ドトールコーヒーが苦戦している。今年9月まで既存店売上高は9カ月連続、客数は14カ月連続で前年を下回った。背景には「コンビニコーヒー」の台頭がある。淹れたてが飲めるなら、コンビニでいいという客が増えているのだ。一方で、ドトール日レスホールディングスは「できたて」を売りにするコッペパン店を増やしている。その関連とは――。
「パンの田島+DOUTOR」福岡ももち店(画像提供=サンメリー)

■横浜市で開業し、九州にも進出

首都圏を中心にコッペパン店を展開する「パンの田島」をご存じだろうか。

2015年に「綱島店」(神奈川県横浜市)と「川口店」(埼玉県川口市)の開業からスタートしたチェーン店だ。以来、東京都内など首都圏で店舗展開をし、11月21日には「マークイズ福岡ももち」(福岡県福岡市)に出店。12月14日には「イオンナゴヤドーム前店」(愛知県名古屋市)がオープンし、首都圏在住者以外にも注目され始めた。

運営するのは、ドトール日レスホールディングス(HD)傘下のサンメリー(本社:埼玉県坂戸市)。戦後すぐの1946年に東京・赤羽で開業した和菓子と甘味喫茶の店が、同社の祖業だ。その後、洋菓子やレストラン、焼きたてパンの専門店を運営し、2009年にドトール日レスHDの連結子会社となった。

開業以来、「パンの田島」は、飲食業界で知名度の高い親会社色を打ち出してこなかった。だが、福岡と名古屋の店は「パンの田島+DOUTOR」という店名にしている。なぜ今、そうした訴求をするのか。店の舞台裏を探った。

■「コッペパン」はシンプルだが奥が深い

「もともと当社は、東京・埼玉を中心に焼きたてパンの店『サンメリー』を運営し、一時は40店近く展開していました。現在は『石窯パン工房サンメリー』とあわせて29店舗を運営しており、そのパン製造で培った強みを生かしています。コッペパンに注目したのは、シンプルだけど奥が深いこと。実際に販売して、お客さまから『パンがおいしい』と言われると、素直にうれしいですね」

こう説明するのは、サンメリー取締役営業部長の田島康裕氏だ。1997年に日本レストランシステムに入社後、2012年にサンメリーに異動。新業態立ち上げを担った中心人物の1人だ。

名字でピンときた読者もいるかもしれない。店名の「田島」は同氏の名字から取られている。命名したのはドトール日レスHD会長で、サンメリー会長も兼任する大林豁史氏だ。グループ内の人気業態「星乃珈琲」は、ドトールコーヒー代表取締役社長・星野正則氏の名字に由来するなど、最近の同グループのブランドは、キーパーソンの個人名をつける例が多い。

「最初は(店名が)照れくさかった」と言う田島氏は、コッペパンの魅力をこう続ける。

「コッペパンの原料は、強力粉や薄力粉、生イースト、牛乳などから作られます。当店で販売しているのは、そうしてできた細長いパンの中に具材をはさむシンプルなものです。パンの風味に加えて、具材次第で、まったく違う味に変わります。現在は定番品のほか、年に4回、春夏秋冬で期間限定商品を提供しています」

■人気は「ハムカツ」や「つぶあんマーガリン」

約30種類あるという具材の中で、どんな味が人気なのだろう。

「1号店の開業当初から人気なのが、総菜系ではハムカツやコンビーフポテト。最近はエビカツが人気です。2017年秋に限定品として投入したところ、ハムカツに匹敵する人気となり定番化しました。甘いもの系では、つぶあんマーガリン、次いで生チョコクリームが人気です。店舗の従業員に『次はどんな具材がいいと思う?』と聞いたり、本社の従業員も試行錯誤したりしながら、新しい味を探究しています」(田島氏)

人気商品の「つぶあんマーガリン」(200円)と「厚切りハムカツ」(350円)/画像提供=サンメリー

具材の条件は、量産化でき、一定の主張がある味だ。過去には、ちくわの天ぷらや厚焼き玉子も試したという。「パンの田島」の特徴は、グループ内の食材を活用できること。料理系に強い日レス、ドリンクに強いドトールと連携できるのは、競合との差別化につながる。

各店の状況は立地で変わり、物販のみ/店内飲食可能の2タイプがある。今回取材した「笹塚店」(東京都渋谷区)はイートインもでき、座席数は26席だ。福岡などの新店にドトールの名前を入れたのは、「安心感のアピール」(ドトール日レスHD広報)とイートイン強化の姿勢を示している。

■店内は「学校の教室」をイメージした

「パンの田島」の店内は、木造校舎時代の小学校教室を思わせる造りだ。

昔の小学校教室をイメージした店内(編集部撮影)

「コッペパンは学校給食のイメージが強いので、そのように演出しました。店舗スタッフの服装は給食当番風にし、スタッフルームも『職員室』となっています」(田島氏)

実は、歴史的にも関連性がある。もともとコッペパンは、昭和10年代に田辺玄平という人が発明した。ホットドッグのバンズに似ているが日本独特の形だ。関東近郊で暖簾分けしている「丸十パン」グループの始祖である田辺は、製パン技術を米国で学び、大正初期に日本で初めてイーストによる製パンを開発した人物だ(「全日本丸十パン商工業協同組合」公式サイトほか参照)。

学校給食の歴史はさらに古く、1889(明治22)年に山形県鶴岡町(現鶴岡市)の私立忠愛小学校(当時)で始まったとされる。学校は大督寺境内にあり、僧侶がお経を唱えながら近隣を1軒1軒回って米やお金を受け取り、貧しい家庭の子どもたちに昼食を提供したそうだ(鶴岡市公式サイト、全国学校給食会連合会公式サイト参照)。

戦後、「学校給食」と「パン」が結びつき、コッペパンが日常的に給食に登場するようになった。昭和20年代の給食献立として資料に残っている。ただし当時のコッペパンは固く、現在の柔らかいコッペパンを当時の児童が食べたら驚くだろう。

■ドトール日レスの物流網を活用

現在、「パンの田島」は十数店を展開しているが、その場所は埼玉県から九州の福岡県まで店舗数の割に幅広い。一般に、離れた地域に食材などを届ける場合は、物流コストが高くつく。

そのため飲食業界の出店戦略で多いのが「ドミナント方式」だ。特定の地域に集中出店して認知度・効率性を高める手法で、利用者が通う頻度が多いラーメン店などでは有効だ。「パンの田島」が離れた立地に出店できるのは、「全国展開しているドトール日レスの物流網を生かせるから」(田島氏)だという。その場所選びについては、こう説明する。

「開業当初は『生活者の多い町』の『雨でも買い物しやすい屋根付き商店街』にこだわっていました。その頃から現在まで、まずは『出店できる物件ありき』で展開しています」

福岡市と名古屋市の新店が商業施設に入っているのは、デベロッパーからオファーがあり、条件面で合意したからだ。コッペパン店への注目度が上昇した結果といえよう。

■コメダもコッペパン店を積極展開

ドトールコーヒーの競合としては、コメダ珈琲店が「コメダ謹製 やわらか白コッペ」のキャッチフレーズで、コッペパン専門店を展開している。2017年9月1日、東京スカイツリーの真下にあるショッピングモール「東京ソラマチ」に期間限定店でスタート。その後、各地に常設店として広がった。現在は15店を展開する(2018年12月現在)。

2017年に期間限定で「東京ソラマチ」にオープンしたコメダ珈琲店のコッペパン専門店「やわらかシロコッペ」(2017年編集部撮影/現在は閉店)

「もともとコメダ珈琲店はパンにこだわってきました。40年前から提供している看板商品『シロノワール』は、デニッシュパンの上にソフトクリームを載せて出していますが、このデニッシュパンも自家製です。そこで『パンを使った別の商品を提供できないか?』を社内で議論するうちに、コッペパンに行き着いたのです」(コメダ広報担当者)

実は、“コッペパンの聖地”と呼ばれる店が岩手県盛岡市にある。創業70年の「福田パン」(フクダパン)だ。店頭では1個139円から販売。盛岡市内の高校にも配達しており、「福田パンを食べて大人になった」と話す盛岡市民は多い。福田パンの流れを継ぐ「吉田パン」は、東京・亀有に本店がある。このほか墨田区京島の「ハト屋」(2017年に閉店)は、大正元年創業と福田パンより歴史が長く、東京におけるコッペパンの聖地となっていた。

つまり個人店が長年営業してきたコッペパン専門店に、ここ数年で大手カフェ系の店が参入するようになったのだ。

■人気商材としての「コッペパン」の将来像

そもそも、なぜコッペパンなのか。ひとつの仮説は「コンビニにはない商品」ということだ。「パンの田島」は、看板に「焼きたて 揚げたて 作りたて」を掲げている。これは「できたて商品」というコンビニにはない売りをアピールしているかのようだ。

ドトールを含めたセルフカフェは、コンビニコーヒーの登場で影響を受けた。関係者の話を総合すると、「持ち帰りの客が減った」ということらしい。淹れたてのコーヒーが飲めるなら、セルフカフェに立ち寄る理由はない、価格もコンビニなら100円ですむ、ということだろう。

ドトールコーヒーショップの既存店売上高は2018年1月から9月まで9カ月連続、客数は2017年8月から2018年9月まで14カ月連続で前年を下回った。直近の10月度はいずれも前年比プラスに回復しているが、テコ入れが必要な状況にある。

■できたてをテイクアウトできる魅力

そこで「作りたて」のコッペパンなのだ、と考えることができる。一部のコンビニは「できたて商品」を提供しているが、まだ限定的だ。「できたてコッペパンを提供するカフェ」は、イートインでの魅力だけでなく、テイクアウトの客を集められるという点で、コンビニへ逆襲する店に化ける可能性を秘める。

「焼きたて 揚げたて 作りたて」をうたうパンの田島の看板(編集部撮影)

そしてコッペパンは商材としても勢いがある。40年以上コーヒー業界に関わる専門家は「今後もコッペパンの人気は続くと思う」と話す。理由は「パン食としてのなじみの深さ」「コーヒーとの親和性」だという。また価格が手頃なため、ちょっとしたお土産や自宅用にも利用しやすい。

「パンの田島」は現在、1日当たり客数200〜300人(モデル店の平日平均)だが、やり方次第では上積みも期待できそうだ。

■パン製造技術を活かしてさらに成長できるか

ドトール日レスHD広報は、「『パンの田島』は、ホールディングスとしての『ドトール+日レス+サンメリー』のシナジー業態であり、ドトールコーヒーショップの業績挽回を狙う業態ではない。このため『ドトールコーヒーが苦戦しているから、コッペパンで挽回』という文脈は成立しない」と説明している。

とはいえ同社は、これまでも新業態に挑戦し、試行錯誤しながら人気店に育ててきた。引いた視点で考えれば、手軽に行けるカフェだからこそ、たえざる改革が必要とはいえないだろうか。つまり、消費者の声をただ「聞く」のではなく、その背景の潜在意識も「聞き分ける」という姿勢だ。できたてのコッペパンは、特に冬は身体も心もホッとする。

サンメリーは焼きたてパンの店も同時展開する。パン製造技術を生かし、カフェ機能も加えた「パンの田島」を新たな収益の柱に育てられるか。現代の消費者は移り気だ。「目新しい」と「飽きさせない」のバランスを取り、持続させる必要があるだろう。

----------

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

----------

(経済ジャーナリスト 高井 尚之 画像提供=サンメリー 撮影=編集部)