「働かないオジサン」叩きは、天に唾する行為か

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■働かないオジサン「会社には貸しがある」

50代の読者から編集部にじつに興味深い投書が届いた。要約すれば以下のような内容である。

<年功序列の給与で若い頃は馬車馬のように働かされたのに安月給だった。会社には十分貢献してきたはずだ。いま、多少働きが悪くてもそのときの「貸し」がある。

途中で、成果主義の名のもとに正社員の処遇を引き下げたり、クビを切るようなやり方は完全なルール違反だし、裏切り行為だ。

20代、30代の若いヤツは私たちの世代のことを「働かないし使えないのに給料が高い」と文句を言うが、自分たちも年をとれば、能力は確実に低下するし、体力も落ちる。

自分と同じ歳になったとき、若いヤツにののしられるかもしれないことを想像してみてほしい。天にツバするような行為だと早く気づくべきだ>

相当怒っているようだが、もしかすると社内では“働かないオジサン”のレッテルを貼られている人かもしれない。

▼働かないオジサンの「言い分」

だが、オジサンの言い分にも一理はある。

日本的経営の特徴のひとつである年功型賃金は20代〜30代の若い時期は働いた分よりも低い賃金を支払い、逆に40代以降は多めに支払うことで帳尻を合わせる仕組みだ。社員にとってのメリットは、子どもが成長し、何かとお金が必要になる時期のありがたい「生活保証給」の役割を果たした。

一方、会社にとっても、手塩にかけて育成した人材が生活の心配もせずに忠誠心を持って長く働いて会社に貢献してくれるという「終身雇用」のメリットを享受できた。

こうした前提に立つと、途中で給与を下げるのは「ルール違反だ!」とオジサンが怒り、「給与が高いと20代、30代が文句を言う」のは筋違いだと主張するのは正しいことになる。40代、50代の同世代サラリーマンの中には、この主張に同調する人もいるかもしれない。

■人事部長と若手社員の「大反論」

だが、同じ50代の製薬会社の人事部長は「あまりに身勝手な言い分」と批判する。

「そもそも年功賃金の前提が崩れている。バブル崩壊以降、会社の成長はストップし、業績が低迷する中で外資との厳しい競争にさらされ、年功賃金を維持できなくなったのはだいぶ前の話だ。しかも2000年前後に団塊の世代の先輩が次々とクビを切られて会社を去ったのを間近に見ていたのが当時30代後半の今の50代だ。それ以降、賃金・昇進制度が変わり、実力主義が会社の主流になっている。また年功序列であっても年齢相応の職責を担い、成果を出すことが求められるのが前提。いまだにルール違反だのとノー天気なことを言っているのは、よほど仕事ができない人なのだろう」

▼「20代、30代はかわいそうだ」

この製薬会社は2000年代半ばに年功型から完全成果主義に移行するとともに、合併とともに大量の社員をリストラしている。人事部長は「若者もかわいそうだ」と指摘する。

「年功賃金制度がなくなると、これまで給与を先送りされていた若い世代(20、30代)は40歳を過ぎても給与が上がらなくなりました。彼らからすれば『どうせ上がらないのであれば、いま働いている成果にふさわしい賃金をよこせ』と言うのは自然なこと。もらい過ぎている中高年の賃金を削り、能力や成果に見合った賃金を払うようにすべきだ」

食品加工会社の40代の人事課長は、給与を巡って世代間で対立する時代ではないと指摘する。

「年功序列の時代は高成長のときは年齢とともに給与が上がり、ピークのときに定年を迎える幸せな時代だった。賃金と昇格が右肩上がりになっている山登り型の人事体系だ。でも今は、60歳前の50代半ばに役職定年で給与が下がり、さらに定年後の再雇用でさらに給与が下げるしかないというのが現状。最大の問題は誰もが給与の上昇と出世を目指して山を登るという山登り型の人事管理が通用しなくなっていることだ。全員が偉くなれる時代ではない。会社としても山に登ることをモチベーションにして社員を引っ張ること自体に無理があると思っている」

その結果として問題になっているのが“働かないオジサン”の存在だ。

じつはこのオジサンはいまだに年功序列を引きずっている大手企業に多いらしい。もちろんまったく働いていないわけではない。「給与が高い割に仕事をしない人」を後輩の若手社員がそう見ているのだ。

ではどうやってこの問題を解決するのか。

■「給与が高い割に仕事しない人」の生きる道

中堅IT企業の人事部長は簡単だと言い切る。

「最大の問題は成果と給与が見合っていないことだ。働かないのに給料をいっぱいもらっているのは罪だ。これは若手も含めて年齢に関係ないはずだが、大企業はそういう構造を長年放置してきたから問題になっている。うちは成果が出ない人は減給するし、降格もある。年齢ととともに給与が上昇する年功カーブというものがないし、40代、50代でも30代と同じ給与をもらっている人はゴロゴロいる。40代でも20代の給与の人もたくさんいる。こっちもそれでよく子供2人を養い、生活しているなと思うが、本人がそれで満足しているのであれば会社にとっても不都合はない」

しかし、伝統的大企業ほどここまで割り切った制度に転換するのは容易ではない。そこで、各社ではいろんな手段を使って“働く気”にさせようとしている。そのひとつがマインドセットだ。

「同期入社に集合をかける」のはそのひとつ。ある金融業では45歳の同期を集めた研修を実施している。人事課長はこう語る。

「同期が全員集まるので、自分の位置を再認識する機会にもなる。同期には部長もいれば課長、平社員もいる。月に100万円の給与をもらっている人もいれば、40万円しかもらっていない人もいる。『あいつはすごいよな、俺は今まで何をやってきたいだろうと』と如実に彼我の差を感じることになる。まだ出世できるかもしれないと思っていた人が『あいつが部長なら、俺は絶対に無理だよな』と思うかもしれない。でも逆に、刺激を受けて、さらにがんばって働こうという気持ちになるかもしれない」

もちろん諦めて退職する意思があれば、早期退職募集制度を使って転進する道もある。

▼働かないオジサン、窮余の策

しかし、50代にとってはまだまだ職業人生は長い。子どもの教育費や老後の生活を考えると70歳まで働かなくてはいけない時代だ。“働かないオジサン”と若造にため口を聞かれないようにしていくにはどうすればよいのか。

前出・金融業の人事課長は指摘する。

「専門的なスキルや知識を持っていることが望ましいが、むしろこれまでに培った経験・技術を後輩に伝えていくことを会社は求めている。そのためには自分は黒衣に徹し、若手を全面に出して応援していくように心がけるべきだ。後輩を育てていく力のある人は、60歳以降も働いてほしいと思う」

そうやって人の役に立てば、働かないオジサンの汚名返上とまではいかなくても、風当りは少しは弱まりそうだ。ところが、そう簡単にはいかないのが難しいところだ。

「50代の中には、過去の実績や自分の専門性を過信し、プライドだけが強い人も少なくない。自分の実績が本当に通用するのかを検証し、実力を知ることから始めたほうがよい。その上で自分がどんな役割を演じればいいのか突き詰めて考えることだ」(同上)

今では、年下の上司も珍しくない。50代の世代が使いにくいといわれるのは、過去の成功体験にとらわれ、考え方が凝り固まっているからかもしれない。だから新しいことにチャレンジしようとしない。大企業でくすぶっている社員の多くに共通する点だ。

決して能力がないわけではない。だが、会社の理不尽さや若手社員をなじっているだけでは将来は暗い。

自らマインドをリセットし、腹をくくって新しいことに挑戦してほしい。いろんな未来が開けてくるはずだ。

(溝上憲文=文)