芸能人ならいざ知らず、「私生活の自由」を会社に制約されているという人は少ないと思いますが、「プライベートは何をしようと自由だ!」と主張し、しつこく宗教の勧誘をしてくる上司がいたとしたら…。そんな状況でも会社は「私生活には干渉できない」と救いの手を差し伸べてくれることはないのでしょうか。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では、意外と難しい「社員の私生活の自由」の扱いについて、実際の判例等を挙げながら、現役社労士がわかりやすく解説してくださっています。

「私生活の自由」はどこまで認められるのか

「芸能人はプライベートでサインを求められたらそれに応じるべきか?」

みなさんはどう考えますか? おそらく正解は無いと思います。「芸能人ならどこでもサインに応じるのが当たり前」と、考える人もいるでしょうし、「芸能人とは言え、一人の人間だしプライベートは尊重されるべき」と、考える人もいるかも知れません。また、その芸能人本人の考え方にもよるでしょう。

これが社員においてはどうでしょうか。これは当然に「社員のプライベート」がありますので、会社がその私生活上のことについて制約をすることはできません。基本的には私生活で何をしようとそれはその社員の自由です。

ではもし、このような状況があったらどうでしょうか。

「休みの日に、上司が部下を宗教に勧誘している」

これも基本的には会社は強制して、勧誘を止めさせることはできません。なぜなら、その上司には「宗教の自由」がありますし、その勧誘が「私生活上の行為」だからです。

では、もしその部下の社員から、「強引に勧誘されて困っている」と相談を受けても、会社は「私生活上の行為」としてその上司に何もすることはできないのでしょうか。

それについて、裁判があります。ある電力会社で休みの時間に社宅で、会社を中傷するビラをまいた社員が懲戒処分を受けました。そこでその社員は「納得いかない!」として会社を訴えたのです。

この裁判のポイントはこの行為をおこなったのが「休みの時間」だったことです。しかも、社宅とは言え職場(会社内)で行ったわけでもありません。

では、この裁判はどうなったか?

会社が勝ちました。その懲戒処分は「有効」とされたのです。

みなさんの中には「そんなの当り前」と感じる人も多いかも知れません。ただ、繰り返しますが、私生活上の行為については会社は強制や指示をすることはできないというのが基本です。社員には「私生活の自由」の権利があるからです。

では、なぜこの裁判では、会社が勝ったかというと、その行為が「会社の秩序を乱す場合は別」だからです。この裁判では、チラシに書いてあった会社を中傷する行為がその場合にあたると判断されました。

そこで、「上司の宗教の勧誘」に話を戻すと、この勧誘は「会社の秩序を乱す場合」にあたる可能性があります。赤の他人であれば断れば済む話ですが上司であれば、無下に断ることもできません。そうなると人間関係も微妙になり仕事にも支障が出てしまうことにもなるでしょう。よって会社はその上司に勧誘を止めるように指示しそれでも強引な勧誘が続くようなら懲戒処分にすることもできます。

ただし、もちろんその内容をしっかりと就業規則に定めて社内にもアナウンスすることが必要です。また、いきなりの懲戒処分ではなくまずは本人と話し合いをすることも大切でしょう。

社員の「私生活の自由」は、無条件で優先されるわけではありません。普段から社員には、その意識を持ってもらうようにしたいですね。

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『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』

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企業での人事担当10年、現在は社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツをわかりやすくお伝えいたします。

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出典元:まぐまぐニュース!