The Conversation

<かつては禁止されていた女子サッカーの試合――今なお活躍の場も報酬も男子に比べてはるかに少ない>

今月7日までの日程で開催されたサッカー女子ワールドカップ(W杯)フランス大会では、ミーガン・ラピノー(アメリカ、トップ写真右)らスター選手の活躍に世界のサッカーファンの注目が集まった。

この20年ほどで女子サッカーは大きな発展を遂げた。11年にFIFAのジョセフ・ブラッター会長(当時)が「(サッカーの)未来は女子にある」と述べたほどだ。

女子サッカーの歴史は20世紀初頭にさかのぼる。第一次大戦中、イングランド北西部のプレストンにある弾薬工場に女子チームのディック・カー・レディースが生まれた。このチームと、セント・ヘレンズ・レディースという女子チームが1920年にリバプールで行った試合は、5万3000人の観客を集めた。

だが、盛り上がりは一時的なものに終わった。21年、イングランドサッカー協会(FA)は各クラブに対し「スタジアムをそうした(女子の)試合に使わせないように」と呼び掛け、女子の試合を事実上、禁止した。この状況は71年まで続いた。

女子サッカーが復活した後、イングランドではアーセナルやリバプールといった有名クラブの女子チームが創設され、女子サッカーの新時代をつくり上げてきた。イングランドで女子サッカー選手のプロ契約が導入されたのは09年。11年にはトップリーグである「FA女子スーパーリーグ」が設立され、17〜18年シーズンに完全なプロリーグとなった。

だが報酬となると、男子選手との差は大きい。FA女子スーパーリーグでプレーする選手の平均年俸は3万5000ポンド(約480万円)。スポンサー契約も、高くて7万ポンド(約960万円)程度だ。多くの選手がサッカーだけでは生活できず、副業を持たざるを得ない。

私は17年に欧州6カ国・地域(デンマーク、イングランド、フィンランド、ドイツ、オランダ、ノルウェー)で女子サッカー選手のキャリアに関する調査を行った。この調査では女子選手が直面するさまざまな問題が浮き彫りになった。

男子に比べて各クラブの組織には未整備な点が目立ち、プロやセミプロのリーグでプレーしたければ外国に行かなければならないケースも少なくない。一流の施設が使えないことも多い。

子育てとの両立支援も

調査報告書ではクラブのユースチームを、18歳未満、21歳未満、23歳未満といった年代別の構成にし、選手をトップチームに引き上げやすいシステムを導入することを提言した。年代別グループは、国際レベルではうまくいっている。

プロリーグが各国で創設されれば、外国に活躍の場を求める選手も減るだろう。現時点で全員プロ選手のリーグがあるのはイングランドやノルウェー、ドイツ、アメリカなどで、オランダなどのリーグはセミプロだ。言葉や文化の違いに耐えて外国でプレーしても、男子と違って名声も多額の報酬も得られないのが女子選手の現状だ。

調査では、キャリアへの影響を恐れて出産を先延ばしせざるを得ない状況も明らかになった。現役選手でも子供を持てるような環境の整備が強く求められている。各クラブも子育て支援の制度をつくるべきだ。例えば大きな大会のために何週間も家を空ける場合には、子供を連れて行けるよう支援すべきだろう。

W杯で素晴らしいプレーを見せる選手たちは、この瞬間を夢見て男子に負けない厳しい練習に耐えてきた。彼女たちのプレーに声援を送るときは、女子選手も男子と同じように輝くチャンスを与えられるべきだということを思い出してほしい。

Jackie Day-Garner, Faculty Director, University of Central Lancashire

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

<本誌2019年7月2日号掲載>


※7月16日号(7月9日発売)は、誰も知らない場所でひと味違う旅を楽しみたい――。そんなあなたに贈る「とっておきの世界旅50選」特集。知られざるイタリアの名所から、エコで豪華なホテル、冒険の秘境旅、沈船ダイビング、NY書店めぐり、ゾウを愛でるツアー、おいしい市場マップまで。「外国人の東京パーフェクトガイド」も収録。


ジャッキー・デイガーナー(セントラル・ランカシャー大学ファカルティー・ディレクター)