有名大教授が見た「内定が取れた子、取れない子」

写真拡大

親が頑張って大学まで入れたのに、就職活動でつまずく子がいる。なぜ同じ大学なのに、内定格差が生まれてしまうのか。学生を一番近くで見ている教授たちが、赤裸々に語ってくれた。

■景気が良くなったとはいうけれど

――まずは今年のリアルな就職活動状況をお聞かせいただけますでしょうか。

【首都圏国立大学(以下、国立大)】メディアなどでは、景気が良くなったなんて言いますが、全員が内定を取れるといった状況では全くありません。内定を取れる子と取れない子の差は開くばかりですよ。

【早稲田】内定数の二極化はうちの大学でも感じます。私は理系学部なのですが、学生を見ていると、同じ大学の同じ学部で、同じ専門領域の研究をしていても、結果には差がつきます。

【女子大】女子大の場合は、就職事情が少し特殊なので、他大学に比べて景気の浮沈の影響を受けにくいかもしれません。今でも大学の推薦枠が残っていますから。

【一同】え? 今でもそんな制度が残っているんですか?

【女子大】キャリアセンターに足しげく通う学生には、“○○銀行から推薦枠があるんだけど受ける?”といった情報を職員が伝えるんです。推薦枠の数や企業名は公表されないので、あまり世間的には知られていませんが。

――早稲田の理工系ともなると、研究室推薦があったりするのでは?

【早稲田】推薦はたくさんありますが、ほとんどの学生が使っていません。使っても絶対に内定が出るというものではなく、一般エントリーで、より優秀な子が入れば、企業はそちらを採用します。それに推薦を使うと、合否が出るまで他の企業にはエントリーできないんですよ。あまり有利な制度じゃないんです。結局、修士論文と就活のどちらも手を抜けず、教授も学生もヘトヘトです。

■内定が取れない子の共通点

――内定が取れる子、取れない子の差が開いているというのは気になりますが、どんなところが違うのでしょうか。

【早稲田】うちのゼミはコアタイムが早朝から日が暮れるまで。非常に長い時間を一緒にすごすため、学生の個性と嫌でも向き合わざるを得ません。言われなくても研究室をサッと片付けておける子、教員や先輩の実験の下準備などを率先して行える子などは、有名企業に決まる率が高い。こうした「気働き」ができる子は強いですね。体育会の部活やバイトをやっている子に多い気がします。

【女子大】うちの大学は学生と教授の距離が近いので、相談や報告に来る学生が多いです。学生たちを見ていると、企業選びの際に “労働時間、転勤の有無、産休・育休の充実”といった自分が求める条件と、それぞれをどこまで譲歩できるかを考えている、キャリアビジョンがしっかりしている子が強いですね。志望業界や企業が絞れているので、内定を取りやすいのかも。

――すごく現実的ですね。

【女子大】そうなんです。結婚を意識する前から、家庭と仕事の両立をしやすい環境に身を置こうと考えているのかもしれません。

【日大】うちのゼミはマスコミ志望が多いのですが、こだわりが強い子は、内定を取りやすいと感じます。

――こだわりが強い子とは、具体的にどんな子でしょうか。

【日大】“じたばたして最後まで粘る力がある子”でしょうか。第1志望の企業、業界に行くために、OB訪問や資料収集に余念がない子です。大手がダメだったときに、“マスコミにどうしても入りたいなら、地方の新聞社、放送局などもすべて回れ”と学生には言うのですが、本当に実行するタイプは、必ず内定を取ってきます。一般入試で入学した子や、部活に専念した子に多いですね。

――逆に打たれ弱かったり、あきらめの早い子もいるのですか。

【日大】推薦・AO入試組はどうしても一般入試組に比べて、ここ一番で頑張る力が弱い子が多い気がします。推薦入学の子たちは、“成績のいい、聞き分けのいい子”なんですよ。高校の3年間、全教科を満遍なく勉強してきた。大学に入ってからも成績がいい。しかし、“どうしてもこの大学に入りたい”といった大きな目標に向けて、徹底的に取り組んだ経験が少ない子が多い。

【早稲田】推薦入試の子が弱いというのは、うちの大学でも感じます。推薦で入学してきた学生は、“この研究がしたい”というのではなく、高校に推薦枠があって、大学名に引かれてなんとなく入学したという子が多い。もちろん、入学後に研究の楽しさに気づく子も多いですし、高校までとは評価のルールが違うんだと順応する子も多いですが、その一方で“早稲田の理工”の看板を手にしたことで満足し、力尽きてしまう子もいます。研究は発想力と粘り強さが大事なのですが、どちらも研究が好きでないと身につきません。理系の場合、研究成果と就職が直結する部分もありますから、就活で苦労しています。

――そういう点で言えば、推薦入試は一般的ではない、国立大の場合はいかがでしょうか。

【国立大】国立大にももちろん、就職先が決まらない子がいます。どこにも決まらない学生を見ていると、“この子が国立大に受かったとき、親御さんもご本人も嬉しかったろうな。でも、就職は保証されていないのか”と想像し、切なくなります。

――身近で見ていらして、どういう学生に多いでしょうか。

【国立大】以前は “この子は少し人間関係は下手そうだけど、国立大に入ったくらいだから勉強を頑張ってきたのだし、さらに会社で鍛えてやろう”と企業も度量が広かったのですが、今や面接の場では“自分が企業で役に立つ”ことを明快にプレゼンすることを求められています。そういう点で、遊びも上手な“要領のよさ”のある子は強い。彼らは弁が立つし、人前に立つ経験も豊富。去年は女の子好きを自認するお調子者が外資系金融に決まりました。

【早稲田】口下手な子は不利ですよね。研究の成果をプレゼンさせると、内容以上に見せる子と、内容はいいのにプレゼンでは惜しい子がいます。後者の子は、実際の面接でも損をしてしまいます。

――真面目にやっていても評価されないのは、理不尽な気もしますね。

【国立大】今の日本の受験制度は、筆記試験を中心とした学力を評価しています。なので、真面目な子が“いい大学”に入学することが多い。真面目さが評価されることは大事です。しかし、就職活動をはじめ、社会での個人の能力は、筆記試験ほど客観的な物差しでは測られていません。見方を変えれば、“いい大学”に合格しても、それはたまたま今の大学受験のルールでうまくいっただけかもしれません。少なくとも、そう割り切らないと、就職活動のスタートラインにすら立てません。

【一同】(うなずく)

【早稲田】そういう意味では、大学受験と同じ思考でネームバリューで企業を選んでいる子は、苦戦するし、生き方としてももったいない。せっかくいい大学に入学したのだから、有名企業に入らないと恥ずかしいと思ってしまう。“有名じゃないけど、この分野では一番の企業の内定を取りました”って言いに来る子は、すごくいい笑顔をしている。

■今から間に合う、就活対策

――最後に子育て世代の読者に、“今からやっておくと良いこと”をお話しいただきたいのですが。

【早稲田】難しい質問ですね。

【女子大】誰からいきましょうか。

【日大】じゃあ、私から。学生を見ていて、自分に自信がある子は強いですよ。大会優勝や部長などの経歴がなくとも、自分なりの工夫をしたことや続けてきたことなどがあればいいのです。小さい頃から習い事や部活を続けさせるのが、いい方法ではないでしょうか。

【国立大】就職活動って、何ができるかと同じくらい何をしたいかを問われますよね。だから、好きなものがある子は強いと思います。PISAの調査などを見ると、日本の子供たちは世界的に見ても点数は高い。しかし、“学ぶことが好き”という子は諸外国に比べて少ないんです。これは非常にまずい。学ぶことを嫌いにさせる勉強をさせているのです。好きなことがあって、そのことを面接の場で話して、希望する職場に入るのが、企業にとっても、本人にとっても理想ではないでしょうか。趣味や特技でもいいですが、勉強でそういう分野があると、なおよいと思います。企業に入っても、人生は学びの連続なのですから。そういう意味で、学ぶ楽しさを早くから知ってほしいですね。

【女子大】お子さんがまだ小学生であれば、親が自分の仕事のことなどを具体的に話してやればいいと思います。日本のキャリア教育では、きらびやかな仕事のカッコいい面を強調して、憧れを作るほうに比重を置きすぎている気がします。もちろん、そうしたことも大事ですが、その一方で、仕事の大変なこと、転勤やお給料のことなども教えてやらないと、突如現実と向き合うことになります。もう少し早めに教えてやってもいいのかなと思いますね。うちは10歳になる娘がいますが、仕事の苦労も聞いてもらっています(笑)。

【早稲田】私が見ていて思うのは、“勉強だけの子”にしないことですね。当たり前ですけど、いい大学に入学しても、その大学内では大学名って何の自慢にもならないですよね。多くの企業で、“この大学から何人”と大学ごとに枠を設けているので、同じ大学の中で頭一つ抜け出ないといけない。そういうときに何を武器にするか。やってきたスポーツや習い事が、直接採用につながるとは思いませんが、勉強との両立で手に入れた要領のよさなどは、絶対評価されるはずです。

【国立大】ちょうど自分の子が来年就活なので、みなさんと話していて心配になってきましたよ(苦笑)。

----------

◎“成績のいい、聞き分けのいい子”はここ一番で頑張る力が弱い

----------

■内定取れ子さん

▼気配りができる
研究室や部室の掃除、次にやることの準備などの雑務を、指示される前にできる。気働きができるため、先輩や顧問・指導教官の覚えがめでたい。

▼将来像が明確
やりがい、給料、労働時間、転勤の有無などの企業に求める条件とそれぞれの条件をどこまで譲歩できるかが、はっきりしている。

▼口が達者
準備に時間をかけなくても、ある程度話術でゼミや授業の発表を乗り切れる。人前に立つ場数を踏んでいる。

▼受験や部活に打ちこんだ経験がある
受験であれば一般受験で大学に入学、部活動で大きな大会を経験など“ここ一番”に向けて努力したことがある。

■内定ナシ夫くん

▼AO・推薦組
真面目にコツコツと勉強を頑張ったが、飛び抜けてできる教科や興味のある学問がない。大きな目標がなく、目の前の課題を地道に処理する。

▼学校名を鼻にかけている
プライドが高すぎて、中小企業を受けようともしない。周囲の目ばかりを気にするため、みすみすチャンスを逃す。

▼“リア充”ではない
研究、サークル、運動部、バイトなど充実した学生生活を送っていないため、面接で話すエピソードがない。要領が悪いので、就職活動と授業の両立ができない。

▼働くイメージが湧いていない
“仕事”について具体的なイメージを描けていないため、業種・業界や働く上での条件などを絞れない。

(大高志帆=文 遠藤素子=撮影)