過去37年で最低のスタート…盤石だった王者チェルシーに生じた誤算とは?

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 開幕8試合で稼いだ勝ち点はわずかに「8」。過去にプレミアリーグで同様のシーズンスタートから5位以上でフィニッシュしたチームはひとつもない。

「もはや一時的なスランプではない。深みにハマっている」(ガリー・ネヴィル)

「すでに彼らの優勝争いは終わった。目標はトップ4だ」(ジェイミー・キャラガー)

 元選手の解説者たちはこう口をそろえる。降格した1978−79シーズン以降、過去37年間で最低のスタートを切ったチェルシーに、なにが起こったのか?

 年明け以降の失速でチャンピオンズリーグ早期敗退を強いられた昨季の教訓から、ジョゼ・モウリーニョ監督は開幕前のキャンプを短縮し、親善試合の数も極力減らした。ゆえに、ピーキングの問題からある程度のスタートダッシュ失敗は想定の範囲内だった。

 だが、いざ開幕を迎えると想像以上に選手たちの状態が悪かった。8月半ば、第2節を終えた時点でモウリーニョは「(ブラニスラフ)イヴァノヴィッチ、(ガリー)ケーヒル、(ジョン)テリー、(セサル)アスピリクエタ、(エデン)アザール、セスク(ファブレガス)、(ネマニャ)マティッチの状態に満足していない」とクギを刺しているが、10月に入った今も彼らのパフォーマンスが一向に上がってこないのだ。

 守備陣ではテリーが別人のように衰えを見せ、右のイヴァノヴィッチは何度も快速ドリブラーにサイドを破られ、昨季の同時期と比べてファール数が激増(6回→14回)している。さらに、この夏から解説者に転身したリオ・ファーディナンドはこう付け加える。

「かつては(クロード)マケレレが、昨季はマティッチがいたように、チェルシーは4バックの前のプロテクトが固い。だが、今季のマティッチはインテンシティを欠き、疲れているように見える」。

 マティッチの不振で中盤のシールドが弱まり、無防備にされた4バックの不出来が際立つ。そこに守護神(ティボー)クルトワの長期離脱まで重なり、昨季プレミア最少失点の堅守はあっけなく崩壊してしまった。

 一方、攻撃陣ではアザールがここまで無得点と本調子からほど遠い。昨季開幕8試合で7アシストを決めたセスクはここまでわずか1アシスト。ジエゴ・コスタもまだ1ゴールで、このエースが見出しを飾ったのはローラン・コシェルニーへの平手打ちで3試合出場停止を食らった一件くらいだ。

「(ラダメル)ファルカオは2年前のレベルにない。D・コスタ抜きで戦わなければいけないとき、代役の仕事ができるFWを獲得しなかったというミスは見落とされがちだ」とは、元イングランド代表MFジェイミー・レドナップの言葉。主軸の不調をカバーできる人材がいないのも問題である。FWに限らず、エヴァートンからジョン・ストーンズを獲得できていれば守備の問題も……と考えれば、移籍市場での失策もスランプの一因だろう。

 選手個々の出来が昨季のレベルに戻らない理由は、マンチェスター・Uで何度も優勝を味わってきたG・ネヴィルの言葉がヒントになる。

「現役時代、リーグ制覇した翌シーズンに少し出遅れるのは普通のことだ。ただ、その時、いつも(アレックス)ファーガソン監督がこう言っていた。『もうやり切ったと思っているかもしれないが、ここからさらに前進しなければならない』とね」

 今のチェルシーの選手たちは、いわゆる“燃え尽き症候群”に近い心理状態なのだ。そう考えると、以下のようなプレミアOBたちの印象も説明がつくかもしれない。

「昨季、我々はマンチェスター・Cの熱意や意欲を批判したが、それよりも酷い。王者のこんなパフォーマンスは初めて見る。こんなにスローで走れないチームはない」(キャラガー)