米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)が、利上げに向けた「地ならし」を活発化させています。

 1月31日〜2月1日に開催された前回の連邦公開市場委員会(FOMC)では、金融政策の据え置きが決定されました。ただし、その3週間後に公表された議事録によると「労働市場や物価が予想通り、あるいは予想を上回って展開したり、最大雇用と物価安定という目的を行き過ぎるリスクが増大したりするならば、かなり早期に利上げを行うことが適切になるかもしれないとの見解を、多くの参加者が表明した」とのことでした。

 そして、ニューヨーク連銀のダドリー総裁は2月末のテレビインタビューで、この「かなり早期に」とは「比較的近い将来だ」と解説した上で、「利上げすべき理由が説得力を増している」と語りました。ニューヨーク連銀が管轄区内にウォール街を抱えていることもあって、同総裁はFOMC議長を務める主要メンバーです。また、利上げに慎重な「ハト派」としても知られています。

 さらに、強い「ハト派」とみられていたブレイナードFRB理事さえも、「早期の利上げが適切になる可能性が高い」と3月1日の講演で述べています。

「年3回」を織り込みつつある市場

 昨年12月のFOMC後に公表された政策金利見通しでは、2017年中に3回の利上げが想定されていました。ただし、それはコンセンサスというよりも、参加者12人の中央値であり、実際は1〜6回とバラツキがありました(いずれも1回につき0.25%の利上げが前提)。

 当初、市場は「年3回」との見通しに懐疑的であり、せいぜい6月と12月の2回というのが大方の予想でした。しかし、ここに来て、FRBからかなり明確なメッセージが出てきたため、3月を含めて年3回の利上げを織り込みつつあります。

 では、なぜFRBは利上げを急ぐのでしょうか。

 そのヒントは前述のFOMC議事録の中にあります。今後の金融政策見通しを議論するなかで、先の「かなり早期に…」というくだりとともに、「タイムリーに利上げすれば、状況が変化した時の柔軟性を確保できる」「失業率が正常水準を下回る公算は大きい」「インフレ圧力の増大を抑制するために、想定以上の早い利上げが必要になるかもしれない」など、利上げに前向きな意見がいくつも出ました。

 一方、利上げに慎重になる理由は「物価が依然としてFOMCの目標を下回っており、下振れリスクをみる者もいた」ことです。明示された理由はこれだけでした。

FOMCが掲げる物価目標は2%だが…

 FOMCは2%の物価目標を掲げており、いくつかある物価指標の中で、個人消費支出(PCE)価格指数、とりわけエネルギーと食料を除いたコアを重要視しています。

 3月1日に発表された1月のPCE価格指数は総合が前年比プラス1.9%と、前月の同1.6%から加速しました。一方で、コアは前月とほぼ変わらない1.7%でした。ただ、コアも2015年秋ごろをボトムにジリジリと加速しています。

 そして、エネルギー価格が昨年2月ごろに底打ちしたことを考慮すると、PCE総合は今後数カ月、前年比での伸びが一段と加速しそうです。筆者の簡単な手計算によると、2月のPCE総合が前年比プラス2.6%へと加速しても不思議ではありません。FOMCが重視するのがコアといえども、総合指数のプラス2%超えは、「物価が依然としてFOMCの目標を下回って」という、利上げを遅らせる唯一の根拠を崩すことになりかねません。

 さて、2月のPCEが発表されるのは3月31日。次回FOMC(3月14〜15日開催)の約2週間後です。仮に次回FOMCで現状維持を決定し、その後に発表されるPCEが上振れするようなら、FRBは「後手に回っている(ビハインド・ザ・カーブ)」と批判されるかもしれません。そして、それは長期金利の上昇という、米経済にとってありがたくない状況を生み出す可能性があります。

 もちろん、次回FOMCでの利上げが確実というわけではありません。それまでの状況次第です。最新のベージュブック(地区連銀経済報告)では、人手不足の拡大や賃金上昇率の加速が一部で報告されました。今月10日に発表される2月の雇用統計でも同様の兆候がみられれば、3月利上げがより現実味を帯びるかもしれません。

(株式会社マネースクウェア・ジャパンチーフエコノミスト 西田明弘)