ルヴァンカップ準決勝での退場劇を経て、その後のリーグ戦における奈良は奮迅の働きを見せている。その心中やいかに!? 写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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 ピッチリポーターとして取材をしていると、選手の言葉に、つい自分自身を振り返って考えさせられることがある。サッカー選手はひとの何倍もの速度で、いろんな喜怒哀楽を経験しているのだと思う。若い選手から学ばされることも本当に多い。
 
 最近だと、川崎フロンターレの24歳、奈良竜樹選手だ。先日、彼はこんな言葉を口にした。
 
「チームが勝ったから言えるんですけど」と前置きしたうえで、「自分は、退場になったこともいまではよかったと思ってるんです。一時期試合に出られなくて最近は出してもらっているなかで、もしかするとどこかプレーが怠慢になっていたところがあったのかもしれない。もう一度気を引き締めろって、そんなに上手く行かないぞって、なにかが教えてくれたのかなと」
 
 ルヴァンカップ準決勝2ndレグ、ベガルタ仙台戦で彼は退場処分を受けた。リードはしていたものの、失点をすれば一気に形勢が逆転する。フロンターレの勝ち上がりが怪しくなったその状況下で、わたしが最初に思ったのは、「奈良選手は決勝に出られないのか」……だった。
 
「フロンターレへの周りの声、目を変えたい」
 
 以前、タイトルへの想いを尋ねた時、奈良選手はこう答えてくれた。
 
「フロンターレは大事な試合で勝てないと言われることが本当に悔しい。例えばビッグゲームをモノにした次の試合を落としたら『やっぱりフロンターレだ』って。でもそれはフロンターレがタイトルを獲っていないから。優勝することで、フロンターレは勝利にこだわる集団なんだと証明したい。フロンターレの強さ、価値を証明したいんです。僕はフロンターレがJで一番のクラブだと思ってます。そのクラブにタイトルを獲らせたい」
 
 移籍加入してまだ2年目の選手とは思えない熱量で、フロンターレについて語る奈良選手。その姿に、少し驚かされた。
 加入1年目の昨シーズンは彼にとって相当に厳しいものだった。新チームでレギュラーを掴み、目標としていたリオオリンピックが目前という矢先に、左足を骨折。黙々とリハビリをこなし、ようやく復帰したかと思いきや、再び同じ箇所を骨折した。
 
「失なうものもあった、悔しさが大きい一年でした。でも、タイトルへの想いはより強くなった。(中村)憲剛さんや(小林)悠くんがカップを掲げる場所を作りたいし、そこに貢献したいと」
 
 五輪の夢を絶たれただけでなく、去年のリーグ優勝争いのほとんどをスタンドから眺め続けた。与えられた試練のなかで、みずからの新たな目標を鮮明にしていったのだ。
 
 ところが今年もまた、奈良選手はまずひとつめのタイトルが懸かった大一番をスタンドから観ることになった。どんな想いでいるのか、少し時間が経ってから話を聞いた時の言葉が、冒頭の「退場になってよかった」だ。
 
 本当に? タイトルに貢献したいと切望していたのに、そんなふうに思えるものなのか?
 
「もちろん決勝に出られないことは悔しい。だけど、過程のなかでやってきたことに自信を持っている。チームが優勝した時に、その結果に恥じないプロセスをチームと一緒に自分も歩んできた、そこに誇りを持ってるから」
 
 もし適当にやってきてこの現実なら、自分を許せなかった──と、そう話す奈良選手の言葉にうなずきながら、でもわたしならそんなふうに切り替えられないかもしれない、と食い下がってみる。
 
「切り替えられてるかどうかは分からないですよ。正直、まだあの試合の映像は観れていない。決勝が近づくにつれて悔しくてしょうがなくなるかもしれない」
 
 だけど、と奈良選手。「それはあくまで結果だから。それより、そこに至るまでに自分がなにをしてきたかが重要だと思ってるから」。