自動車メーカー×IT企業、蜜月のワケ AIやコネクテッドと未開市場、そして「その先」
自動車メーカーとIT系企業が急接近しています。自動運転における技術開発はもとより、その先をも見据えた動きと見られます。各社はどのようなロードマップを描いているのでしょうか。
自動車メーカーとIT企業の提携が次々と
近年、自動車メーカーとIT系企業とのあいだで、協力関係を締結するというニュースが増えています。
2017年6月15日(木)、トヨタはLINE社との協業を発表しました。同社はまたマイクロソフトともWRC参戦で協力関係であり、互いに特許ライセンス契約を交わしています。そのマイクロソフトは、コネクテッドカー開発では日産とも提携。幅広く自動車業界へアプローチしています。
トヨタはマイクロソフトとWRC(世界ラリー選手権)参戦で協力関係にある。写真はイメージ(画像:トヨタ)。
一方、日産は上記マイクロソフトのほか、DeNAと自動運転技術を使った交通サービス開発で協力関係に。
ホンダは自動運転技術の開発パートナーに、グーグルの傘下であるWaymo(ウェイモ)社(米カリフォルニア州)を選びました。ほかにもホンダは、東京赤坂に新設した研究組織「R&DセンターX(エックス)」でオープンイノベーションをうたっており、さまざまな企業や団体とのコラボレーションを示唆しています。
このように、最近の自動車メーカーとIT企業の関係は、すっかり相思相愛と言えるようなもの。
では、なぜ両者は急接近したのでしょうか。
自動運転だけじゃない、IT企業がクルマに参入するワケ
自動車メーカーとIT企業が接近している最大の理由は、「クルマの自動運転」です。高度な自動運転を実現させるためには、AIや「コネクテッド」といった技術が必須となります。そうしたものの開発には、機械の専門家である自動車メーカーよりもIT系企業のほうが得意なのは当然のこと。そうなれば、いっそタッグを組んで開発を行った方がいいという判断が、昨今の風潮の理由と言っていいでしょう。
また、IT系企業にとっても自動車産業は魅力的です。なんといっても自動車は、この先、何十年も成長が認められる産業です。わずかな時間でアメリカを抜いて、世界一の自動車市場に成長した中国のようなエリアが、世界にはまだまだ存在するからです。
2017年2月より稼働開始した、スズキのインドにおける100%子会社、スズキ・モーター・グジャラート社の工場。「バレーノ」の生産拠点(画像:スズキ)。
中国に負けず劣らず人口の多いインドでも、自動車の本格的な普及はこれから。アセアンも地域全体をあわせれば、人口は6億人以上で、その市場の成長が認められています。その先には、中南米やアフリカといった、将来有望な地域が控えます。そうした地域にクルマが行き渡るまで、自動車産業の成長は止まりません。
そうした鉄板の成長業界に、IT系企業も参入したいというのが本音でしょう。インテルが最近、自動運転において重要な画像処理技術および自動車メーカーとのコネクションを持つモービルアイ社(イスラエル)を買収したのも、自動車業界への参入が狙いであることは間違いないでしょう。
見据えるものは自動運転実現のさらに「その先」
さらに自動運転技術が完成した後も、IT系企業は自動車メーカーにとって重要なパートナーとなります。なぜなら、自動運転のクルマが世の中を走り始めたとき、新たなサービスが必要になるからです。
日産の自動運転に関するAI技術のひとつで、不測の事態に対応するシステム「SAM(Seamless Autonomous Mobility)」の動作イメージ(画像:日産自動車)。
想像してみてください、自動運転のクルマにひとりで乗った状態を。移動中、乗員は何をしていますか。寝ている。読書をする。ネットを楽しむ……そうです、自動運転のクルマで移動しているあいだ、乗員は暇なのです。そこで乗員に娯楽や、便利の良いサービスを提供する必要があります。そうした新サービスの提供は、自動車メーカーではなく、IT系企業の得意技。ある意味、未来のクルマは走行性能ではなく、乗車中のサービスの内容が勝負になる可能性があります。
そうした未来のカーライフも、今の自動車メーカーとIT系企業の相思相愛の理由のひとつ。そして、そのパートナーシップから生まれる新たなサービスとは、どういうものなのか。未来のカーライフを想像すると楽しくなってきますね。
【画像】ホンダが考える自動運転車の運転席まわりとは?
2017年6月、中国・上海で開かれた「CES ASIA 2017」にて、ホンダが発表した自動運転車の運転環境コンセプト「Honda HMI Concept」(画像:ホンダ)。