有頂天になり遂に「墓穴」を掘った金正恩外交
金正恩氏が、いささか有頂天になり過ぎているようだ。
韓国青瓦台(大統領府)は9日、北朝鮮の金正恩党委員長がローマ法王フランシスコの訪朝を要請したと明かした。文在寅大統領が17、18日にバチカンを公式訪問した際、法王フランシスコに金正恩氏の意向を伝えるという。
青瓦台によると、金正恩氏は法王フランシスコの訪朝が実現すれば「熱烈に歓迎する」との意向を示している。
だが、北朝鮮はかねてからキリスト教徒への迫害が指摘されており、法王フランシスコが訪朝の意向を示したとしても、環境が整うかは微妙だ。北朝鮮の秘密警察である国家保衛省は、中国から脱北者が強制送還されると、「中国でキリスト教関係者と接触したか」と厳しく問いただし、場合によっては情け容赦ない拷問を加え、処刑してきた。
また外国人のキリスト教徒が、北朝鮮で「性拷問」を受けたとの証言もある。
(参考記事:「北朝鮮で自殺誘導目的の性拷問を受けた」米人権運動家)
米国務省が5月29日に発表した2017年版の「信仰の自由に関する国際報告書」は、北朝鮮では2017年の1年間に、宗教活動をしたという理由から119名が処刑され、770名が収監されたと指摘。また、宗教を理由に87名が失踪し、48名が強制移住させられ、44名は身体的に負傷したとしている。
一方、このようにキリスト教を弾圧してきた北朝鮮の体制には、決して国民に知られてはならない秘密がある。金正恩氏の祖父である金日成主席が、クリスチャンの家庭で育ったという事実がそれだ。彼が教会に通っていたことは、本人の回顧録でも述べられている。両親が「休息のため通っていただけだ」とする記述になっているが、実際はそうではあるまい。
金日成氏の母親、つまり金正恩氏の曾祖母にあたる康盤石(カン・バンソク)氏の名前は、新約聖書に出てくる「使徒ペテロ(岩)」にちなんでいる。もともと分断される以前の朝鮮半島北部は、南部よりキリスト教が盛んであり、平壌(ピョンヤン)は『東洋のエルサレム』と呼ばれていたほどだった。金日成氏の父親が通っていた学校も、キリスト教系の学校だった。彼自身も、キリスト教の影響を強く受け、手術を受ける前には祈っていたという証言すらあるのだ。
もしかしたら金正恩氏は、法王フランシスコとの会談でこのようなエピソードを持ち出し、支持を得ようと考えているかもしれない。だがその程度では、北朝鮮の人権問題をごまかすことはできないだろう。
米国のトランプ大統領も韓国の文在寅大統領も、非核化を優先して人権問題からは目を背けているが、法王フランシスコはこの2人と同じような行動を取るわけにはいくまい。北朝鮮当局はキリスト教徒のみならず、一般国民に対してもひどい人権蹂躙を行っている。それに言及しないようでは法王失格と非難されるだろう。
金正恩氏は、法王フランシスコから面と向かって人権問題の改善を求められたとき、果たしてどのように答えるのか。また人権問題を理由に訪朝を断られたら、それもまた金正恩氏が墓穴を掘った形になるのだ。