時代が変わっても新入社員が離職する割合は変わらない (写真:EKAKI/PIXTA)

今年のゴールデンウィーク(GW)は史上最長の10連休となり、毎年恒例の「5月病退職」も急増したようだ。退職代行サービスへの問い合わせも増加しており、多くのニュースで取り上げられていた。


この「5月病退職」とは、慣れない環境で心身ともに疲弊した新入社員が、入社後1カ月足らずで長期連休(GW)に入るため、休暇中に仕事へのモチベーションが下がり、職場復帰できなくなるという現象だ。

正直、客観的な見方をすると、入社1カ月時点での「5月病退職」には、退職しないほうがいいと思えるケースも少なくない。

いつの時代でも新入社員は3年で3割辞める

もちろん入社した会社がブラック企業であったり、業務内容がまったく合わなかったりした場合は、短期離職であっても、退職して次の職場に移ったほうがいい。ただ、一時の感情によって衝動的に退職していることが多いため、短期離職によって転職活動が苦戦し始めると、「辞めなきゃよかった」なんてことを言い出す人もいる。

この5月病退職を乗り越えても、新入社員は徐々に辞めていき、入社から3年も経過するとその3割が辞めてしまうことはよく知られている。厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況」によると、直近20年では、ほぼすべての年度卒が30%を超えている。最も高いのが2004年度卒で、36.6%、唯一30%を切ったのはリーマンショック直後の2009年卒の28.8%だった。

では、なぜ新入社員は入社して3年で3割が辞めてしまうのか? その理由を「業界」「職種」「企業規模」ごとの離職率という切り口で検証してみようと思う。


まず「離職率」がどのような値なのかを説明したい。日々、20代の就活を支援しているのだが、離職率を会社選びの条件にしている割には、この離職率という数値の定義を理解していない人が多いように感じる。

離職率とは、「一定期間における、ある時点での従業員に占める離職した従業員の割合」だ。「一定期間」というのは、一般的に「3年間」もしくは「1年間」で算出している。

離職率は分母が「従業員全体」か「新卒」かで異なる

従業員全体の離職率は、次の式で算出される。

(離職率)=(期間内の離職者数)/(期間の初めの従業員数)×100

例えば、次のような条件下での3年以内離職率は6%となる。

<算出条件>
算出時点:2019年3月31日
2016年4月1日時点の社員数:500人
2016年4月1日から2019年3月31日までの離職者数:30人
離職率:30÷500×100=6%

厚生労働省の離職率データの場合、「新卒入社の社員に限った」3年以内離職率(新卒3年内離職率)を算出している。計算式は次のようになる。

(◯◯年入社の離職率)=(◯◯年入社の離職者数)÷(◯◯年入社の新入社員数)×100

例えば、次のような条件下での新入社員の離職率であれば、15%となる。

<算出条件>
算出時点:2019年3月31日
2016年入社の新入社員:100人
2019年3月31日までの離職者数:15人
離職率:15÷100×100=15%

このように同じ「離職率」でも、表している数値の意味合いが異なる。新卒採用での「離職率」は、後者の新卒3年内離職率を指すことが一般的だが、全社の離職率を公表したり、その算出方法も統一されていなかったりする。また、離職率を開示していない企業が多く、一概に比較することが難しいのが現状だ。

離職率を卒業年度ごとに見るだけでなく、ちょっと違った切り口で見てみると、新卒3年内離職率の違った一面が浮かび上がってくる。

1. 業界別の離職率の傾向

前述の「新規学卒就職者の離職状況」には業種別の新卒3年内離職率も公表されている。それによると、次の3つの業界が離職率の上位を占めた(全業界の平均は31.8%)。

1位:宿泊業、飲食サービス業(49.7%)
2位:教育、学習支援業(46.2%)
3位:生活関連サービス業、娯楽業(45.0%)

「生活関連サービス」には「理容・美容業」「旅行業」「冠婚葬祭業(ウェディング)」などが含まれる。これら離職率トップ3の業界の共通点を考えてみると、以下の特徴が見えてくる。

【業界別の新卒3年内離職率の特徴】
・BtoC(消費者向け)のビジネスモデルが多い業界である
・キャリアアップの範囲が狭い業界である(スタッフ→店長→本社勤務)
・業務内容がイメージしやすい業界である(学生時代にアルバイトで経験できる、もしくはユーザーとして利用)
・学生目線で「やりたいこと」に直結しやすい業界である(旅行、ウェディング等)
・平均年収が低い業界である

2. 職種別の離職率の傾向

業種別の新卒3年内離職率は厚生労働省をはじめ、いくつかの調査結果があるが、「職種別」の調査結果はあまりない。筆者の所属するUZUZでは、第二新卒者(一度就職して3年以内に離職した人)向けのアンケート調査を行っている。そこで職種についても聞いているので、そのデータから、第二新卒となる職種の傾向を見た。

第二新卒の前職は営業職とサービス職が半数

1位:営業職(29.5%)
2位:サービス(接客・介護・保育・美容など)(19.3%)
3位:技術・専門職(エンジニア・研究開発)(13.9%)


結果として営業職の離職率が突出しており、実に3人に1人は「営業職」という結果となっている。次に多い「サービス(接客・介護・保育・美容など)」まで含めると2人に1人がこの2つの職種のいずれかに該当している。

【職種別の新卒3年内離職率の特徴】
・営業職は個人ノルマが設定される傾向が強く、そのプレッシャーからの離職が多いと考えられる
・サービス職は、離職率が高い業界に所属している職種が中心のため、離職率が高い傾向にある(接客・介護・保育・美容など)
・技術・専門職も専門的な知識や技術の習得が求められるため、その負荷から離職率が多くなる傾向があると考えられる

3.企業規模別の離職率の傾向

厚労省の「新規学卒就職者の離職状況」には、事業所の規模別の新卒3年内の離職率も集計しているが、企業規模に反比例して離職率が低下するという結果になっている。

2015年度入社者の3年内離職率で見ても、全体平均が31.8%に対して、従業員5人未満の事業所が57.0%、5〜29人の事業所が49.3%、30〜99人が39.0%、100〜499人が31.9%、500〜999人が 29.6%、1000人以上が24.2%という結果になっている。その背景にある要因も含めて特徴を列挙してみた。

【企業規模別の新卒3年内離職率の特徴】
・従業員数が多ければ多いほど離職率は低下する
・30名規模に満たない企業だとおよそ半数の新入社員が3年以内に辞めている
・大企業であればあるほど、教育体制が整備されていると考えられる
・大企業であればあるほど、収入が安定していると考えられる
・大企業であればあるほど、転職に対する心理的ハードルが高くなると考えられる(大企業の安定を捨てるリスクを回避)

業種、職種、企業規模ごとの離職率の特徴から、「なぜ新卒3年以内に3割が退職するのか」についての理由を挙げると、次のとおりとなる。

1. 学生は自分のイメージできる仕事の中からしか仕事を選ばない
2. 学生が集まりやすい(イメージしやすい)仕事は総じて待遇がそこまでよくない
3. 仕事のネガティブな側面を把握せずに就職している(意図的に企業が伝えていない可能性大)
4. 中小企業やベンチャー企業といった教育体制が整っていない環境でやっていけるだけの耐性、主体性が学生時代に身に付いていない

どちらかというと学生側の落ち度という側面で挙げているが、現状の学校教育にも問題があると思う。学問中心の教育で、社会に出てから、どんな仕事があり、今の社会はどんな状況で、自分たちはこれからどう生きていけばいいのか、といったキャリア教育が不足していると思っている。

ファーストキャリアから学べれば短期離職もプラス

筆者は持論として、「離職したとしても、最初の就職(ファーストキャリア)から学んだことを評価」してもいいと考えている。

普通の学生であれば「働く動機」「自分の強み・弱み」「世の中にどんな仕事があるのか」といったことを知らない状態で就職している。だから、離職してしまうことはネガティブなことばかりではなく、ポジティブな側面もあると思っている。

短期離職したこと自体は企業からすると、「また辞めるのではないか」というネガティブな出来事になる。そのため、短期離職からの学びがあるか、明確なキャリアビジョンを持てているかが、最低限必要となる。「ただ辞めました」「辞めたけど全部周りが悪い(自分は悪くない)」といった「離職をプラスに転換」できていない人に関しては、厳しい現実が待っている。

短期離職したことで、自分と向き合い、自分の性質に合った適職を探すことができる機会になるのであれば、新卒3年以内の離職は長い人生で見ると、むしろ必要な経験なのではないかとすら思う。