「地震の影響を受けた地域にいるようですが大丈夫ですか? 友達に無事を知らせましょう」

このメッセージは、2016年4月15日、熊本地震の被災地域にいたFacebook利用者に向けて発信された。
Facebookには、災害や有事の際に安否確認ができる「災害時情報センター」という機能がある。世界中で使われている本機能の開発には、東日本大震災が深く関係している。「災害時情報センター」をはじめとしたFacebookの災害対策について、フェイスブック ジャパン公共政策部長 山口琢也氏に話を伺った。



偶然被災地にいた人にも安否確認が届く


災害時情報センターの主な機能は3つある。
・Facebookでつながっている友達や家族に、自分が無事であることを知らせる
・災害の影響を受けた地域にいる人の安否を確認する
・Facebookでつながっている友達や家族の無事がわかっている場合、代わりに安否を報告する


災害が起きると、まず災害の影響を受けた地域にいる人に安否情報の登録を促すメッセージが通知される(冒頭の文)。
通知範囲はプロフィールに登録してある居住地や、スマホなどのネット端末の位置情報をもとに判定される。そのため、出張などで偶然被災地にいた人にも、きちんと通知が届くようになっている。

山口氏は内閣官房情報通信技術(IT)担当室での勤務経験を経て「日本という国を、どうやってITで良くしていこうか」考えるようになり、企業だからやれることをやっていくと決心。大手外資系企業で官民一体のプロジェクトなど数々の公共貢献業務に携わり現在に至る。そんな公共政策のエキスパートに、Facebookの災害時情報センターの特徴を教えてもらった。

「安否を知らせる側が簡単な操作で自分の無事を知らせることができます。例えばメールですと、100人友達がいたら100人から『無事ですか?』とメールが送られてきてしまう。本当に大変な状況下でいちいち返信するのは大変です。災害時情報センターなら、ボタン一つで無事を報告できます」

また、安否を確認したい側も、つながりのある人の情報が一括して判るという利点がある。
「災害の影響を受けた地域にいる友達の安否確認では、『友達107人が影響を受けた地域にいます』というような表記がされるので、何人の友達が災害の影響を受けたのかを合わせてチェックすることができます。なおかつプライベートにも配慮されていて、誰でも閲覧できる掲示板とは違いFacebook上で繋がりのある人しか見ることができません」

3.11の経験から生まれた日本発のグローバル機能


2011年3月11日に発生した東日本大震災。その影響で電話回線が繋がりにくくなる状況のなか、インターネットは比較的安定していたため、SNSでコミュニケーションをとることができた。
利用者がFacebookをコミュニケーションのライフラインとして活用していたことから「災害用伝言板」のテスト運用を2012年に日本で開始。この機能は、マーク・ザッカーバーグCEOをはじめとした本社上層部が、より多くの利用者に使われるべき機能としてグローバル展開することを決定。そして、2014年10月16日に現在の「災害時情報センター」が日本で発表された。Facebookが米国外でグローバル機能を発表するのは、史上初のことだった。
日本では前述の熊本地震の際に起動され、世界中でこれまでに何百回も使用されている。

災害時情報センターの開発にあたっては、システムの安定化だけでなく、災害発生後どのタイミングで災害時情報センターを立ち上げるべきか、どんな言葉で被災者に伝えればいいのかなど、多岐にわたる課題を解決するため、外部のさまざまな研究組織と意見交換を重ねてきたそうだ。
それでも山口氏は、「完璧なサービスを作り上げたという意識はなく、使われるたびに得られる経験を活かして常に改善するようにしています」と言う。
例えば、どの範囲までを被災地として括るのが適切なのかという問題。広すぎてもいけないし、狭すぎてもいけない。実際、熊本地震の際は社内で範囲を決めていたため調整に苦労したそうだ。現在では、第三者機関が事故・災害の発生をFacebookに報告した後、投稿数や広がり方の推移も見て、被災範囲を特定し災害時情報センターが立ち上げられるようになった。


今年2月には、新たに食料や避難場所を探せる「コミュニティヘルプ機能」が追加された。これによって災害発生後、支援を必要とする人と提供できる人とでメッセージをやり取りできるようになる。
震災などで物資が不足すると、SNSでは「拡散希望」と支援を呼びかける投稿がまたたく間に拡散される。被災地を助けたい気持ちによる善意の輪ではあるものの、際限なく拡散され続けることでタイムラグが発生して現地の要望以上に物資が届いてしまったり、そもそもの情報が誤りでも拡散され続けてしまったりする恐れもある。
コミュニティヘルプ機能は、被災者と支援者のズレを解消する助けとなりそうだ。

デマ対策はテクノロジーだけでは意味がない


先ほども少し触れたが、SNSがもはやインフラとなっている現在において、誤った情報、いわゆるデマは切っても切れない問題のひとつだ。
熊本地震では「近所の動物園からライオンが逃げだした」というウソの投稿が拡散されてしまい、後に投稿者が逮捕される事件が起こっている。災害とは異なるが、先の米大統領選においても「フェイクニュース」という言葉が流行するほど、誤った情報が投票行動に影響を与えたとされている。

今後の災害時にも発生することが予想されるデマへの対策についても山口氏に聞いた。
Facebookはニュースフィードに流れるニュースの質についてとても真摯にとらえており、今まさに取り組みに着手しているところだ。米国では利用者から虚偽の疑いがあると報告されたニュースについて第三者調査機関に協力を仰ぎ、真偽の検証をするテスト運用を開始している。同様の試みはドイツやフランスでも実施される。

しかし山口氏は、デマ対策はテクノロジーと啓蒙活動の両面からやらないと意味がないと指摘する。
「そもそもインターネットには偽情報が山のようにあふれています。全部正しいものにしろ、というのは難しい話。フェイクに見えるものが正しいことだってあります。Facebookではフェイクニュースの検証は行っていきますが、リテラシー強化や教育啓発の面でも貢献できないかと考えています」

(茶柱達也)