シカ、イノシシ……日本にわずか「女マタギ」の生き方

縄文時代、日本人は狩猟生活を送っていた。鹿や猪が主食だったという肉食文化は、今も全国に残るマタギの中に痕跡を残している。日本で数少ない専業猟師の吉井さんを訪ね、鹿のことを教えていただいた。

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吉井あゆみ 
専業猟師。兵庫県朝来市に移り住み、小さな頃から動物が大好きで、親の狩猟に同行して野生動物に親しんだ。自宅に併設した加工所を持ち、猪や鹿を中心に料理人に直接卸す。

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■エゾ鹿と本州鹿、どう違うの?

エゾ鹿と本州鹿は同じニホンジカです。ニホンジカは環境適応能力が非常に高い動物なので、冬の寒さが厳しい北海道では独自の発達を遂げ、エゾ鹿と呼ばれるようになったようです。北海道の冬は長く、積雪量も多いため、餌がなくなります。そこで、秋までにたくさんの餌を食べて脂肪を蓄え、冬はこの脂肪を消費しながら過ごします。一方、南の屋久鹿は体が小さく、脂肪量も多くありません。本州に棲息する鹿は、本州鹿という総称で呼ばれますが、それぞれの環境で独自に発達し、その個体差は大きいといえます。

■狩猟シーズンは、いつですか?

地域によって異なりますが、一般的に11月中旬から約3カ月間が狩猟シーズン。北海道の場合は降雪が早いので、本州よりも早いスタートとなります。私の所属するグループでは、11月にまず猪を獲り、12月になると鹿の本格的な狩猟シーズンを迎えます。普段から山に入って、鹿の寝床の位置や、餌になる場所などを確認しておきます。

ちなみに鹿は夜行性で、逃げやすい山の尾根筋に寝床をつくるケースが多いです。また、狩猟シーズンでない春から夏は、田んぼや畑の作物を鹿や猪が食べてしまうので、自治体が主導となって、地域ごとに余剰な鹿や猪を獲ります。

■狩猟方法って、いろいろあるの?

鹿猟は犬を使うことが多いのですが、銃を使うか罠を仕掛けるかが大きな違いです。私の場合、鹿猟には屋久島犬(写真上)を使いますが、ビーグル犬を使う人も。まき猟といって、セコ(獲物を追う役)とマチ(見張り役)に分かれてグループを組んで猟を行ないます。3〜4人から20人単位と規模はさまざまですね。

罠猟は、獲物の体を傷つけないというメリットがあり、地域によってですが、夏は罠が主流のところも。箱罠(写真左下)は、中に餌を置いて生け捕りにしますが、餌は猟師それぞれが工夫していて、企業秘密です。

■獲った後は、どうするの?

昔から、獲ったその場で内臓を抜き、川で冷やしたり、雪を詰めて劣化を防ぎました。一方、食肉として流通させる場合は、各自治体にガイドラインがあります。兵庫県は獲ってから2時間以内に加工所に持ち込み、加工所に運んだら素早く内臓を抜き、血抜きを行なうように指導しています。最近は、自治体が投資した大型加工所も増えつつありますが、兵庫県は私の作業場のような小規模加工所(写真右下)を増やすことを推奨しています。

■雄と雌、どっちがおいしいの?

猪は雌のほうが柔らかくておいしいのですが、鹿は、猪ほど性別による味の差はないと思います。味に影響するのは、食感と脂肪分でしょう。柔らかい肉が好きならば、若い鹿がお薦め。噛みごたえを重視するならば成熟した鹿です。

餌をたくさん食べている夏の鹿もおいしいし、私は、冬を迎えて余分な脂が一度落ちる時期の鹿が好きです。秋に食べた木の実の香ばしさがありますね。雄鹿は、毎年角が生え変わるのですが、生え変わった後に餌をたくさん食べ始めます。

(文・柴田香織 撮影・高見尊裕)