慎重派のハリルホジッチ監督にとっても、この2戦はテストし得る絶好の機会。金崎をはじめ、新顔の抜擢に期待したい。

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 日本代表は11月12日にワールドカップ・アジア2次予選のシンガポール戦、同17日にカンボジア戦に臨む。同5日の14時には、この2試合の招集メンバーが発表される。10月のシリア戦で3-0と勝利した日本は、グループの首位に立ったが、果たしてハリルホジッチ監督は、11月シリーズにどんなメンバーを招集し、いかなる戦いを見せるのか?

【写真】シリア戦プレーバック

「19回ほどのチャンスを作ってゴールが入らなかったのは、私の人生であまり見たことがない」
 
 ハリルホジッチ監督の嘆き節が記憶に新しいシンガポール戦でまさかのスコアレスドローを演じ、雨中のカンボジア戦では3点しか奪えなかったとはいえ、11月シリーズで対戦する2か国は明らかに格下。「なにが起きるか分からないのがワールドカップ予選」なのは重々承知のうえで、勝点6の獲得が最低限のミッションとなる。
 
 なにより大事なのは、現時点で日本より1試合多く消化してグループリーグ首位に立つシリアを、再び抜き去ること。たとえどんなメンバーで臨むにせよ、シンガポールとカンボジア相手に勝点を取り逃すようならばチーム作りを根本から考え改めるべきだろう。
 
 一方で、貴重なアウェーでの真剣勝負2連戦ということもあり、本来なら若手主体の構成でテストを含めた強化に当てたいところだ。実際に、ヤングボーイズの久保や浦和の高木といった新戦力がリストアップされているようで、指揮官次第では“実験場”となる可能性も残る。
 
 とはいえ、割と慎重派のハリルホジッチ監督のことだ。呼び集める顔触れにそう大きな変化は起きそうもない。結局は従来どおりに本田や香川、長谷部らが軸となり、新顔が呼ばれればむしろ驚き、といったところか。
 
 そのなかでぜひ推薦したいのが、鹿島の金崎だ。10月31日に行なわれたナビスコカップ決勝で最多7本のシュートを放つなど、仕掛けのアグレッシブさは目を見張る。ドリブルのキレもすさまじく、打開力は日本人トップクラス。さらには細身ながらポストワークも力強くこなし、組み立てにもスムーズに関与できるだけの足技を持つ。
 
 引いて守ってくる相手にも臆さず突破を試み、隙あらば難しい体勢からでもシュートを打てるのは、稀有な才能だ。押し込みながらも得点が入らない……、そんな日本代表のマンネリを打破できそうな“なにか”を秘めるのが金崎なのだ。
 
 本人は決して多くを語らず、先のナビスコカップ決勝後では「ムウくん! ムウくん!」と記者に呼びかけられても、不敵な笑みを浮かべながらミックスゾーンを素通りした。ある意味で元欧州組らしい物怖じしないメンタルも魅力で、もし2010年以来の代表復帰となれば間違いなく面白い存在となる。
 あらためてポジションごとに見れば、GKは変わらぬ3人が選ばれると予想される。浪人生活が続き、このところ代表から遠ざかる川島はスコットランドのダンディー・Uへの移籍が決まりそうだが、今の時期に無理をさせるとは考えにくい。クラブとの交渉が大詰めを迎えているのであれば、なおさら“就職”に集中するのが選手にとっても得策だ。
 
 CBでは吉田、槙野、森重が順当に名前を呼ばれるはずで、残る1枠の争いが焦点。候補はG大阪の丹羽、神戸の岩波、鹿島の昌子あたりが。ただし、最終ラインでなにより期待されるのは、新たなSBの台頭だ。
 
 本来の実力や実績で見れば長友、内田がファーストチョイスだが、前者はパフォーマンスが落ち着かず(インテルでは少ないながら出番を得つつあるが……)、後者はリハビリ中。控えの有力候補と目される“ダブル酒井”や米倉も地位を固められていない。
 
 確かに、これまでのアジア2次予選を通じて失点ゼロと守備面に大きな問題はないが、SBのクロス精度をはじめとした攻撃面は明らかに物足りない。SBに後方からのつなぎを求めるか、クロスを求めるか、あるいはその両方なのか。指揮官はメンバー発表のたびに選考基準のニュアンスを変えており、いまだ方向性がはっきりしないものの、Jリーグでアシストを量産するFC東京の太田を筆頭に攻撃的な“異分子”のプレーにも期待したい。
 
 長谷部と山口が鉄板のボランチは、鹿島の柴崎とU-22代表の遠藤が対抗馬となるか。後者は現在の日本代表ではSBとして捉えられているものの、将来性を踏まえれば本職で試しておきたい人材だ。
 
 本田や香川、長谷部をはじめ、多くの欧州組が名を連ねる2列目は、文字通りの最激戦区だ。宇佐美や原口ら、サブに定着した実力者も控えており、たとえ新たなチャレンジャーが選ばれたとしても、出番を与えられるかは未知数となる。
 
 逆に言えば、いっそのことミランで悶々とする本田をベンチに置き、それ以外の常連でどんなサッカーができるのかテストするのも一興だ。無論チームカラーはガラリと変わるが、これまで出場時間があまり与えられていない実力者に成長と自覚を促すためにも、試す価値は十分にある。そんな一種のギャンブルでも、ある程度勝ち目の広がる相手がシンガポールとカンボジアであるとも言える。
 
 なかでも主役を担うべきは、ハノーファーの大黒柱として君臨する清武。心配された右足の怪我は軽度の打撲で、代表活動には支障がないようだ。飛躍が待たれるロンドン世代の旗手がトップ下に入り、香川は左サイドから自由に攻撃を仕掛ける――。もしくは、ポリバレントでもある清武がサイドに回り、背番号10の隣で輝きを放つ――。そんな青写真も描けるはずだ。
 
 CFはイングランドで研鑽を積む岡崎、10月31日のアウクスブルク戦でハットトリックを達成した武藤のふたり。殻を破りつつある俊英が、マインツの先輩にあたる岡崎にどこまで肉薄できるか。さらなる覚醒を促すために、スタメン起用も考慮したい。
 
 もっとも、最前線はテストがしやすいセクションである。アウェーのピッチコンディションは悪く、ロングボールが有効手段となりそうであれば、レターが行ったとの噂もあるハーフナーは違いを生む存在となるかもしれない。オランダで好調を維持し、高さは他の選手はない武器。万が一終盤までゴールが奪えずにパワープレーが必要な場合には、194センチのハイタワーが利いてくる。
 
文●増山直樹(サッカーダイジェスト編集部)