値上げに踏み切る鳥貴族だが、外食業界では好意的な見方が多い。その理由とは(撮影:今井康一)

鳥貴族値上げに踏み切る

「全品280円(税抜)均一」の焼き鳥専門店チェーンの鳥貴族が、28年ぶりの値上げに踏み切る。10月1日からフード・ドリンク約130品目を「全品298円(税抜き)均一」に値上げする。値上げ幅は6%、1品につき18円である。

人手不足から来る外国人スタッフやアルバイト従業員の時給アップ、また、野菜など国産食材の高騰が値上げの理由だ。鳥貴族値上げはニュースとしてNHKやテレビ朝日などでいち早く報道された。それは鳥貴族が28年間も続けてきた「全品280円均一」が、居酒屋チェーンの最安料金の象徴であり、大衆的な人気ブランドとして認識されているからにほかならない。

鳥貴族は創業社長の大倉忠司氏(58)が1985年に東大阪市の近鉄線俊徳道駅前に1号店の「俊徳店」を開店したのが始まりだ。開店2年目に「全品250円均一」をスタート、繁盛させた。1989年4月、消費税3%が導入されると「全品280円均一」に値上げし、「最安価格&高価値」戦略に磨きをかけた。消費税は1997年4月に5%、2014年4月に8%に引き上げられたが、大倉氏は「味も価格も思想だ」と言い、値上げを一切せず、今日まで「全品280円均一」を守ってきた。

2005年に東京に進出した鳥貴族は直営と鳥貴族カムレードチェーン(TCC)で63店舗、まだ小さなチェーン店だった。その鳥貴族はリーマンショック後の不況期に登場した「全品270円均一」業態などとの激安均一戦争を独り勝ちし、居酒屋デフレ戦争の最強の勝ち組みにのし上がった。今年8月末現在で関西圏、中京圏、首都圏で570店舗(直営343、TCC227店舗)を展開する強力な焼き鳥専門店チェーンに成長してきた。

鳥貴族の大倉氏は10月1日からの「全品298円均一」の値上げについて、こう話す。

「客単価は現在2110円(税込)です。1品18円の値上げ分がそのまま上乗せされれば客単価は約2245円(税込)となります。しかし実際は少し下がるかもしれません。したがって客単価は現状より少し高くなる程度にとどまり、価格競争力は下がらないと考えています。また値上げ後もこれまでのように商品のブラッシュアップと価値づくりに全力を尽くします」

鳥貴族は今期(2018年7月期)では直営で80店舗出店する構えだ。TCCが加わると100店舗を超すと見られるが、出店ペースに影響が出るような人手不足はないという。

鳥貴族の「全品298円均一」への値上げは「300円の壁」を超えなかったこともあり、外食業界では好意的な見方が多い。

値上げが28年ぶりというのは常識を通り越して異常

「挽きたて」「打ち立て」「茹でたて」のそば「ゆで太郎」をフランチャイズチェーン展開する「ゆで太郎システム」(2017年6月期170店舗見込み)社長の池田智昭氏は、原材料の値上がりなどを理由に今年3月値上げに踏み切った。

鳥貴族値上げが28年ぶりというのは常識を通り越して異常だったと思います。頑張って280円均一を維持してきたが、頑張りきれなくなったというのが本当のところでしょう。苦渋の選択だったと思います。量を減らして価格を維持するより値上げしたほうがよほどよかったと思います。当社は原材料費の値上がりなどを理由に今年3月に値上げしましたが、最大の目的は社会保険や有給休暇まで含めた人件費の値上がりに対応するためです。今後外食チェーンは人材確保にしのぎを削る時代に入ると思います。今年秋には鳥貴族に追随して値上げするチェーンが増えるでしょう」

現在、飲食業界を取り巻く値上げ圧力の中で大きいのが、人手不足から来る人件費の値上がりだ。東京・港区芝を中心に居酒屋「駒八グループ」(10店舗)を展開する「駒八おやじ」(八百坂仁)はこう言う。

居酒屋値上げ要因には今年6月、国税庁が実施したビールの適正価格指導による値上げがあります。また、人手不足の影響で居酒屋の関連企業であるオシボリ業界やゴミ回収業界の値上げも起こっています。人手不足による値上がりは外食業界、関連業界全体に波及しており、今年秋口には鳥貴族のように値上げする居酒屋が増えるのではないでしょうか」

居酒屋業界の先行きには2019年10月に先送りされた消費税10%の値上げも控えている。外食業界を取り巻く経営環境はコストアップの圧力に満ちている。

英国風パブ「HUB」(ハブ。101店舗)の社長、会長、相談役を務めた金鹿研一氏(75)の鳥貴族に対する指摘は非常に面白い。

「今回の鳥貴族の全品298円均一の値上げは焼き鳥1皿2本のための〈スリーハンドレッドウォー〉――『300円の壁』へのチャレンジが始まったんだと考えています。サイゼリヤ会長の正垣泰彦さんのようにクソまじめに合理性・効率性を追求する姿勢が、浮き沈みの激しい外食業界で長く生き延びる秘訣だと思います。

厨房から店舗運営、食材調達、人事教育など、あらゆる面でイノベーションの戦争が始まったんだと思います。イノベーションにどう取り組むか。それが鳥貴族の次を占う最大のポイントではないでしょうか」

日本の外食価格は先進7カ国の中で最も安い

これまで日本の外食業界は「失われた20年」のデフレ時代にフード・ドリンクメニューを下げて、原材料費、人件費を削り生き延びてきた。その結果、日本の外食業界の外食価格は先進7カ国の中でも最も安くなり、昼食だと500円のワンコインが一つの目安になってきた。

しかし、3年後に東京オリンピック開催を控え、訪日外国人客が年間3000万〜4000万人もやって来る時代だ。外食業界は大きな転換点に突入した。

デフレ時代の最強の勝ち組「鳥貴族」が「全品298円均一」と値上げに踏み切ったことで、居酒屋・外食チェーンの秋の値上げラッシュが起こるのは確実だ。鳥貴族値上げが、デフレ脱却の起爆剤となるのか――居酒屋・外食戦争が新しい段階に突入するのは間違いないだろう。