タレントの磯野貴理子さんが24歳年下の男性と離婚した。その理由として明かされたのは「自分の子供がほしいと言われたこと」だった。「子供がほしい」という理由で離婚する夫婦にはどのような事情があるのか。夫婦問題研究家の岡野あつこさんが事例とともに解説する――。

■磯野貴理子さんの離婚が心をざわつかせる理由

タレントの磯野貴理子さんの離婚のニュースは、私のまわりでもいろいろ話題になっていた。夫婦が離婚を決意する理由はさまざまだが、「自分の子供がほしい」とパートナーに告げられたことがきっかけで、夫婦生活を終わらせるケースがあることに驚いた人も多かったのではないだろうか。

磯野さんは、48歳の時に24歳年下の男性と再婚した。実は私も、24歳年下の男性と結婚していた経験がある。このため「年の差婚」をテーマにしたテレビ番組で、磯野さんと共演したご縁がある。

「年下の男性と再婚、そして離婚」というストーリーは、今どき決して珍しいことではないものの、私たちの心をざわつかせたのは、やはり「自分の子供がほしい」という男性側からの言葉だったのではないか。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/HRAUN)

「結婚した時点で、女性の出産には年齢的なリミットがあると知っていたのに、いまさら子供がほしいと言い出すのはフェアじゃない」「男性から見た、年齢を重ねた女性の価値をつきつけられた」という声もたくさん耳にした。

そこで、これまで実際に相談を受けた夫婦問題のなかから「子供がほしい」という理由で離婚を決めた夫婦の例を紹介しながら、夫婦と子供のあり方について考えてみたい。

■【ケース1】「子供はつくらない」条件で結婚したが……

一つ目は、妻が6歳年上のケースだ。20代後半で結婚した時、「妻が6歳年上」という事実は“誇り”ですらあった、と夫は語る。「社会人の先輩として、彼女の仕事ぶりや振る舞いに惹かれた。『大人の女性に認められた自分』も誇らしかった」と話す男性は、「結婚後も仕事に専念したいので、子供はつくらない」という妻からの条件をのむ形で結婚。約束どおり、子供をつくらないまま夫婦生活は10年以上続いた。

しかし2年前、身体を壊したことがきっかけで、男性は激務続きの部署から異動になり、自身の働き方や将来のことを見直す時間ができた。「自分らしい人生を送りたいと考えた時、これから大切にしていきたいのは仕事ではなく家族だと思った。子供や孫に囲まれるようなにぎやかな老後を迎えたかった」と話す男性は、当時すでに42歳。49歳になろうとしていた妻とはもう何年もセックスレスの関係で、お互いを思いやる言葉をかけることも少なくなっていた。

男性は半年間悩み抜いた末、妻に離婚を切り出した。理由は「子供のいる人生を歩みたいから」。「離婚に応じてくれた妻には今でも謝っても謝りきれないが、自分としてもわが子を抱きしめる夢を諦めたくなかった」。

■【ケース2】「ほかに好きな人ができた」と妻が言いだした

次は、妻の「婚外恋愛」が原因のケースだ。友人の紹介をきっかけに出会い、29歳で結婚した妻は、夫婦生活がスタートしてまもなく、夫との「価値観の違い」を感じ始めたと話す。夫との生活がストレスになっていくのを感じながらも5年が過ぎた頃、妻の職場に新しい上司が赴任。一緒に仕事をするようになり、お互いの人柄を知るうちに、いつしか惹かれ合うようになっていったという。

「彼は離婚経験者で現在は独身。夫婦問題で悩んでいる私の話を親身になって聞いてもらえることが救いにもなっていた」。37歳になっていた妻は、やがて「この人の子供を産みたい」と上司との関係をもっと進めたいと思うようになり、夫との離婚を決意。

「夫に、ほかに好きな人ができたことを告げたところ『そんな勝手なまねは許さない』と」。現在離婚協議中だが、上司との子供を生みたいから今の夫とは一刻も早く別れたい、という気持ちは変わらないという。

■【ケース3】貯金どころかギャンブルざんまいの夫に三行半

最後は40歳夫婦のケースだ。「貯金が貯まったら子供をつくろう」と決めて結婚生活をはじめた夫婦に危機が訪れたのは、夫婦ともに40歳になったタイミング。いつまでも定職に就かず、バイトとギャンブルを繰り返す夫に対し、会社員としてフルタイムで働く妻が三行半を突き付けた格好だった。

「あなたのことは好きだけれど、私たちの将来のことを考えようとしない姿勢にはもう耐えられない。私は子供を産み、母親として子育てもしたいので別れてほしい」と伝えたところ、夫は「これからは働いてしっかり貯金もする。頼むから離婚しないでほしい」と懇願。

心を入れ替えたかと思いきや、それから2年たっても本腰を入れて働こうとしない夫に業を煮やした妻は、とうとう夫に離婚を言い渡したとのこと。「このまま子供を産まずにいたら、自分の人生を後悔することになると思った」と妻はため息をついた。

■結婚前の「子供はいらない」が続くとは限らない

私の実感では、ひと昔前まで離婚の理由は「性格の不一致」がトップだった。ところが、最近では「価値観の不一致」に変わりつつある。

たとえば、結婚前は「子供はいらない」と考えていても、まわりに子育て中の友人や知人が増えていくことで子供のいない自分たちに焦りを感じたり、「孫の顔を見せることも親孝行」などと親や親戚からプレッシャーをかけられたりして、「子供がほしい」という考えに変節することもある。

夫婦どちらか一方の価値観だけが変化していくことで、夫婦生活の途中からズレが生じるケースが少なくないのだ。

■幸せな人生のためなら「離婚=人生の汚点」にはならない

「子供がほしい」が理由で離婚にいたらないための対策としては、物理的アプローチと精神的アプローチの2つが有効だ。

ひとつは、本格的な危機を迎える前に夫婦で話し合い、定期的に価値観の軌道修正を行う方法。「以前の自分はこう思っていた。でも、最近はこんな考え方もアリだと思うようになったが、どう思うか?」というようなソフトな形で本音を伝えることで、いきなり結論を出す前に、夫婦の将来像を大切にしながら可能性を探ることができるようになる。

もうひとつは、「人の価値観は変わるものだという認識を持っておく」というもの。特に妻が年上で年齢差のある夫婦は要注意。夫婦の関係は時間とともに成長していくものだが、妻が年上の年の差婚の場合、歩調にズレが生まれやすい傾向があるからだ。年齢や経験により自分の価値観が変わることもあるように、パートナーの価値観が結婚当初と比べ180度変わることもあると、覚悟しておく必要があるだろう。

子供の有無だけが幸せの尺度を測るものではないことはたしかだが、離婚すべきか夫婦関係を修復すべきかで迷った時は、「夫婦がそれぞれ幸せになるための道は何か?」を基準に考えるのも手。それがたとえ「離婚」という結論であっても、「幸せな人生を過ごしていくために必要な経験のひとつ」ととらえるならば、離婚は「人生の汚点」ではなくなるからだ。

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岡野 あつこ(おかの・あつこ)
夫婦問題研究家
NPO日本家族問題相談連盟理事長。株式会社カラットクラブ代表取締役立命館大学産業社会学部卒業、立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究科修了。自らの離婚経験を生かし、離婚カウンセリングという前人未踏の分野を確立。これまでに25年間、3万件以上の相談を受ける。『最新 離婚の準備・手続きと進め方のすべて』(日本文芸社)『再婚で幸せになった人たちから学ぶ37のこと』(ごきげんビジネス出版)など著書多数。

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(夫婦問題研究家 岡野 あつこ 写真=iStock.com)