史上初めて米大統領から仏大統領への鞍替えが起きるかもしれない。4月に始まる仏大統領選挙。そこでフランスの一部から、仏大統領にオバマ前米大統領をという声が上がっている。



オバマ出馬、いいんじゃない?

 
パリ市内北部、大統領選を1カ月半後に控えた街中には、「オバマ17」と書かれたポスターが貼られていた。ポスターには、オバマ前米大統領が選挙戦のときに繰り返したフレーズ「Yes we can(イエス・ウィー・キャン)」を仏語にした「Oui on peut(ウイ・オン・プ)」の文字。道ゆく人は、この不思議なポスターを興味深げに見たり、写真に収めたりしていた。どう思うか問いかけると「素晴らしい考えだ」と笑う。

このオバマ擁立キャンペーンを展開するのは、フランスのとある団体。目標は3月15日までに100万人の署名を集め、オバマ米前大統領に出馬の説得をすることだ。

同団体は「オバマ氏の経歴は世界の中でも仏大統領の仕事に最適だ」とホームページ上で主張する。「極右へ大量の票が投じられようとしている今のフランスにおいて、外国人の仏大統領を選ぶことで、全世界に対し民主主義の教えを伝えることができる」と訴える。この記事を書いている時点で約5万人分が集まった。

適任者がいない仏大統領選


もちろん同キャンペーンは冗談だ。真面目にとらえるフランス人はいない。制度上も不可能だ。しかし冗談だと分かっていても、それに賛同してしまうほど、フランス人にとって今回の大統領選は悩ましい。


続く不景気と10%前後に停滞する失業率、テロへの不安、現オランド政権がはっきりとした結果を出せていない現状に対する不満がたまっている。このような中、国家主義・保護主義色の強い極右政党・国民戦線ルペン党首が、今までになく支持を集めている。一方で本来、中道右派の受け皿となるべき共和党フィヨン元首相は、妻の不正給与疑惑により日々イメージは失墜中。スキャンダル続きのため候補から下りるのではとの噂も流れる。左派陣営の統一候補、社会党アモン前教育相も世論調査では低迷している。独立系候補のマクロン前経済相の人気は、当初と比べて高まっているが依然決め手に欠く。

週35時間勤務の大統領


オバマ前米大統領の擁立が実現したら何を期待するのか。オバマ擁立キャンペーンを張る同団体に取材を試みたものの、「興味を持ってくれて、ありがとう。申し訳ないが団体として私たちは(今後)取材を受けることはやめました」とコメントを断られてしまった。しかし「オバマ氏へのオファー内容をここに載せたので参考にしてください」と動画投稿サービス「YouTube」のURLを渡された。

そこには「契約内容は更新可能な期限付契約。労働時間は(フランスの法定労働時間である)週35時間。給料は基本給と手当など合わせて月額1万8239.49ユーロ(約220万円)。1万5000平米の庭と350室あるエリゼ宮(大統領府)で暮らせて、専用車と運転手、ボディーガード、1等車乗り放題のフランス国鉄ゴールドカード付き。政府専用機はあるけどエアフォースワン(米政府専用機)よりはかっこよくないかも。5週間ある休みには、ブレガンソン要塞(南仏にある仏大統領の夏季休暇先)などでバカンスを楽しめます」と魅力的なオファーが、オバマ氏へ向けてうたわれている。



小浜市民の反応は?

 
もしオバマ仏大統領が実現すれば、再び沸き立つのが福井県小浜市だ。小浜市有志で作られた「オバマを勝手に応援する会」は今回の運動をどう思っているのか。

同会代表の藤原清次さんは「条件次第で支持」という。もしオバマ前米大統領が仏大統領選にも就任すれば、米大統領職から継続して激務が続く。現在、同氏は米大統領職から離れて休暇中だ。そのため「オバマ氏の健康が損なわれないなら」ということが支持の条件と語った。そして「もし当選したら、小浜市をアピールするために、小浜市の食材を使ったフレンチの名物料理を開発したい」とプロモーションも忘れない。

一方で「当選となれば、オバマ氏に時間的余裕ができたら、小浜市を訪問してほしいという現在の私たちの目標からは(フランスでの公務が忙しくなるため)逆風になってしまいます」と、米大統領職を辞して余暇を過ごしているオバマ前米大統領が、再び遠い存在になってしまう寂しさをこぼした。

退任後も各所で引っ張りだこのオバマ前米大統領。仏大統領選はすぐそこだ。
(加藤亨延)