有給休暇の取得率がなかなか上がらない。日本総研の小島明子氏は「人手不足が影響している。有休を取ると、残業削減目標が遠のくといったジレンマがある。企業は社員に『休め』というだけでなく、適切な投資を行う必要がある」という――。

有給休暇18日のうち取得したのは9.3日、取得率51.1%

2019年4月から、仕事を休んでも賃金が支払われる「年次有給休暇」を年10日以上与えられている働き手に対し、最低年5日以上は消化させることが企業の義務になりました。

厚生労働省の「就労条件総合調査」(2018年)によれば、2017年に企業が付与した年次有給休暇日数(繰越日数を除く)は、労働者1人当たり18.2日、そのうち労働者が取得した日数は9.3日、取得率は51.1%となっています。

取得率は前年の49.4%に比べてわずかに上昇していますが、依然として多くの人が有給休暇を十分に取得できていない状況です。

本稿では、有給休暇の取得に向けた現状の課題と対策について、各種調査結果の分析に加え、筆者が仕事の現場で働く知人・友人に対して行ったインタビューを基に述べます。

【1:有給取得の現実と理想】

※写真はイメージです(写真=iStock.com/peppi18)

世界最大級の総合旅行サイト・エクスペディアの「世界19ヶ国 有給休暇・国際比較調査2018」によれば、日本人が有給休暇を取得しない理由の第1位は「人手不足」、2位は「緊急時のために取っておく」、3位には「仕事する気がないと思われたくない」となっています。

今回のインタビューの中では、以下のように、「休暇を取ると、人手が十分に確保されていないがゆえに、業務に支障が出る」という趣旨のコメントが多数を占めました。

「職場の雰囲気としては休暇の取得が奨励されているが、休み中の仕事の体制が築かれていない」(営業事務・40代)
「休暇を取れと言われているが、休んだ人を周囲が自動的にフォローする体制になっていない。以前、体調不良で休暇を取った時に、誰にもフォローしてもらえなかった経験もあり、休暇を取っても気が休まらない」(営業事務・50代)

■「有休を取るほど残業の削減目標のクリアは厳しく」

「全員が100%有給休暇を取得する前提で人員を確保、配置してないため、育児や介護、病気以外では、気軽に取得をしづらい環境。残業の削減目標はあるが、有給休暇取得率向上の目標はない。有給休暇を取れば取るほど残業の削減目標のクリアは厳しくなる」(金融事務・40代)

それでは、中間管理職はどう考えているのでしょうか。

「(転職前の日本の会社では)承認手続きなどの業務や、上席者から指示された雑務を休暇滞在先で対応していた」(法人営業・40代)
「自分が休暇の取得をするためには権限を代行しなければならないが、安心して権限を委譲できる部下の育成に時間がかかってしまう。一方、経営層からは、管理職を含む全社員に対して休暇取得の強いプレッシャーが降りてくるため、休まなければならない。自分の休暇中に万が一何かあったら、部下を育成していない自分の責任ととがめられるのかと思うと正直つらい」(事務管理・40代)
「皆が休みを取りやすい環境に配慮しつつ、部下の育成に励んでいる。しかし、有給休暇取得率が他のチームより高くなると、他のチームと比べ業務の負担量が少ないと思われることがある。その結果、今まで時間をかけて育成しチーム内で活躍し始めた人材が引き抜かれたことがある」(金融事務・40代)

社会全体の働き方改革の流れを受け、休暇の取得を会社から促されるものの、休暇を取得する際に生じるさまざまな問題の解決は現場任せにされていることが休暇の取得を阻んでいるようです。

■なぜ、休みを取ることに罪悪感を抱かなければならないか

【2:休暇を取ることに対する罪悪感】

前出のエクスペディアの調査によれば、日本人の58%が有給休暇の取得に「罪悪感がある」と回答し、その割合は世界中で最も高くなっています。この事実は過去のコラム「有給休暇 取りづらい雰囲気を醸し出す「A級戦犯」の“腹の内”」でも取り上げましたが、傾向に変化はありません。

今回、日本企業に勤める人たちにインタビューしましたが、休暇に対する意識について日本と海外の違いがうかがえました。

「総勢60名のチームに所属しているが、休暇の連絡メールは、いつも『お忙しいところ申し訳ございませんが、明日は……』と負のイメージの言葉で始まるのに疑問を感じる」(金融事務・40代)
「(今の職場のことではないが、一般的に)『お客さまは神様』という風土が一般的には根強く残っているので、社会の意識が変わらないと、特に長期休暇の取得は難しいと感じる」(営業事務・50代)

一方、国際系の部署や外資系企業に勤める方へのインタビューでは、下記のような意見が目立ちました。

「現在の部署は、海外経験者のある上席者が多く、『休暇を取るもの』という意識づけができているため、非常に休暇が取りやすい」(国際部門・30代)
「本国の社員がきちんと休暇(例:夏休み、クリスマス休暇、イースターなど)を取るので、休暇が取りやすい。また、会社として有給休暇の取得を促進するため、火曜日あるいは木曜日が祝日ならその間(月曜もしくは金曜)は有給休暇取得推進日となっている」(営業・40代)
「ヨーロッパの本社が休みの時に、『またヨーロッパは休みですか。その時トラブルが起きて本社は対応してくれない場合、日本法人は何をサポートしてくれるのですか?』と日本の取引先から言われ、日本人が休みを取ることに対してネガティブに捉えていると感じた」(営業・40代)

■フランスでは連続12労働日を超える取得を企業に義務付け

これらの意見からも、休暇取得に対する罪悪感をなくすことが、日本人の有給休暇の取得を促進するための前提になると考えます。

観光庁の調査(「平成21年休暇の取得・分散化に関する国民意識調査」)によると、休暇取得を促進するために効果があると考えられる取り組みとして、約半数が「連続休暇(バカンス)の法制化」を支持しています。

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一例ですが、フランスでは、連続12労働日を超える取得を企業に義務付けています。観光庁の調査は約10年前のものですが、「働き方改革」への意識が高まっている現在であれば、フランスのような連続休暇の義務化を検討する余地があるのではないでしょうか。

日本人の休みに対する罪悪感をなくすためには、働く人が望む時に連続休暇を取得しやすい環境づくりを行うことも必要と考えます。

■部下に「休め」と言いつつ、仕事を増やす上司の事情

【3:休み方改革に向けて取り組むべき施策】

内閣府の「ワーク・ライフ・バランスに関する個人・企業調査」(2013年)によれば、年次有給休暇取得の促進に効果的だと考えられている取り組みは、「計画的に休暇を取得させるルールづくり(43.3%)」が最も多く、「上司による有給休暇の取得奨励(30.5%)」「まとまった日数での休暇取得奨励(27.5%)」と続きます。

今回のインタビューで、有給休暇の取得に向けての取り組みについて聞いたところ、前向きな傾向もうかがえました。

「業務上の支障を事前に回避しつつ皆が休みを取れるように、(全拠点で)休暇の年間予定表を張り出すことで、計画的な休暇の取得を促すとともに、休暇の取得状況の見える化につなげている」(事務管理・40代)
「(中間管理職として)繁忙時期以外で同じ業務の人とかぶらないようにと伝えた上で、休暇カレンダーを準備し、早いもの順に上下関係なしで休みが書き込めるようにしている」(金融事務・40代)

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先の調査結果と合わせて、このような計画的に休暇を取得させるルールづくりこそ、全従業員がすみやかに休暇を取得するための環境づくりの第一歩となるのではないでしょうか。

さらに、休暇の取得を促進させるために、下記のような提案もありました。

「上席者は一方では部下に『休め』と言いつつ、仕事は増やすようなところがある。部下は、休暇の消化か、仕事の消化かの板挟み状況になる。人が増やせないのであれば、主担当、副担当の2人体制にするなど、仕事の属人化をなくしたほうが良い」(営業事務・40代)
「休暇を取得してもやることがないなどの理由から、取得をしない人もいるため、会社は単に取得を推奨するのではなく、例えば、休暇の過ごし方を提案したり、休暇の取得を通じて、仕事と生活のバランスを取ることが重要であるという意識啓発をしたりすること大切だと思う」(法人営業・40代)

■「有給休暇の取得状況」も公表義務に含まれる

休暇の取得を促すだけではなく、企業には現場が休暇を取得しやすくなる仕組みづくりに「投資」を行うことが求められています。最近では、厚生労働省の「働き方・休み方改善ポータルサイト」をはじめとし、政府が優良事例や課題解決法などの情報を無料で提供していますので、まずは、そのような情報を参考にすることも一案です。

なお今年の5月に成立した「女性活躍推進法等の一部を改正する法律」では、常時雇用する労働者が301人以上の事業主に対して、「職業生活に関する機会の提供に関する実績」などの各区分から1つ以上情報公開することが義務付けられました。

有給休暇の取得状況」も、それらの中には含まれています。こうした法整備が、有給休暇の取得しやすい環境づくりにつながることが期待されます。

(日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト 小島 明子 写真=iStock.com)