目もうつろ。J3転落の大分トリニータがはまった「弱者の法則」
天国と地獄~J2・J3入れ替え戦(後編)
2015年12月6日、大分銀行ドーム。大分トリニータはFC町田ゼルビアとのJ2・J3入れ替え戦に敗れ、J3降格が決まった。
試合後のミックスゾーンでは、生え抜き選手で主力の為田大貴が多数のカメラやマイクやテープレコーダーを向けられていた。為田は誰とも目を合わせようとしない。うつむき加減に声を詰まらせ、語尾が消え入る。
「申し訳ない」
彼は違う質問に、3度そう答えている。
「こういう試合で勝てない弱さ。勝てないことが弱さです」
強い自責の念に苛(さいな)まれながら、どうにか言葉を絞り出す。
――では、何が足りなかったのでしょうか?
記者の質問に彼は小さく唸り、腕を後ろに組み直しながら、答えをひねり出そうとしたが徒労に終わった。
「なんなんですかね? 今は考えられないです」
横にいた広報が質問を打ち切るようにして会見が終わると、解放された為田は記者たちを振り払うようにバスの方へ去っていった。
勝てないことが弱さ。
その答えにならない答えに、大分転落の理由は説明されていたのかもしれない――。
大分は08年にナビスコカップ優勝、J1で優勝争いをしたクラブであり、2013年もJ1に所属していた。今シーズン、人件費は3億3000万円とJ2では中位以上(2012年に6億円の借入金を返済)。「J2優勝」を掲げての開幕は、戦力的に絵空事ではなかった。CBのダニエルは足下のプレーは衰えたものの、高さと強さはJ1でも十分に通用する。ユースからの生え抜き選手も多く、J2では厚い選手層で地力はあるはずだった。
「なんで大分がこんな順位にいるのか不思議」。対戦相手たちの話を聞いても、そういう感想が多かった。実際、押し込んだ試合も少なくない。
しかし、大分は際どい勝負でことごとく敗れた。
第16節終了時点で最下位に転落。田坂和昭監督が解任され、強化・育成部長の柳田伸明が監督代行を経て監督に就任した。リスクを避けて裏に蹴り込み、そこに起点を作る、という戦術は監督が代わっても同様だったが、プレスの強度でてこ入れがあり、わずかに上向いている。もっとも要所で得点を決めきれず、逆襲に遭い失点という試合の繰り返しだった。敗北は心を倦(う)ませ、自信や確信を蝕(むしば)んだ。
いわば、弱者の法則に入ってしまった。
それが顕著に出たのが、入れ替え戦の第1戦だろう。長いボールひとつをとっても、意図して攻撃を仕掛けるよりも失うことに怯えた逃げの一手で、腰が引けていた。心の迷いに溺れるようにファウルを連発し、退場者を出して9人に。自滅に近かった。
第2戦は、"勝つしかない"という気持ちがポジティブなプレーを呼び、前半は優位に立っている。一番パーソナリティを感じさせたのは、ブラジル人FWのエヴァンドロだろう。積極的にラインを破り、スペースを疾走。右サイドに出たロングボールに追いつき、ファーで待つ高松大樹にピンポイントで合わせたクロスは秀抜だったが、シュートはGKの正面だった。
大分はサイドを中心に何度も崩し、前半35分にはエリア内のドリブル突破で反則を受け、PKを得ている。しかし高松のキックは完全に読まれ、ボールははじき出されてしまう。このとき、試合が大きく旋回した。
「前半通り、つないで幅を使い、ゴールを狙っていこう」
ハーフタイム、大分の選手たちは戦い方を確認しあったというが、弱気の虫は蠢(うごめ)き始めていた。体力的にも前半の攻撃で大きなエネルギーを使い、切っ先が鈍った。勢いを失い、カウンターを浴びると、後半58分に与えたPKを決められてしまう。その後は攻撃も散発で、力尽きて敗れた。
「後半失速、今季を象徴」と、翌日の地元紙は糾弾していたが、敗北の連鎖を払拭する手立てはなかったのか?
「地元の支援体制が足りなかった」という声がある。県民、企業、行政の三位一体で創立されたクラブだけに、大きな風呂敷に敗因を求める気持ちは分からないではない。しかし、そこまで話を飛躍すべきではないだろう。そんな論理なら、いくらでも成り立つからだ。
例えばこの日、4万人収容ドームに1万5000人近い観客が訪れたが、半分以上は空席だった。歪(いびつ)に箱が大きく、トラックはプレーと観客を乖離(かいり)させていた。誤解を恐れずに言えば、観客がプレーとコミットできていない。記者席近くに座った控え選手たちは、エリア内での町田の疑わしいハンドに何度か机を叩いて怒り、味方が敵と入れ替わるようにパスを受けたシーンに喝采を送ったが、スタンドからは応援歌しか聞こえなかった。
しかし、スタジアムやファンの意識に敗因を求めるのは酷だろう。
大分が入れ替え戦にまわり、町田に完敗したのは、もっと単純な理由だ。忍び寄った負けの連鎖に、彼らは搦(から)め取られた。強化部長のチームデザインが悪く、次期監督を見つけられなくても、J3に降格する戦力ではなかったのである。
「勝てないことが弱さ」
為田が洩らしたように、負け癖が彼らを堕(だ)した。理屈ではない。強いて言えば、フットボールはそういう性質を持っている。
「できるなら、来季も大分でプレーしたい」
ある選手は気丈に語ったが、予算は半減する。県から出向の社長は引責辞任し、次期社長は未定。柳田監督の辞任も発表された。J3では"つつましい暮らし"が求められるという。
小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

