アポロ飛行士たちの死因から明らかになった「宇宙の健康問題」

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アポロ計画に参加した宇宙飛行士たちの死因には、循環器系疾患が多いことがわかった。研究者たちは、その原因が宇宙放射線に晒されたことだと考えている。

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人類史上地球から最も離れた場所への有人飛行作戦だったアポロ計画。この計画に参加した宇宙飛行士たちの死因の調査を初めて行ったところ、彼らのおよそ半分が循環器系疾患で亡くなっていたことがわかった。

『Nature』のオンライン版『Scientific Reports』に発表された研究によると、研究チームは、すでに亡くなっているアポロ宇宙飛行士7名を、「低地球軌道を飛行した経験しかない宇宙飛行士」や「トレーニングプログラムを終えただけで宇宙に行かなかった宇宙飛行士」と比較した。

循環器系疾患が死因となった割合は、アポロ宇宙飛行士では43パーセント。これは、「宇宙に行かなかった宇宙飛行士」(9パーセント)や「低地球軌道を飛行した経験しかない宇宙飛行士」(11パーセント)と比べて4〜5倍高かったという(同論文によると、がんや事故に関してはこれら3グループの間に差はみられないという。なお、一般の米国人55〜64歳の死因に循環器系疾患が占める割合は約27パーセント)。

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データ数が少なく(全部で77名)、条件の再現性も乏しいことから、その原因については慎重に判断する必要はある。だが研究チームは、宇宙空間の放射線が血管に影響を与えた可能性があると考えている。

今回の研究では、この仮説を評価するために44匹のオスのマウスで実験を行い、「無重力環境と宇宙由来の放射線が血管系に与える長期的な影響」を分析した。この試験は半年間続けられたが、これはマウスの身体の大きさを考慮すると、マウスにとっての半年は人間が宇宙空間で20年間過ごした場合に相当するからだという。

「マウスのデータは、宇宙空間の放射線が、血管系の健康状態に害を及ぼすことを示している」と、この論文の筆頭著者で、フロリダ州立大学人間科学部の学部長を務めるマイケル・デルプは述べている。

「この結果が示しているように、宇宙由来の放射線は、血管内皮細胞の機能障害を長期的に引き起こす」と論文には記されている。そして、これが血管の疾患につながり、宇宙飛行士の循環器系疾患の「危険因子」になる可能性があるというのが研究チームの結論だ。

宇宙由来の放射線が将来の長期宇宙滞在計画にとって問題となりうることはすでに知られており、米航空宇宙局(NASA)も「かなりの危険」があると述べている(さらに長い火星ミッションの場合、寿命は平均より15〜24年短くなると推定するという研究も発表されている(日本語版記事)。

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