サントリーホールディングス 新浪剛史社長

■もし今日が人生最期の日なら

疲れが残って起きられない土曜の朝。眠って休養をとるか、それとも目を覚まして有意義に時間を使うか――。

まず平日休日を問わない前提であれば、早起きの経営者は多い。会社に行けば業務で忙殺されるため、それまでの時間を有意義に使うのだ。

「基本的に経営者は、5時か6時に起きます。といっても睡眠時間が短いわけではない。体調管理には気を使っているので、ほとんどの人が12時前には寝て、6時間以上は眠る。

IIJ会長の鈴木幸一氏は午前4時起き。本を読みながら半身浴をして、その後に1杯のコーヒーを飲んでから、会社へ向かう。ベネッセホールディングス会長兼社長の原田泳幸氏も朝4時起きで、メールチェックした後、近所を10キロランニング。シャワーを浴びて、会社には8時に到着します。米国野村証券の社長だった寺澤芳男氏は、朝6時起き。顔や歯を洗わずにアスレチッククラブに直行し、裸でひと泳ぎする習慣です」(300人以上の経営者を取材してきたジャーナリスト・國貞文隆氏)

ここで気がつくのは、朝に水を浴びる率の高さである。大倉財閥の創始者である大倉喜八郎氏も朝風呂派で、「血管の循環を助け、悪気をも払い」「強壮を促すに於て多大の効果がある」「入浴一番すれば、心気たちまち爽然として天地皆春の如き感が起こるのである」と朝風呂の効能を絶賛している。

水に体を浸せば前夜の酒も抜けるし、血流がよくなって、全身が活性化。会社に着くとすぐ仕事を始めなければいけない経営者が、ウオーミングアップする手段としても有効なのだ。

夜は仕事や会合が詰まっている要人にとって、自由に使える時間は朝に限られる。そこで経営者の間で流行っているのが朝会だ。「サントリーホールディングス社長の新浪剛史氏は、経済同友会系の若手財界人とホテルに集まって、朝食をとりながらみんなと情報交換して、それから会社に行く」(國貞氏)。できるビジネスマンは朝を大事にするといえるだろう。

では土曜はどうか。

「ゴルフがあるから、大体早起きです。その中でも意識が高いのが、クロスカンパニー社長の石川康晴氏。テニス教室や会合など、なんらかのスケジュールを土曜に入れて、無理やり起きてしまう。たぶんリズムを崩さない目的でしょうが、そうすることで時間を有効に使える」(國貞氏)“休みにあえて用事を入れる”を実践しているのが、イチロー選手だ。

「オフシーズンの朝起きたら『今日は○時に○○にいる』など、今日やるべきことを1つ設定するそうです。そして同僚から誘いを受けても、予定とかぶる用事なら断り、必ず実行に移す。アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏も、朝起きたら、『もし今日が人生最期の日なら、私は何をしたいだろうか』と考えていました」(著名人の行動習慣をまとめた著書がある理学療法士の濱栄一氏)

濱氏は、こうした行動は目標を達成するために必要な3つの力を鍛えるのに最適だと分析する。ひとつはメーンイベントをやり抜こうとする「やる力」。そして誘惑を拒むことで磨かれる「やらない力」。さらに自分が望む目標を意識する「望む力」だ。

「休みの日にあえて、自分が何をするか考える習慣をつける。そのことによって、仕事だけではなく、人生における目標を達成する力が養われるのかもしれません」(濱氏)

土曜の朝は惰眠を貪らず、飛び起きたほうが賢明のようである。

調査概要●年収1000万円以上で「自分は幸運だ」と思っている人(幸運者)と、年収300万円以下で「自分は不運だ」と思っている人(不運者)、各100人にアンケート調査を実施した。

(鈴木 工=文 的野弘道=撮影)