「愛される」を超えて何かを残し与える人に。新天地への移籍が内田篤人さんの飛躍のきっかけになると確信した件。
Gluck auf Uchida!

これはひとえに人間性の成せることなのかなと思います。内田篤人さんが7年間在籍したシャルケ04を離れ、ドイツ2部ウニオン・ベルリンへと移籍する中で、人々が見せた動きはとても温かいものでした。一般論では「1部リーグの名門から2部リーグへの移籍」というのは都落ちとも言える状況ですが、それすらも優しさと希望に包まれている。よい移籍になりそうな予感がします。

今回の電撃的な動きからわかるのは、まずシャルケと内田さん、双方ともに別れる選択肢はマストではなかったということ。シャルケは2年ほど怪我で満足に働けていない選手を手元に残し、内田さんは新シーズンの幕開けまでチームに留まっていた。一番の希望としては、そこでこのままやっていければと思っていた。

ただ、それ以上に相手にとって「よかれ」と思いやる気持ちが両者の間に存在した。

ケガの2年を経て、システム的に今季は構想外という選手が2018年まで契約を満了しようというのは自分のためにも、チームのためにもならないもの。構想外で座っていても、もらうものはもらうのです。必要な決断を自ら下すことで、止まっていた時計を内田さんが動かした。

動き出した時計に対して、できるかぎりの餞でシャルケは応えた。地元紙の報道では、移籍金はわずかで給料の一部をシャルケが負担するとした記事もあるとのこと。手放すためではなく、次の居場所に届けてあげるために心を砕いてくれた。別れの日に駅まで車を出してくれる親、そんな光景が浮かびます。

そして、新しい場所ではかつて一緒に仕事をした指揮官が待っている。ともに仕事をした時間がどういったものだったか、この移籍ひとつをとってもわかるというもの。「気に入らないヤツ」ならば、どんな条件が整おうが再び一緒になるはずもないのです。信頼と期待はある。あとは正しくチカラを示せば、必ず道が開ける。いい選択をしたと思いますし、いい縁を築いてきたなと思います。

↓背番号「2」!一番好きな番号を選べるというのもまた明るい兆し!


わざわざ空けたってことではないのだけれど、ピッタリくるこの感じ!

幸先よし!

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こういった動きになったことからして、コンディションはハッタリではなくいいのでしょう。できるからこそ出ていくわけですし、できるからこそ止めてはいけないと思ったのでしょう。思った以上に長い療養となりましたが、ひと花・ふた花咲かせるだけの若さは十分にあります。2年休んだぶん、使い減りしていないとも言える。巻き返しを期待したいもの。

そして、巻き返すだけでなく、せっかくならこれまでよりもひとつ大きくなって前に進んでほしいもの。今回、図らずも2部への移籍となったことが、今までの環境では得られなかった飛躍へのきっかけになるはずです。

内田さんは選手としては聡明で力量もあり、そして人間的にも愛されている、それは存分に示されたこと。ただ、どこかで一歩退いているような部分も見受けられます。それは「俺には俺の考えがあるように、お前にはお前の考えがあるんだろう」という聡明さゆえの距離感だったかもしれません。

しかし、それだけでは勿体ないなと思います。内田さんの積んできた経験や実績は、一流と言っていいものです。その過程で超一流ともふれあい、さまざまな影響を受けてきたはず。今、29歳で1部のチームから2部のチームへの移籍を経験したというのは、ここらで立場を変えていこうじゃないかという天の声のように思います。

今回の移籍にまつわり、たくさんのコメントで語られた「愛される人物」としての内田篤人像。思い出す光景にはノイアーに肩を抱かれながらメッセージを書いたシャツを見せる姿や、DFリーダーとして長くともにチームを牽引してきたヘーヴェデスに見せる人懐っこい笑顔であったり、よくできた「弟」のような場面が浮かびます。


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これからは、その逆の立場へ。誰かの肩を抱き、味方を牽引し、自分のことにとどまらずチームに「影響を与えていく」存在になることが、この移籍のもたらす必然でしょう。入団会見では「チームが1部に上がる手助け」という表現をしていましたが、たぶんその一歩先が成すべき仕事なのだろうと思います。「上がる」ではなく「上げる」。そうなっていくような「影響」をもたらすこと。

性格的には必ずしも向いていないのかもしれませんが、仲間内での行動や立ち振る舞いを見れば、内田さんはそういう資質を備えていると僕は確信しています。冷めたようなポーズを取りながら誰よりも熱い。自分ひとりの成功では決して満足できない。「チーム」に価値を見出す心持ちが、やるべきことを知らせるはず。

2014年、ヒザの怪我をおして出場したワールドカップ。そのとき残した印象は攻守に奮闘し、最後まで戦っていたというものでした。もちろんみんなそうだったのでしょうが、より強くそういう印象を残した。ファイターっぽい人材や、リーダーっぽい人材もたくさんいたけれど、僕には内田さんが誰より燃えていたように見えました。そして、その熱がもっと外に広がっていけばいいのにな、と。

次は違う未来をつかむために。

まずは選手としてのチカラを示し、やがて人間として影響を与えていくこと。個人的には日本代表でキャプテンマークを巻いた姿を見たい。他人との共同生活なんてしないと思っていた人が、子煩悩だったりなんかしないと思っていた人が、意外にそうじゃなかったときみたいに、新しいけれどずっと前からそうだったようなお似合いな感じで、映えるんじゃないかと思うのです。

ラウルが、ちょうど今の内田さんのようだったなと。

出るはずのないチームから飛び出し、少し下り坂を歩むようでいて、むしろ一層輝いた。

あのとき受けた「影響」が若き内田篤人に何かを残したなら、次は自分がそれを誰かに。

そういう順番、そういうタイミングなんじゃないかと、自然に思うのです。



昔見たお手本のように、今度は自分がそれをやる。そんな時節!