ジャガーさん「若者がTVを見ないのは当然だ」

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2017年に千葉テレビの終身名誉応援団長に任命されたジャガーさん。現在も千葉テレビで毎日3分間の「おやすみJAGUAR 天気予報」を、1日の最後の番組として放送している(撮影:梅谷秀司)

ロックミュージシャンのJAGUARさんをご存じだろうか。「宇宙のかなたにあるジャガー星生まれで、30年ほど前に宇宙船ジャガー号で地球に到来し、千葉の鋸山に着陸。それ以来、たまに千葉県市川市に帰ってくる。地球では仮の姿で洋裁チェーンの経営者をしている」という強烈なキャラクターで、千葉のスターとして知られている。
かつて千葉テレビ放送の番組枠を自費で買い取り、番組を放送していた伝説のスポンサーで、自ら番組を作り続けるクリエーターだ。現在でいうユーチューバ―の先駆けといえるだろう。2015年に「月曜から夜ふかし」(日本テレビ系)で取り上げられると、人気は一躍全国に広がった。今ではテレビやイベントに引っ張りだこだ。
テレビ業界は今、逆風の真っただ中にある。若者を中心にテレビ離れが指摘され、広告もリーマンショック以前の水準を回復できない。ネットでは「つまらない」「不謹慎」などとバッシングを受けることも頻繁だ。YouTubeも以前と比べものにならないほどの人気を獲得している。30年以上前からテレビで、そしてネットでも発信を続けてきたジャガーさんは、テレビ業界をどう思っているのか。市川市に停泊中のジャガー号で、ジャガーさんのテレビ論を聞いた。

テレビよりスマホのほうが面白い

――テレビがどれだけ見られているかを示す総世帯視聴率が低下し、各種のアンケートでもテレビ視聴時間が減るなど、テレビ局はテレビ離れに苦しんでいます。

若い人がテレビを見ないのは当然でしょ。みんなスマホを持っているし、テレビよりスマホのほうがずっと面白い。スマホはYouTubeなどのサービスで面白い動画を自分で探して視聴できる。しかもコンテンツは無限にあるでしょ。一方のテレビはチャンネル数が極端に少ない。好きな番組も限られているし、番組が始まる時間まで待たなくてはいけないし、テレビをつける必要がなくなってしまっている。

――ネットを中心に「テレビはつまらない」との論調もよく見られます。テレビは本当につまらなくなっていると思いますか?

みんなそう言っているよね。競争相手が増えちゃったからだと思う。ジャガーが30年前に「HELLO JAGUAR」という番組を始めたとき、映像といえばテレビ以外になかった。今はネットでYouTubeなどの動画配信サービスがたくさんありますから。しかもユーザーは無料で動画をどんどんアップできるし、環境が大きく変わってしまった。ジャガーも動画をアップしていますよ。

一方で、テレビは昔とやっていることが変わっていない。昔と同じ人が今も出ている。ビートたけしさんとか、ベテランがずっと出ている。彼らの存在が偉大だし、代わりがいないんだろうね。若くて魅力的なスターが出てこないから若い世代の視聴者が見ない、ということもあると思う。


ジャガーさんは著名バンドとの付き合いも長い。「X JAPANのHIDEくんはジャガーカフェというライブハウスの従業員として働いていました。多くのバンドの方が出入りしていてGLAYのメンバーも来ていたと思います。氣志團の綾小路翔くんはバイトの面接に来たんですが、中学生であまりに若かったので断っちゃった」(撮影:梅谷秀司)

視聴者のレベルが上がっていることも大きい。スマホが普及したこの10年くらいで、映像を見る人の目は飛躍的に肥えてしまった。

ジャガーもスマホは好きだけど、今は高校生でもスマホで世界中の映像を一瞬のうちに見ることができる。だから、家に帰ってゴールデンタイムのテレビを見ても、YouTubeとかと比べて「なんだこりゃ。これじゃ見ないよ」となってしまう。

ネットニュースやSNSの普及も影響している。情報はとても早いし、たくさんのニュースがあって、検索すれば「あれ、これは何だったっけ?」とすぐに調べることができる。ワイドショーのコメンテーターの話も、昔だったら丸のみでそのまま信じていたけど、今なら「あれは違うよね」という見方が出てくる。そういうところもテレビが厳しくなっている原因かもしれない。

過去のコンテンツを気軽に見られたらいい

――テレビをもっと見てもらうために、どんな仕組みが必要だと思いますか?

ジャガーは30年くらい前にテレビ朝日の番組に出ていたけど、それを今見たいと思っても見られない。そういう過去のコンテンツを視聴者が簡単に引っ張り出して見られるようにできれば画期的だよね。有料課金にしてさ。テレビ局にはこれまでの番組やニュースなど、膨大な映像コンテンツのストックがある。見たい人は絶対に多いはず。もちろん、権利処理の問題はあるけど。

テレビを「スマホとテレビの中間」みたいにしてしまえばいい。リモコンなんかも、今のものは操作性が悪いしどうしようもないじゃない? あんなものはタッチパネルでスマホみたいにすればいい。ちょっとクリックすると過去の映像を見られるとか。グーグルみたいな検索があればいいよね。

さっきから悪口ばかり言っているな(笑)。スマホの画面はこんなに小さいけど、テレビはやっぱり大画面というのが強みだから。テレビで好きな時間に何でも見られるようにすればいい。ジャガーも大迫力の70インチの液晶テレビで見ています。たとえばだけど、こうしたアイデアが必要ですね。


たくさんのディスプレーが並ぶジャガー号では、ジャガーさんが生配信をしたり、曲を作ったり、社交ダンスを楽しんだりしている。ジャガーさんは一時期、爆風スランプでベースを弾いていた経験もあるミュージシャンだが、ロック以外の曲が多い。影響されたアーティストを聞くと、「ビートルズ、ローリングストーンズ、ボブ・ディラン、エルヴィス・プレスリーと数限りない。最近はVersailles(ヴェルサイユ)という日本のバンドですね」とのことだった(撮影:梅谷秀司)

また、SNSではテレビ番組への反響もリアルタイムでどんどん流れてくる。ニコニコ生放送なんかは、見ているユーザーのコメントが画面に流れるので面白いよね。スマホ経由で番組へのコメントを書き込んだらどんどん画面に出るとか。テレビもああいうことができるといいのかもしれない。

――今の地方局の役目は何でしょうか。ネット時代に入り、その役目は変わっていくのでしょうか。

地域密着の番組をやるなど、ローカルにきめ細かいですよね。あれはすごくいいですね。キー局じゃ絶対にできないことをやっている。これからも地域の詳しい情報を伝える、という役目は変わらないと思う。

自ら番組枠を買い取ったきっかけ

――30年前の千葉テレビも、今のように地域情報を中心とした番組が多かったんですか?

だとは思いますね……。昔のことはあまり詳しくないんだけど。

――どんなテレビ番組をよく見ていますか?

キー局だと「月曜から夜ふかし」は仕事柄よく見ますけど。あとはドラマや映画。テレビ朝日の「相棒」シリーズなんかもよく見ています。千葉テレビは「白黒アンジャッシュ」?とか……。

――実は千葉テレビをほとんど見ていない?

いや……、はっはっは(笑)、朝の情報番組はチラッと見ますよ。たまにジャガーも出るし、テーマソングも作ったんだけど……番組の名前は何だったっけ? チバテレの看板番組はなんつったってジャガーだから(笑)

――ジャガーさんは自費で千葉テレビの番組枠を買い取り、1985年から約10年間「HELLO JAGUAR」を放送(2005年と2010年、2016年にもレギュラー放送)していました。きっかけは?

ジャガーの曲を知ってもらいたいという気持ちでした。それまではテレビ神奈川とテレビ東京、千葉テレビで15秒間のCMを流していたんです。ところがCMは高いしとても短い。そこで千葉テレビと話をして、番組ができないかと相談したら「できます」ということだったので、5分番組に切り替えてやってきた。5分だと曲を流すだけじゃなくて、いろいろなことができる。

ジャガーさんは自ら千葉テレビの番組枠を買い取り、1985年から約10年間「HELLO JAGUAR」を放送してきた(動画:千葉テレビ放送)

「HELLO JAGUAR」もあくまでジャガーの音楽の宣伝なんです。当時はものすごい反響だったんですよ。電話番号も載せていたので、問い合わせの電話が一日中鳴りっぱなしで。同時期にテレビ神奈川でもやっていて、後半はテレビ埼玉でもやっていた。マツコ・デラックスさんのように「ジャガーを見て育った」と言ってくださる方もいて、インパクトがあったんだと思います(笑)。

今のテレビには新鮮さがない

――独特な映像ですが、撮影、編集をすべて1人で行っていたと聞いています。

昔は大変でした。放送局と同じレベルの機械を自前でそろえていましたから。カメラとかはみんな1千万円単位で、すごい金額でした。作業は全部1人でやっていて、編集方法も全部自己流で、誰にも教わってないですね。今ではパソコンで作業ができるようになって、費用はずっと安くなって、発信しやすくなっています。


「ジャガーのほうが忙しかったり、本業が忙しかったり、年によって違うけど、最近はジャガーが忙しい」と言う。ジャガー星ではジャガーさんも人間のような存在ではなく石ころのようなもので、みうらじゅん氏もジャガー星の同級生だ。1年ほど前には新たにジャガー星から連れてきたサングラスの親衛隊員が「チームジャガー」を結成し、ジャガーさんの活動をサポートしている(撮影:梅谷秀司)

――ジャガーさんがテレビ局のプロデューサーだったとしたら、どんな番組を作りたいですか?

ロックバンドとか、アマチュアの実力のあるバンドがどんどん出られるような音楽番組をやってみたいですね。昔は「三宅裕司のいかすバンド天国」(TBS系)とか、ものすごいブームがあった。あんなコンセプトの番組があるといいね。今の音楽番組は出ている人がいつも同じじゃないですか。

やっぱり、今のテレビには新鮮さみたいなものがないね。地方局は地域密着の情報発信に特化しているけど、キー局は全国に向けて放送しているのでそうはできない。だから何らかの個性が必要。同じ人が出ていて、どのチャンネルも同じじゃつまらない。

AbemaTVも出演して楽しかったですけど、内容的にはテレビ局の番組と似たことをやっている気がしました。司会者がちゃんといて、コメンテーターがいて、普通のテレビ番組と違う感じはしなかった。ただ、こうした取り組みはやっていかないといけない。いいことだと思いますよ。