ミシュラン星付き居酒屋も登場!これが都内最強の肴も酒も旨い店6選

写真拡大

酒も肴も旨い秋、秋刀魚や茄子やかますなど、旬を迎えた美味しいつまみで日本酒をキュッと傾けたいものだ。そんな時、間違いなく“旨い”を約束してくれる店がある。ミシュランで星を取った唯一の居酒屋をはじめ、東カレが太鼓判を押す店をご紹介しよう。せっかく呑むならこんな店へ!

抜群のつまみに酒がすすむ日本一の居酒屋『萬屋おかげさん』

ミシュランガイドに居酒屋で唯一、星を獲得した店がある。四ツ谷にある『萬屋おかげさん』。小ぢんまりと風情ある店内は、“20歳以下おことわり”の大人の聖地であり、予約至難の超人気店だ。

揃える日本酒は50種類前後でいずれを取ってもハズレなくすべてが珠玉の1本。丁寧に蔵元を回り試飲を重ねているので、蔵からの信頼は絶大。人気の酒であっても必ず手に入るという。

料理はおまかせで出てくるスタイル。これがまた酒にピッタリなのだ。写真の、仕事をした刺身が盛り込まれた一皿は、からすみをたっぷりとまぶしたスズキ、脂がよくのった秋刀魚の肝あえ、ワラで炙ったカツオなど、これだけで何合も盃が進んでしまうこと請け合い。

ふっくらとした煮穴子もできたては格別の味わいで、また一献。旨い酒と肴にたっぷり酔いしれたい。

仕事帰りにひと心地
刺身と熱燗で生き返る『魚料理 田はら』

外食となるとフレンチやイタリアン、中華料理を選ぶことが多いという、テレビでもおなじみの料理研究家の土井善晴さん。が、ちょっとお酒が飲みたいというときに出かけて行くというのが、西麻布の『魚料理 田はら』だ。

「気安く、家庭的な雰囲気がいい。仕事でよく行くテレビ局の近くなので、帰りに寄ることも多いです」

親の代から続く鮮魚店を営んでいた田原和雄さんがこの店を開いたのは1992年。魚は目利きも扱いもプロゆえ、シンプルな料理もひと味違う。店の代名詞ともいえる愛媛産奥地鯵を使ったあじフライは、素材の上質さと丁寧な仕事がしっかり感じられる逸品。もちろん、土井さんも必ずオーダーするという。

「加えてお刺身ですね。あじフライもそうですが、魚をよく知った人たちが作る料理だなと感じます。僕は西の生まれだから、鯵や鰯などには子供の頃から親しんでいる。東京で関西のように身近な魚を気軽に食べられるお店はそうないんです」

酒はお燗を一〜二合。これをゆっくりと飲む。「冷たい酒よりも燗のほうが、料理の風味もよくなるんです」

店名に「魚料理」とあるが、肉料理は置かぬ一徹ぶり。その分、煮魚も焼き魚も種類豊富。西京味噌漬けや粕漬けも有名な『田はら』だが、土井さんは「あじフライとお刺身専門」ときっぱり。それでも毎回「旨い」と“唸る”のだ。

次は、師匠の味を踏襲した、素材を活かすシンプルな料理

師匠の味を追いながら
気付けば自分の味になる『懐石 大原』

2012年、世代交代が進み、バーや和食店の新規開業が華やかな荒木町に、またひとつ新しい灯りが点った。杉大門通りに大原誠さんが自店を開いたのは2012年6月。店主・高橋一郎氏の他界により閉店した目白『和幸』で10数年修業し、駆け出しの頃から彼を見守る顧客たちに後押しされ、心を決めたという。

供するのは、「おやっさん」と心から慕う師匠の味を踏襲した、素材を活かすシンプルな料理。「素材を大切にしすぎて、調味が薄くなりすぎぬよう」と塩梅しながら、日々築地を駆け回り集めた国産の魚や野菜と向き合う。

味わいには尖りがない。盛りつけにも派手さはない。「茶の心得は親方に教わっただけですから」と控え目に言うけれど、茶懐石を供する店で学んだことはきっちりと身に付いている。

酒は、決して料理の前に出すぎぬものを出す。おいしいものを気軽に食べて欲しいと、「俺の時給はタダ」が口癖の大原氏。じっくりと身体に染み込む味わいが、実は一番、酒を進ませて危険なのだけれど。

次は、カウンターで飲み楽しむ正統派日本料理

正統派日本料理で
背筋の伸びる一献を『銀座おかもと』

カウンターで飲む楽しみ。その構成要素のひとつが、職人の手元だ。カウンターと厨房との間には何の障害も置かず、包丁の動きや今夜使う器が見える。そんな時、喩えようもない高揚感がふっと身を包む。酒が、飲めて良かったなぁと思う、瞬間だ。

2012年7月、満を持して銀座に『おかもと』を開けた岡本英嗣氏は、そんな酔客の目をきちんと受け止める店を用意した。厨房や店に無駄なものは何もなく、料理に使う材料を置くためにも、それらを和えるためにも、もちろん盛るためにも、とっておきの器を使う。

興ざめする小道具はなるたけ最小限に。「見せる」店づくりが、彼のこの店での信条である。
「お客さまが席に座った時、期待感を持っていただくにはどうしたらいいかを考えています」

料理はお任せコース1本。味はもちろん、メリハリをつけ、お客の胃の腑のリズムを掴む。特別希少な産地や食材にはこだわらず、ただ自分の目で納得したものだけを使った料理は、正統派。凜として、だが決して塩気や甘み、苦み、渋みが突出して前に出すぎず、破綻がない。だから酒を飲む側も、前のめりになる必要がない。ただゆるゆると、流れにのるうちに、気付けばなぜか杯が空く。「作るプロセスにもメリハリを付けています」

長年の修業で身に付いた美しい所作から生まれる澄んだ味。惜しむらくは、背筋が伸びて不埒な気持ちになれない、ことだろうか。

次は、肴も酒も器も極上な店

シンプルな中に表現する
無駄を省いた技が冴える『栩翁S』

2011年にオープンした知る人ぞ知る名店『栩翁S(くおうえす)』。

一風変わった店名は、人間国宝の陶芸家、故石黒宗磨の雅号にちなんだもの。器に造詣の深いご主人重嶋友和氏が最も敬愛する陶芸家で、氏によれば「見た目は地味でも、うちからにじみ出る独特の風合いがある」ところが好きな理由なのだとか。

氏の料理も然り。派手な盛りつけは好まず、まずは“素材ありき”。

天草のウニや北海道のえりも牛、琵琶湖のスッポン、明石の真鯛etc.全国各地から届く選りすぐりの食材らを前に、いずれも余計な手を加えず、さりとて下ごしらえの手間ひまは決して惜しまずに、本来の持ち味を最大限に引き出せるよう心を砕く。

たとえば写真の“甘鯛のお造り”。2?もある大きな上対馬の甘鯛は、一汐をして3日間熟成させ、旨みをピークに持っていくといった塩梅だ。このねっとりとした甘鯛の旨みに合うのが、辛口の福千歳。日本酒は、この他に常時3〜4種類が、その都度銘柄を替えつつ揃えられている。

料理と器と酒の三重奏が見事な店である。

最後は、美食家が 思わず唸ったつまみ

こんな時代だからこそ希望多き存在の店が光る『高太郎』

「連夜、予約で一杯の居酒屋。しかも林高太郎さんが独立独歩でね。希望の持てる話じゃないか」

今宵も、居酒屋探訪の大家にして銀座のバーにも精通する太田和彦センセイの講義が始まる。

「やるべき事をやれば、店は繁盛する。お客は、正直なものだよ」

渋谷駅から至近ながら雑踏から離れた桜丘町に、酔客たちが熱望した大人の居酒屋が開業したのは2011年3月末。半年を待たずして予約の取れない店となったのは、道理だとセンセイは言う。

「子供がいない場所のよさ、料理の基礎がある高太郎さんの力量、日本酒の勉強を怠らない謙虚さ。そうそう、当たり前のようにお燗を出すのも、とてもいい」

お通しは、豆と青物のおひたしと決まっている。豆に相好を崩すのは年を重ねた証拠。枠を決めてその中で工夫できるのは、料理人の腕とアタマがあってこそ。センセイはカウンターにひとり腰掛け、七本槍あたりをちびりちびりやりながら、ふむ今日の青菜はニガウリかい、と独りごちつつ、次の肴をゆったりと待つ。

「ご覧、カウンターから障害物なしに厨房が見渡せる。料理風景を見ながら飲むのが、居酒屋での最上の喜びだが、ここは満点だ」

ほどよく身を叩いた飛魚に味噌と醤油少々を加えたなめろうが目前に現れ、センセイはご満悦。

「これが、一番の好物なのさ」