貧すれば鈍するということか(写真はイメージです)

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 東京都郊外のとある住宅地──ここに10年前から住む主婦のケイコさん(仮名・43歳)は4人家族で暮している。社員数5人の零細塗料卸会社で営業マンとして勤務する夫(40)と小6・小3の娘たちだ。夫の年収は夏・冬のボーナスを合わせて300万円程度。ケイコさんは近所のスーパーにパートに出ているが、これを足しても世帯年収は400万円前後だ。2人の子供をいることを考えると、生活は決して楽ではない。

 ケイコさんたち一家が暮らす住居は1LDK・築50年、月の家賃3万円のアパートだ。

 湿気が多く夏は蒸し暑く、冬は隙間風が入ってくる。だから外のほうが夏は涼しく、冬は暖かい。床にはゴキブリが這い、天井からネズミが走る音がいつも聞こえる老朽化著しい昭和の香り漂う集合住宅である。

貧困生活の憂さ晴らしはネットでの有名人叩き!

 人は住めば都、家族一緒に肩寄せ合って暮らせば、それだけで幸せだという。だがそれも程度問題ではないか。日々の不満は募るばかりだ。

 そんなケイコさんが日々の生活の不満をぶつけるのはTwitterや2ちゃんねる掲示板、Yahoo!知恵袋といったサイバー空間だ。ネット上で彼女は“鬼女”になりすまし、政治家や芸能人、マスゴミ関係者、女性芸能人を攻撃したり、揚げ足取りをして鬱憤を晴らす。

「いい加減な情報を流すマスゴミは大嫌いっ! なぜって? 顔と肩書きだけで男にチヤホヤされて高いギャラを貰っている女子タレントがいるからよ! だからtwitterで芸能人が美味しそうな食事とかをアップしていたら、即攻撃してアカウント閉鎖に追い込むの。何か幸せそうな雰囲気を醸し出している。それが腹立たしい!!」(ケイコさん)

 何の関係もない女性芸能人にとってはとんだとばっちりである。

1日で5万円を稼ぐ女子アナに嫉妬しネットで誹謗中傷

 ケイコさんが最近、とくに敵視しているのが女子アナだ。先日、彼女の子どもが通う小学校のママ友から、元局アナというフリーランスの女子アナを紹介された。今は結婚式の司会やインフォマーシャルと呼ばれるCMなどに出演しているという。

 近所に住んではいるが子どもは私立の学校に通っているので接点はない。聞けば夫は大手損害保険会社勤務で年収は1200万円くらいだという。ケイコさんの夫のゆうに4倍の年収額だ。だが、許せないのはそのフリーの女子アナが仕事をした際に貰うギャラの額だ。

「気になってたので聞いたのよ。そしたらね、『結婚式の司会だと5万円から10万円くらいかしら。失敗できないし大変なのよ』って! はあ!? わたしなんて近所のスーパーにパートに出て8時間労働、9時間拘束で時給850円、1日6800円よ。結婚式って丸1日もないでしょ? わたしが7日間働いてようやく得られる5万円、それを1日で稼ぐのよ。 失敗できない? はあ? わたしだってレジ打ち間違えたら客と店長にドヤされるわよ!」(同)

 こうして、その女子アナが許せなくなったケイコさんは、2ちゃんねる等で彼女の悪口を書き込み、誹謗中傷に勤しむようになったという。しかし、彼女にとって週4日働く近所のスーパーは、自らの生活防衛をかけた戦場でもある。

「ほかのパートさんが旅行に行った際のお土産や、お取引先が持ってきたサンプル、廃棄食材などを頂くの。『これ、うちの子どものために持って帰っていい?』と聞けば誰も文句言わないわよ」

 もちろんケイコさんの生活防衛戦はこれだけではない。パート先で慰労目的の納涼会や、BBQ、ビッフェ形式の食事会と聞けばかならず参加、タッパーを持参、余ったものを詰めて持ち帰り冷凍保存、家族の食卓に並べる。すべては節約のためだ。

「ご近所で“タカれる”裕福なお宅ふがあれば、『お子さんの誕生日のお祝いを言いたい』とか何だかんだ理由をつけて食事時に伺う。でも知り合って1か月で5回目に通ったときは、さすがにそこのご主人から注意されて出入り禁止になっちゃった(苦笑)。稼いでいるのにケチくさいわよね」(同)

心の豊かさは年収に比例する……

 ケチといえば、ケイコさん一家がその女子アナ宅に食事をタカりに行った際、食事内容は野菜を中心とした粗食だった。また、皆が食事をするなかで女子アナだけは料理にあまり手を付けず、ビールやワインを飲まず、野菜ジュースやスムージーだけで済ませていることもあった。

「それだけじゃないのよ。近所の町内会の運動会前、その女子アナ、必死で走り込んだり、ウォーキングをしたりしているのよ。運動会で入賞したら洗剤とかレトルト食品とかの景品が出るのね。だから必死で練習してるのよ。時々、近所のジムに入っていく姿も見かけるし。絶対、景品目当てよね」

 このように金持ちほどケチだとケイコさんは喚く。だがこれは当然、ケイコさんの思い込みだ。女子アナはあくまで体形維持のため、食事制限と運動をしているにすぎない。

 さて、先月7月31日、財務省は政府税制調査会に1999年から2009年の10年の間に年齢層ごとの世帯年収の変化を分析した結果を明らかにした。

 この分析では若年層(30歳未満)における世帯年収300万円未満の割合は94年には9.8%だったが2009年には18.7%と倍増したとの結果に注目が集まったが、壮年層(30歳から59歳)においては、500万円未満の割合が増加する一方で、800万円以上の割合が減少するなど“格差社会”が進んでいる実態もまた浮かび上がった。

 格差は“心の豊かさ”でも拡がりをみせている。そして、この心の豊かさは夫の年収に比例しているかにみえる。夫に甲斐性があれば、妻がネットでの憂さ晴らしに走ることもなく、タカりに駆り立てられることもない。今、国がすべきはまず格差社会の解消だ。所得格差がなくなれば結婚を躊躇う男女も減り少子化も解消される。結果、生産性も向上、日本経済も大きく発展する筈だ。

(取材・文/大越冴子)