に消えてしまうことのない企業を作るつもりだ。自社のビジネスは自分たちで構築したいと考えている」。

他カテゴリへの進出



門扉を開いておくという考え方は、バブーンが手がける事業のほかの側面にも当てはまる。現在、バブーンは装身具を専門に扱っているが、この計画は、アウェイ(Away)やハリーズ(Harry’s)、キャスパー(Casper)をはじめとする企業が行っているように、ヒーロー製品の取り扱いをやめるのではなく、「ヒーロー感覚」を持たない企業を作るものだとクシュナー氏は言う。バブーンは創業前、当時の流行を追いかけた、わくわくする見た目に美しいインスタグラム(Instagram)のアカウントを開設していた。同社はこのインスタグラムにおいてコンテンツ戦略を構築し、ターゲットとなるオーディエンスを得ていた。

「最終的に、我々が何を発表するか、人々は知りたがっていた」と、クシュナー氏は言う。

バブーンのチームは、このアプローチを採用し、製品ではなく自社ブランドをもとに基礎を築いたため、ブランドを希薄化することなく、将来的に装身具以外の別のカテゴリに進出する準備ができたと考えている。同様に、同社はオンライン事業を中心にしながらも、創業後すぐに別のサードパーティリテール分野も開拓しはじめた。同社は現在、アーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters)のWebサイト上で比較的古い商品を販売し、専門小売店のスティーブン・アラン(Steven Allen)とともに店舗とネット上で扱っている製品を選んでいる。

新しいDNAと運営方法



最終的には、現在のD2Cブランドにとって、新しいDNAと運営方法ができるだろう。バブーンは新たな調達資金を使って、あらゆる面で前に進むことが可能だが、まだよちよち歩きの子供の段階だとパーソン氏は言う。バブーンは、新たな雇用を生み出す予定で、その次は、これまでに顧客から得たフィードバックをもとにした新製品のファニー・パック(fanny packs)を6月25日に発売した。

「私たちはデジタルファーストではあるが、このモデルは進化し続けている」と、パーソン氏は続ける。「このプロセスに取り組む方法は無数にある」。

Hilary Milnes(原文 / 訳:Conyac)