[書評]本多淳『「企業価値」はこうして創られる−−IR入門』

写真拡大

ニッポン放送、フジテレビ、そしてライブドアが連日マスコミを騒がせている。

 ライブドアの買収攻勢に対抗するために、ニッポン放送は「企業価値が毀損する」という理由でフジテレビへの新株予約権の発行を決めた。これに対して、ライブドアは発行差し止めの仮処分を申請、東京地裁がこれを認めた。ニッポン放送が東京高裁に提出した資料では、「毀損される企業価値」は、約550億円から1450億円と試算されている。一方、ライブドアは、子会社化によってニッポン放送の「企業価値」は上昇して、現在6500円程度の株価は1万2493円〜1万3808円に上昇するはずだとしている。

 いったい、「企業価値」とはなんだろうか。本書によれば、「株式時価総額が会社の企業価値のひとつ」である。ニッポン放送の発行株式数は3280万株で、仮に1株6000円だとすれば、企業価値は1968億円、1株1万円になれば3280億円になる。

 本書は、松下電器で30年以上にわたってIR(インベスターリレーション)に携わってきた著者による、IR入門書である。IRとは「投資家向け広報」のこと。1950年代にGEがはじめたといわれるIRに著者がかかわるようになったのは70年代初めで、それ以降、著者は松下電器でIR一筋に働いた。本書は、読み進めていくうちに、IRを通じて松下電器という「会社」と「経営」と「IR」がわかるという仕掛けになっている。

 「説明責任はIRの基本中の基本」「企業は社会の公器である」「IRは超長期のもの」……理論だけではなく、現実を知っている著者の言葉は重い。著者は、マネーゲームで株価が大幅に変動するような「企業価値」ではなく、IRによって「長期にわたり投資家の信頼を得ること」ができるような「企業価値」を創ることが重要だというメッセージを伝えている。

 「ハウツウ・IR」だけではなく、「厚化粧のIR」でもなく、IRとは本来どうあるべきか、それを考えることが本書の主眼である。巻末の用語解説は便利。IRという言葉を初めてみたという人は「へぇー、そうだったのか」、ちょっとでもIRをかじったことのある人は「なるほど、参考になる」、IRをよく知っている人は、黙ってにやりとほくそ笑む、そんな読後感が期待できる本である。(朝日選書、1260円)【了】