試合での衣装をイメージしてふだんから自己管理



ーー乗馬そして馬術。やってみようと思ってもなかなか簡単そうではありませんね。いっぽうで近年、乗馬の動きを採り入れた健康器具が発売されています。実際の乗馬は、カラダにいい効果があるのでしょうか?

確かに体幹を使うスポーツです。足全体で馬を包み込んで挟む力も必要です。さらに腕の筋力も多少。 有酸素運動やどこかの筋肉を集中的に鍛えるものとは違いますが、本当に全身を使う競技。どこかに偏ることなく体を動かせるっていう面では、すごくよいスポーツだと思います。さらに動物と戯れることによって、すごい癒やし効果みたいなのも得られます。ホースセラピーについても最近よく話を聞きます。科学的に証明されてるようです。乗馬や馬術をたくさんの人に親しんでもらいたいですね。

ーー競技者としての体重維持もあるのでは?

他の競技と違って何kgまでじゃなきゃいけないっていう決まりは一切ないんです。でも、私がやってるのは馬場馬術なので、審判の方に演技をジャッジしてもらう競技なので、ある程度はスタイル維持……とまではいかないんですけど、少し心がけているところはあります。観ていて「この人の乗り方綺麗だな」って思ってもらえるように、ある程度自分の中での限界ラインみたいなのは決めています。 好きなものはどんどん食べるんですが、いっぽうで競技時の燕尾服(テイルコート)を着た自分の姿は普段からイメージしますよね。すごく自分にフィット していて、背を高く細く長く、馬に乗ったときに綺麗に見えるように特別に作られてるジャケットなんで、それを着たときにすごい見栄えがいいように自分の中で心がけてます。



ーー馬場馬術には規定演技と自由演技 (キュア)があります。自由演技はいわば、「馬とのダンス」ですよね。どうやって作りあげるのでしょうか。

自由演技は私の先生である下田ますみさんに作って頂いてます。ますみ先生が私と馬とのコンビネーションを全て知ってくださっているので、私が完璧にこなしさえすればひとつのドラマが出来上がるようになっています。作っていただいた自由演技(キュア)の曲と構成に恥じないような、壮大さに恥じないような演技をすることを考えています。意気込む、というか自然にそうなるように取り組む感じですね。

自分が「無」になっているかが集中力のバロメーター



ーー以前、国体の自由演技後に「気持ち良かった!」と言葉を発していたことがとても印象に残っています。そんな心情になるのは、どんなときでしょう。

本当に集中して競技に臨めたときって本当に無の状態なんです。流れてる音楽に合わせないと綺麗な演技はできないんで。もちろん音は聞きながら考えながら演技はしてるんですけど、でも自然と体が動いてるような感覚なんですね。あれやらなきゃ、これやらなきゃっていう切羽詰まった感じではなくって、細かいことは事前に早め早めに考えていて、演技をしながら冷静に判断できているなという感覚はありました。



ーー無の状態。こうなると馬とのコミュニケーションはどういった感じになるのでしょう。

自分が本当に無になって演技に臨めているときって、人間の気持ちが馬とすごくリンクできてると思うんですよ。人間が心の中でこうやりたいなって思っていたら、もちろん動作でも指示はだしているんですけど、馬もそれに自然と答えてくれる。オーバーなリアクションしなくても、馬もちょっと少し小さめのリアクションでも反応してくれます。そういうときは本当に自分と馬にとっての最大限の演技ができますね。

ーー準備が大切。髙田さんの話からはそういった点を感じます。

小さなリアクションで馬に反応してもらうためには、やっぱり普段からの馬に対する接し方や、お世話、お手入れなどが大事ですよね。あとは馬房と言って普段住んでいるお部屋の掃除も。馬の身の回りのことも私はすべてやっているので、そういうところから馬とのコミュニケーションが始まっています。近くにいながらスキンシップを取るんです。それが演技中の小さなリアクションで馬が反応してくれることに繋がっていくんだろうなと思ってます。

ーー365日のうちほぼ毎日会っている?

300日くらいは会っているんじゃないですかね。たぶん。休みも週に1日だけなんですけど、その休みもあったりなかったりなんで。 毎日スキンシップを取ることが必要だと思っています。



ーー馬に立腹するときもありますか?

ありますね、やっぱり。反応して欲しいと思っても、ふだん通り動いてくれないこともある。それで失敗したことも何回もありますし、そういうときはちょっと馬に八つ当たりしたくなりますけど……ぐっとこらえて“もう1回頑張ろうね”って、一緒にそれを乗り越えていけるように接してます。

東京五輪、そしてその先も目指していく



ーー今後の目標を。

馬場馬術に限らず、馬術というスポーツが生涯スポーツと呼ばれています。本当に小学生から60歳70歳まで続けられる。法華津寛選手(71歳にしてロンドン五輪出場。64年東京五輪にも出場しており、「はじめての五輪出場から次の五輪出場までの最長期間経過」としてギネス記録に認定)は、73〜4歳でも現役ですし、東京五輪を目指すと言ってらっしゃいます。そのぐらいの年齢の方でも続けていけるようなスポーツなんで長く続けていきたい。法華津選手までは求めていませんが、でもやっぱり体が続く限り続けていきたいなと。 生涯競技者として馬術を続けていきながら、馬術という競技の認知度を上げたいんです。試合会場以外でも「あ、馬術ね、この選手ね」と分かっていただけるようなメジャーなスポーツになっていったらなと思っています。その手助けをしていきたい。それが私の目標ですかね。

ーーこの競技の本場は、欧州・ドイツですよね。本場での魅力も伝えたい。

そうです。たくさんありますね。やっぱりヨーロッパの馬術の大会は一つのお祭りみたいになっています。日本だと単純に馬術の大会っていう感じなんですけども、海外の大会はすごいエンターテインメント性がある。観客を楽しませようとするコンテンツがたくさん盛り込まれているんです。結果もすぐわかるし、解説とかも入ってるか ら、「今何してる」とかいうのが、「今成功した」「失敗した」って言うのも分かりますし。初心者の方でもわかるようにしっかり作られてるんで、そういうところは観ていて知っている私でも楽しいですし、日本もこうなったらいいなって思いますね。

ーー東京五輪にも期待しています。

近い目標としては、来年のジャカルタアジア大会もありますし、3年後には東京五輪が控えてます。もちろん、そこは目指しますが、東京大会だけにこだわらず、これから何大会も出場できるような選手になりたいなって思ってます。



馬術というなんとも高貴そうなスポーツ。ちょっと遠い世界の存在なのかな……と思いきや、髙田は凛としていた。ハレの舞台・試合の日に向けた地道な準備。それはほぼ毎日馬のもとに通ってのスキンシップのみならず、馬の身の回りの掃除にまで及ぶ。燕尾服をイメージした自己管理も然り。すべては大会で「無」の集中力を発揮するために。「準備が重要」。彼女にとってのこのルーツは、中学校時の試験勉強から始まっているのではないか。「日程から逆算して勉強」。文武両道もまた準備に始まる。そんなことを感じさせた。



<プロフィール>
髙田茉莉亜(たかだ まりあ)

1994年東京生まれ。2017年慶應義塾大学商学部卒業。アイリッシュアラン乗馬学校所属。小学校から乗馬を始め、6年生から本格的な馬場馬術のレッスンを受ける。全日本ジュニア馬場馬術大会、国民体育大会、全日本馬場馬術大会などで優勝・入賞多数。2016年には至上初の全日本ヤングライダー選手権/JOC ジュニアオリンピックカップ4連覇を達成。日本馬術連盟強化対象選手プログレスチーム認定(2013年)、 JOCオリンピック有望選手(2014年〜2017年度) 、オリンピック強化指定選手(2015年度) 、讀賣新聞日本スポーツ賞優秀選手(2016年)に選出。