2月8日、不適切動画をSNSに投稿したアルバイト店員2人への処分を発表したくらコーポレーション(画像:公式サイトより)

SNSを通じた、いわゆる“不適切動画”の発信が止まらず、謝罪する企業が後を絶たない。2月9日にはセブン-イレブン横浜高島台店で、商品であるおでんの“しらたき”を口に含んでから戻すシーンが動画投稿され、ただちにセブン-イレブン・ジャパンは謝罪メッセージを出した。

しかし、翌日、今度はバーミヤンの厨房で調理中に中華鍋から上がる炎でタバコに火を付けて喫煙する動画がSNSで問題視され、こちらも謝罪メッセージがバーミヤンを展開するすかいらーくホールディングスから出された(ただし動画そのものは2018年3月撮影のもの)。

こうした不適切動画はほかにもファミリーマート、ビッグエコーなどにも広がり、それぞれ企業側が謝罪メッセージを出すに至った。不適切動画による謝罪が続いている理由は、社会的に大きな話題になっているうえ、埋もれていた過去の不適切動画投稿が発見されるなど、一種のブームになっているいう側面もある。

例えば、すき家の港北箕輪町店でアルバイト店員が“おたま”など顧客サービスに使う道具を不適切に扱った動画が投稿されたのは今年1月のことだが、一連の流れの中で過去の投稿が再発掘されている。

“バイトテロ”とも言われるこうした行為に対して、何らかの対策を施すことができるのだろうか?

最初の事例は2007年の吉野家「テラ豚丼」

今年になってから急増しているように感じられる、飲食店などでの不適切動画投稿だが、決して“つい最近”始まったものではない。筆者自身、何度も似た事例について記事を書いてきただけでなく、まだSNSの企業利用が現在ほど進んでいなかった頃は、社内のSNS利用ルール作りなどの相談に乗ったことも何度かあった。

動画投稿という点で言えば、2007年12月に投稿された吉野家の“テラ豚丼”事件が最初の事例だろう。深夜にアルバイト店員が、メニューにはない“テラ盛り”を作ってみせる動画を撮影。食材の不衛生な扱いなども問題となり、問題動画の舞台となったフランチャイズ店は契約が解除されて閉店に追い込まれた。

動画ではないものの、2013年にはローソンのアイスクリーム用冷凍庫内で寝そべった写真がツイッターに投稿されて問題となり、直後にブロンコビリーでキッチンの大型冷凍庫に入っている写真もツイッターに投稿された。衛生上の問題とイメージ対策から該当店舗が閉鎖された。

最悪だったのは2013年、個人経営のそば屋「泰尚(たいしょう)」の倒産事件だろう。食器や食洗機などを不衛生に扱った写真の投稿を発端に休業に追い込まれた同店は倒産。さらに2015年になると、「すき家」のアルバイト店員が店内でわいせつ画像を撮影して投稿するなど、いわゆる第1次バイトテロとも言える時期が続いた。

こうした問題が目立つようになった背景には、スマートフォンとSNSの普及により、写真や動画を簡単に誰もが撮影可能となったうえ、発信もしやすくなったことが挙げられるだろう。過激動画や写真を発信することによって、非日常的な注目を集め、虚栄心を満たす“悪ふざけ”の増加は、必ずしも日本だけの現象ではない。

後を絶たない不適切動画投稿……バイトテロ問題の本質は、事件を起こす本人に対するリスクが小さすぎることだ。そうした意味では「くら寿司」が、バイトテロ事件を起こした元従業員2人を刑事・民事で告訴したことが流れを変えるきっかけとなるかもしれない。

小さすぎる“悪ふざけ”の代償

事件のほとんどは学生アルバイト、あるいは20代前半までの非正規雇用者であり、社会的責任の欠如などを指摘する声もある。中でも高校生アルバイトの場合、経済的には保護者に依存しているため、雇用契約の解除がバイトテロの抑止力になりにくい。

2007年の「テラ豚丼」で最も大きな被害を被ったのは、フランチャイズ契約を取り消されたアルバイトの雇用者だった。ブロンコビリーの場合も、投資回収がまだ進んでいない店舗を閉鎖せざるをえなくなった出店企業側が損を被る形だ。バイトテロにおける事例では、店舗の閉鎖や該当従業員の解雇といった解決策が取られるものの、行為を行った個人に対する責任追及は甘い。

そば屋「泰尚」の例では写真投稿に関わったアルバイト4人が民事賠償起訴された。原告側は倒産時にあった3300万円の負債のうち、休業後の事業機会損失や従業員への給与支払い分など1385万円を請求、その後、和解したが和解金は4人分合計でも200万円にすぎなかった。

以前よりも虚栄心を満たす愉快犯が生まれやすい環境が生まれている中、悪ふざけの代償が小さすぎるのだ。

2月5日、回転寿司チェーン店のくら寿司の守口店のアルバイト店員がゴミ箱に廃棄された魚の切り身を、ゴミ箱から拾ってまな板に載せなおした動画が投稿された。調査の結果、実際に廃棄された切り身が顧客に提供された事実はなかったようだが、衛生面で特に配慮が必要な生魚を扱う店舗としては致命的とも言えるイメージダウンだ。

8日にくら寿司を運営する「くらコーポーレーション」は動画投稿に関わったアルバイト店員2人に対して法的措置を取る準備を始めたとのニュースリリースを発表した。

くらコーポレーションは法的措置を検討するに至った理由について「上場企業としての責任を果たす」「約3万3000人の従業員の信頼回復」といった理由に加え、「多発する飲食店での不適切行動とその様子を撮影した SNS の投稿に対し、 当社が一石を投じ、全国で起こる同様の事件の再発防止につなげ、 抑止力とする為」としている。

こうした動きに対し11日、セブン-イレブン・ジャパンも前述した“しらたき”を不適切に扱ったアルバイト店員2人に対して法的措置をとる意向を示した。

もちろん、まだ高校生のアルバイトとはいえ、従業員に対する教育責任が雇用者にもあるのではないか、個人に対する罰としては重すぎるのではないかとの指摘もある。しかし、“社会通念上、許されない行為”の認識を雇用主だけに背負わせることは合理的ではない。

なぜならば、問題を引き起こしているアルバイト店員の大多数は両親などの庇護下にあるからだ。雇用関係の維持に対してこだわる必要がない彼らに、雇用者が徹底した倫理観を植え付けるのは無理な話だ。

くら寿司のケースでは、食品衛生法上の問題、あるいは営業面では威力業務妨害、不衛生に扱った器具が使えなくなったのであれば、器物破損などに問われる可能性がある。このことを教える責任は、家庭はもちろん学校などの教育機関にもある。

現在のスマートフォンの原型とも言える初代iPhoneが発売されたのは12年前、2007年のこと。SNSの普及も同時期だが、日本でのSNS利用やスマートフォン普及が加速したのは2011年の東日本大震災が1つのきっかけだった。震災の混乱が収まり始めた2013年ごろから、SNSを通じたバイトテロが急増したが、それからすでに5年以上が経過している。

“悪ふざけでは済まない”という共通認識を、家庭や教育機関も含めて強く持つべきだろう。社会全体で問題意識を共有するきっかけにしたいと、くらコーポレーションが考えているのであれば致し方ない面はあるだろう。

スマートフォンとインターネットは、もはや生活の一部である。“誰でもSNSで情報発信できることのリスク”について、もはや「知らなかった」「禁止すればいい」「どう対処していいかわからない」では済まない時代。バイトテロ対策について、その責任を雇用者に求めるだけでは解決できない。

「雇用契約」の見直しが必要

一方で企業側も自衛手段は必要だ。教育だけでは解決できないかもしれないが、業務に関連した情報をSNSで発信することに関し、ガイドラインを作成して明文化。この中で、SNS発信がどのような社会的影響を与えるか、その影響範囲についても記述しておきたい。

「友人同士のやりとりのつもりでも、世界中の人から情報を見られていること」「友人以外でも情報共有する可能性があり、ものの数分もあれば撤回できない状況になる場合があること」「自分の情報発信によって大きな経済損失が生まれ、その責任が発信者に課せられる可能性があること」――。スマートフォンを子ども達が使うようになった社会的背景の中で、教育現場での対応は進んでいるが、学校における“SNS教育”と職場における禁止事項を具体的に関連付けるなど、リスクを想起しやすい内容を盛り込むことが望ましいが、その際に気をつけたいのは若年層とのSNSに対する認識、肌感覚の違いだ。

近年のバイトテロは、短時間で自動的に消えるインスタグラムの「ストーリーズ」という機能を発端にしたケースが増えている。2013年のバイトテロブーム時は、ツイッターの共有範囲に関する無知が引き起こした側面もあった。SNSの使い方の変化を大人たちも理解する必要がある。