真夏に吹き荒れるゴジラ旋風

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 初めにお断りしておくと、当コラムは基本的(注1)に「ネタバレ無し」で進行します――という注意も早晩、必要なくなるかもしれない。それほど公開中の映画『シン・ゴジラ』(東宝系)の勢いが凄い。

 ここのところモンスターの話題で持ち切りだったが、こちらはポケットなどに収まらない巨大怪獣。それが公開4日目で観客動員71万人を超え、興行収入10億円を上げた(注2)。これによって第1作『ゴジラ』(1954年)の公開から29作品で、累計観客動員数が1億人を突破。邦画実写シリーズ作品では、史上初の快挙となった。

 ゴジラシリーズは昭和ゴジラ(1954〜1975年)、平成ゴジラ(1984〜1995年)、ミレニアムゴジラ(1999〜2004年)に大別される(注3)。これだけ長いシリーズだと、世代それぞれにゴジラ像は違う。悪役だったり、ヒーローだったり。ルックスもトカゲのようだったり、丸っこくて愛嬌があったり。巨大な蛾(モスラ)や猿(キングコング)や海老(エビラ)と戦い、息子(ミニラorベビーゴジラ)まで出てきたこともあった。

 百人百様のゴジラがあって当然なのだが、やはりメルクマールとなるのは第1作『ゴジラ』(1954年)、長い休止期間から復活した第16作『ゴジラ』(1984年)、そして前作から12年ぶりとなる今回の『シン・ゴジラ』(2016年)ではないだろうか? 共通するのは、<日本人とゴジラ>をテーマとしている点だ。

■日本人にとってゴジラとは?

 作品によって設定が異なるが、身長50m〜118.5mの怪獣がビルを蹴倒し、電車を咥えて暴れまわる様は、現実とは遠く乖離した世界。ゆえに、これまで様々な隠喩(メタファー)の解釈が試みられてきた。

「(水爆実験で誕生した)第1作のゴジラは、核の恐怖を警告する存在」
「第1作でゴジラが歩くルートは、太平洋戦争で空襲が激しかった地域。戦争の恐怖を、怪獣に託して描いている」
ゴジラは南洋で戦死した英霊たちの怨念の集合体。復讐のために日本を襲うが、皇居だけは襲わない……。」
「(第11作『ゴジラ対へドラ』では)ゴジラは、自然を破壊して公害を撒き散らす日本人に対して、自然からの警告者として現れる」

 ズバリ正鵠を射てなくとも、これらの意見はどれも要素としてゴジラ映画に含まれていると思える。戦争、核、自然災害、環境破壊……有史以来、いまも日本人を悩ませ、苦しませてきた災厄が、ゴジラとなって現れる。現実と同じように何度も、何度も……。

 都市破壊の映像はハリウッド映画などにも頻繁にあり、単純にカタルシスを感じさせる部分はある。しかし日本人が求めるのは、破壊願望や怖いもの見たさだけでは無いはず。そんな映画はいくらでもある。ゴジラ人気の根底は、幾多の国難に見舞われても、必ず復興してきた<日本人の力>を揺り動かされるからでは無いだろうか。

 <スクラップ&ビルド>を繰り返してきたのが日本の歴史なら、ゴジラ映画も必ず都市をスクラップにする。が、その後のビルドを登場人物に意識させることで、希望と力を呼び覚ましてきた。『シン・ゴジラ』にも、それを示唆する描写がある。

 庵野秀明総監督(注4・56)は、『エヴァンゲリオン新劇場版:Q』(2012年)公開後に鬱病を患うくらい疲弊していた。エヴァンゲリオンの新作を置いてまで『シン・ゴジラ』製作に臨んだのも、ゴジラから力を得たかったのだろう。映画に熱狂する観客たちも含めて、それは大成功した。

 以下のセリフは、ネタバレ。

「この国も、まだまだ捨てたもんじゃないな」(『シン・ゴジラ』より)

(了)

(注1) 基本的にネタバレ無し…例外あり。
(注2) 興行収入10億円…最終的には40〜50億円いきそうな勢い。
(注3) ゴジラシリーズ分類…ハリウッド資本で2度映画化されているが、今回は数えていない。
(注4) 庵野秀明…庵野監督といえば『エヴァ』だが、学生時代に自主製作した特撮映画『帰ってきたウルトラマン』は知る人ぞ知る傑作w

著者プロフィール


コンテンツプロデューサー

田中ねぃ

東京都出身。早大卒後、新潮社入社。『週刊新潮』『FOCUS』を経て、現在『コミック&プロデュース事業部』部長。本業以外にプロレス、アニメ、アイドル、特撮、TV、映画などサブカルチャーに造詣が深い。Daily News Onlineではニュースとカルチャーを絡めたコラムを連載中。愛称は田中‟ダスティ”ねぃ