清水富美加の幸福の科学出家騒動は、この冬の大きな話題を集めた。

出家先の宗教法人の広報が言うところによると、所属事務所の金銭面などの扱いが「ブラックではないか?」と注目された(かつての所属事務所は否定したが)。
本人の告白本も出版されるなどした後、騒動も一段落。彼女の主演映画「暗黒女子」も公開されたが、少し前に読んだ一冊の本のことを思い出した。

本当はブラックな江戸時代」(辰巳出版)。


人情にあふれ、とても豊かで華やかだった時代として扱われることの多い江戸庶民の世界も、実際は小説やドラマで描かれるような世界とは違い、結構「ブラック」な面があったのではないかという視点で検証し、話題を集めた一冊だ。今回の清水騒動を見ていて語られたこと、「あれ? どこかで読んだ気が?」というデジャヴ感というか、まさにこの本に書かれた「ブラックな江戸」そっくりな気がしたからである。

・豊かな食文化といわれるが、実際には粗末なもの
・現代人がタイムスリップして江戸の食を食べたら、確実に下痢をする
・ゴミやし尿の処理も現代とはまるで違うので、長屋には異臭が漂う

などなど、生活する環境の違いについても触れられているが、奉公人などの働き、そして当時の芸能関係者の環境について、本書の著者、作家の永井義男さんに聞いた。

給料ほとんどなし 事実上の売春も


「基本的には、現金がもらえないんですよ。衣食住の面倒をみてもらうんだから必要ないだろうという感覚です。雇い主からしたら、『飯を食わせて寝床の用意してやってるんだから』。食べられるだけでありがたい時代だったんですよ」

出家騒動で、教団広報が語った駆け出し時代の彼女の環境、芸能ワイドなどで「自分もそうだった」「芸能界はそれが当たり前」と他のタレントも語っていたことに、やっぱり似ている気がする。

江戸時代の商家などの奉公人は、基本的には住み込みが原則で、休日は年2日しかなく給金もほとんどなく、精神的には24時間勤務状態だったという。芸能関係も似たような環境だ。

「江戸時代の芸能界といえば、代表的なスターは歌舞伎役者でした。ただ、一部の看板役者以外は、彼らも基本的には衣食住の面倒をみてもらうかわりに給金はほとんどない。今の芸能界のようなシステムもありませんし、月給制もなかったので、もっと過酷な条件だったのではないでしょうか」

だけど、彼らだって自由に使える現金はほしい。

「たまには買い食いをしたり、お金をためて遊郭なんかにも行きたいですよね」

現金をどのように得るのかというと、いわゆる「陰間」としてのつとめを果たしていたと永井さんは言う。

「事実上の売春ですね。これは、娘浄瑠璃や三味線の女師匠なんか広い意味では芸能人ですが、女性でも同じことです。強力な主従関係が成り立っている時代ですので、旦那がお座敷に呼んだりしたら、断ったり逆らったりすることはできない。セクハラ、パワハラ当たり前、訴える先もマスコミもありません。義理と人情の上下関係があり、お金がもらえる。基本的には現金は祝儀でもらうしかないですからね。この2点によって、彼らは呼ばれたら座敷に上がる。今の目から見れば不思議かもしれないのですが、それが当たり前の時代には、矛盾に気づくことはないですからね。そんな中から、芸の道を精進して、立派な役者になっていった人もたくさんいました」

永井さんは、「江戸は素晴らしい時代だった」という感覚を全否定するわけではないが、よく参考にされる浮世絵や錦絵について、こういう。

「それらは、いわゆるハレの世界の絵なんですよ。それを見ると、江戸の文化は豊かだったと確かに思えます」

本書を書くにあたっては、庶民が親しんだ戯作が大きな参考になったそうだ。

「今でいう大衆小説ですね。その挿絵には、当時の裏長屋の貧しい生活が描かれていたりするんです。そんな実態も含めた江戸文化の面白さを感じてもらいたいですね」

どちらがどうとか同じだとかは単純に言うことはできないが、江戸時代の「芸能人」にも過酷な環境におかれる人はいた、それは事実のようである。
(太田サトル)