業績の下方修正を受け、記者会見するみずほフィナンシャルグループの坂井辰史社長(記者撮影)

この痛みを反転攻勢につなげられるか。

決算期末まで1カ月を切った3月6日、みずほフィナンシャルグループは2019年3月期の連結純利益について、従来予想の5700億円から800億円に引き下げると発表した。有価証券売却損などで約1800億円、固定資産の減損損失で約5000億円をそれぞれ計上する。

三菱UFJ、三井住友に大きく出遅れ

みずほの業績はほかのメガバンクと比べて、大きく遅れをとっている。2019年3月期の業績は、三菱UFJフィナンシャル・グループが9500億円、三井住友フィナンシャルグループが7000億円の連結純利益を見込んでいる。みずほの従来予想5700億円はそもそも2社との距離感を感じさせるものだった。

2018年10〜12月期を終えた時点でもその差は歴然としていた。通期予想に対する純利益の進捗率では、三菱UFJが91.8%、三井住友が91.1%だったのに対し、みずほは71.9%にとどまった。目立ったのは市場部門の不調。2018年末に金融市場が混乱し、想定した結果が出せず、前年同期比829億円の減益となっていた。

みずほのリテール部門は苦戦続きだ。セグメント別の業務純益をみると、リテール部門は2018年度通期で156億円の黒字だが、他部門と比べて低水準で収益改善が急務だ。しかし、国内では低金利環境が続き、少子高齢化によって資金需要が増えることは見込みにくい。今回の減損処理は、リテール部門の厳しさが改めて浮き彫りになった格好だ。

リテール部門に関わる減損損失5000億円のうち、400億円は店舗統廃合に関わる損失にあたる。みずほは2017年11月に抜本的構造改革への取組みを発表し、店舗削減計画を発表した。当初の計画では、2017年3月末時点で約500拠点あった店舗を、2024年までに約2割、約100拠点減らすとしていた。今回この計画を見直し、大都市圏を中心に店舗のデジタル化を進め、追加で数十拠点の削減を計画しているという。人員については、計画通り2026年度までに1.9万人の削減を見込んでいる。

ほかの2メガは過去に店舗に関わる減損をすでに計上している。三菱UFJは前2018年3月期に店舗改革と不採算店舗の処理に430億円を計上。三井住友も2018年3月期に店舗改革費用として250億円を計上している。みずほは他メガに追いついた形になる。

残る4600億円の大部分はソフトウェアやシステムの減損だ。みずほは現在、新システムへの移行作業を進めている。2018年6月以降、9回に分けて週末のATM利用を停止しており、2019年7月に最後の移行作業が完了する予定だ。

新システムの総投資額は4000億円台半ばで、5〜10年で償却をする予定だった。大半はリテール部門に帰属しているため、今回の減損によって、年間800億程度とみていた毎期の費用負担は軽くなる。また、2018年12月末時点にあった外国債券の評価損(1531億円)の大半を今回、処理したとみられる。

坂井社長「懸念の処理はすべて完了」

今回の下方修正は本業の業績が不調であるというより、今後発生するであろう費用を2018年度中に前倒しで計上したものだ。その点、会計的には保守的な処理を行ったといえ、みずほの坂井辰史社長が「前向きな減損」と言うように、評価できる内容だ。坂井社長は6日の記者会見で「構造的課題を解決し、強みや底力を最大限に発揮するため、今回の一括処理がベストな選択肢であると確信している」と話し、「現時点で見通せる懸念の処理はすべて完了する」と強調した。

坂井社長は就任から1年を迎え、2019年度から新しい中期経営計画をスタートさせる。「次世代の金融業に舵を切る」(坂井社長)とし、「自前主義ではなく、連携も加速し、柔軟にスピーディに変化に対応する」(同)と意気込む。

たしかに、みずほは他社との連携が目立つ。3月4日にリリースしたスマホ決済アプリ「J-Coin Pay」は約60行の地銀と連携し、相互の顧客基盤を活用して加盟店開拓を進める。LINEとの新銀行設立やソフトバンクと連携したJ-Scoreなど、異業種との連携にも積極的だ。

一方で、本業の収益業績を伸ばす策については不透明な部分もある。今回の損失によって膿を出し切り、将来の成長にどのようにつなげていくのか。今回の減損で「背水の陣」を敷いたみずほの反転攻勢は、まずは5月公表の新中計にかかっている。