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もくじ

ー 対照的なモデル 驚きの結果
ー 矛盾の塊 事態は複雑
ー 乗り心地以外にも問題 決断は慎重に
ー 番外編:ハイパフォーマンスモデル 乗り心地の秘密

対照的なモデル 驚きの結果

ホイールサイズがそのクルマの乗り心地にどれほど影響を与えるかについては、これまでも数多くの記事が書かれてきたが、それは、インチアップにはスタイリング上のメリットがある一方で、多くの場合、ダイナミクス性能に悪影響を及ぼすというデメリットが存在するからだ。

だが、こうした主張が多くの賛同を得ているとは言い難い。すべてのニューモデルで、ホイールサイズは拡大の一途を辿っており、ドライバーもこのトレンドを受け入れているようだ。

さらに、SUV人気がこの傾向に拍車をかけており、その大柄なボディを引き立たせるべく、同クラスのハッチバックやサルーンに比べ、はるかに大きなタイヤサイズを選択している。

だからこそ、こうした事態に警鐘を鳴らすべく、ハッチバックのミニ・クーパーと、SUVのDS 7クロスバックという、対照的な2台を比較するのが一番だと考えたのだ。

まさに豪華なプレミアムSUVとして、DS 7が20インチのホイールに235/45サイズのコンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5というセットアップを採用する一方で、ミニの足元を飾るのは、10年前であれば一般的だったものの、現行モデルとしてはもっとも小径となる15インチホイールと、175/65サイズのミシュラン・エナジーセーバーだ。

かたやスポーティさが売りのスーパーミニであり、もう一方は快適性を重視したSUVなのだから、直接対決させるのはフェアではないとも思ったが、実際には、ミニの方がよりスムースで安定した走りを見せ、さらには乗り心地の快適さでも上回っていたのだから驚きだった。

市街地とB級路を舞台に、さまざまな速度レンジや路面が入り混じったテストコースで、ミニの腰のある落ち着いたダンピング性能と、柔らかなサイドウォールの組み合わせは、素晴らしい輝きを放っていた。

つねに路面の状況が伝わってくるとともに、プライマリーとセカンダリーライドと呼ばれる、ボディを一定に保つ能力と、たとえ最悪の路面であっても衝撃を見事に吸収する能力によって、その快適な乗り心地が失われることはなかった。

この見事な乗り心地とホイールサイズの関係をさらに調査するべく、われわれは、路上の大きな穴に出会った際の衝撃吸収性能には劣る、より大径のホイールとタイヤをミニに履かせて試してもいる。

矛盾の塊 事態は複雑

一方のDS 7は矛盾の塊だった。このクルマのしなやかなセッティングは、減速帯や坂の頂点を通過するようなシーンでは、一見快適な乗り心地に感じさせるが、英国で多く見られる、荒れた路面に遭遇すると、サスペンションはホイールを上手くコントロールできず、市街地であっても、大きな路面不整ではシャシーが震える様子が明らかであり、例え、それなりのスピードを出していても、激しいショックが伝わってくる。

さらに、中速コーナーの路面にある大きな穴でも、このプレミアムSUVは簡単に安定を失ってしまうのだ(それでも、わたしが日常的に走らせている19インチホイールを履いたDS 7であれば、今回よりも優れた乗り心地を見せることはお伝えしておくべきだろう)。

では、なぜ大径ホイールが問題となるのだろう? かつて、ジャガー・ランドローバーで車両ダイナミクスの責任者を務め、現在では、VEDynamicsという車両ダイナミクス性能の開発サポートを行う会社を率いるデビッド・プークに話を聞いてみた。

「ひとつには、バネ下重量の変化があげられます」と彼は言う。「22インチのホイールとタイヤであれば、その重量は40kg以上にも達します。40kgもの物体が路面の突起や大きな穴とぶつかる様子を想像してみて下さい。どれほどのエネルギーが発生し、それがボディへと伝わるかをです。そして、最終的にはそのエネルギーを上手く吸収しなければならないのです」

あまり科学的な方法とは言えないが、実際にそれぞれのバネ下重量を体重計で測定してみたところ、ミニで約14kg、DS 7では、ほぼその2倍に達する26kgというものだった。

DS 7の車両重量はミニを235kg上回るに過ぎず、つまりは、このプレミアムSUVが持つ過大なバネ下重量が、吸収すべきダンピング量と相まって、乗り心地に大きな影響力を及ぼす結果になっているのだ。

それでも、プークは大径ホイールだけが原因ではないと言う。「原因は、タイヤ強度や重量配分といった、個別の問題ではなく、さまざまな要素が関連しています」と、彼は話している。

乗り心地以外にも問題 決断は慎重に

「タイヤそのものが複雑なスプリングとダンパーシステムであり、その内部のダンピング効果によって、乗り心地を悪化させることもあるのです。そして、その効果というものは、タイヤに掛かる荷重と空気圧によっても変化します。大径のタイヤであるとか、サイドウォールが薄いというだけで、乗り心地が悪化するわけではなく、単にダンピング性能が異なるというだけなのです」

つまり、最初から大径ホイールを念頭に開発が行われていたり、より先進的なサスペンションシステムを与えられた車両であれば、ホイールサイズのさらなる大径化とそれに伴う重量増にも対応が出来るということであり、さらに、こうした影響を完ぺきに相殺するための技術的な解決策もすでに存在するのかも知れない。

だが、乗り心地以上に考慮すべき点もある。より大きく、重いホイールは、しばしば燃費を悪化させ、タイヤに掛かるコストも無視することはできない。

タイヤ比較サイトのBlackcircles.comで調べたところ、DS 7が履くタイヤの価格は、18インチホイールの場合の128ポンド(1万7500円)に対して、同じ銘柄であっても200ポンド(2万7400円)以上高く、ミニのタイヤであれば、わずか67ポンド(9200円)で購入することができる。

さらに、大径ホイールには簡単に縁石に擦ってしまうという問題もあり、荒地を走行することの多いSUVであれば、より頭を悩ますことになるだろう。

では、それでもまだ大径ホイールを選択するだけの価値はあるのだろうか?

大径ホイールは、現代のクルマの大柄だが力強さに欠けるビジュアルを補完する役割を果たしており、薄いサイドウォールのタイヤは(理論的には)、コーナーリング時の安定性をもたらす。

だが、そうした点に価値を見出さないのであれば、ホイールサイズを上げる前に、もう一度よく考え直したほうが良いだろう。

番外編:ハイパフォーマンスモデル 乗り心地の秘密

シャシー開発を担当する技術者のなかには、大径ホイールが快適な乗り心地にもたらす避けがたい影響を認識しているものもいるが、同時に、そうしたホイールデザインを採用しないことは、非常に難しいとも言う。

そして、大径ホイールと高いグリップレベル、スポーティなハンドリング、さらには快適な乗り心地というものは、決して相反するものではなく、それをすべて実現することもそれほど難しくはないと言う。

ポルシェ・マカン・ターボやジャガーFタイプSVR、そしてフォルクスワーゲン・ゴルフRといったクルマは、素晴らしいホイールデザインが、必ずしも乗り心地を犠牲にするものではないということを証明する存在であり、ハイパフォーマンスなこうしたモデルに共通しているのは、先進のサスペンションテクノロジーとハイパフォーマンスタイヤ、そして、こうしたモデルであれば当然とも言える、素晴らしいサスペンションチューニングの見事な融合だ。

いまのところ現行マカンにターボは登場していないが、フェースリフト前、シンプルなトリムレベルのモデルには快適性が欠けており、だからこそ、フェースリフトを機にアダプティブ・エアサスペンションが標準となったのだ。エアサスペンション無しには、マカンの動力性能に対する評価も、これほど高いものとはならなかっただろう。

ゴルフRの場合、このクルマの印象的なほどしなやかな乗り心地を実現しているのは、サスペンションテクノロジーと見事なシャシーチューニングの成果であり、この成果を味わうには、オプション設定されているアダプティブダンパーを選択することが重要となる。

FタイプSVRでは、ジャガーの広範囲にわたるサスペンションの見直しと、対応すべき路面状況の優先順位の見直しが適切に行われた結果、単に他のモデルよりも優れたハンドリングと速さを手に入れるだけでなく、より素晴らしい乗り心地まで実現しているのだ。