世界中の人々が無事帰国を祈っている

写真拡大

 日本人だけでなく、全世界の人々が後藤健二氏の釈放を願っている。だが、たとえ後藤氏が無事に帰国したとしても、それで全てが一件落着とはいかないようだ。後藤氏に対する「世論」と、増加する「日本人の誘拐リスク」が焦点となる可能性があるからだ。

 自民党二階敏博総務会長は1月26日、テロ組織「イスラム国」の人質問題に関し、「これだけ世の中を騒がしている。今後、こういう行動をする場合は慎重の上にも慎重にやってもらいたい」と記者団に発言。危険地域への渡航については何らかの規制が必要だとする見解を示した。

 これまで多くのメディアは、無謀とも言える渡航を行った湯川遙菜氏には「奥歯に物が挟まったような」報道でやり過ごしながら、ジャーナリストの後藤氏には「果敢に戦場へ飛びこみ、貴重な実情をレポート」「視線は常に、最大の被害者である子供たちに注がれていた」などと全面的に擁護してきた。

後藤氏に関する報道では新聞や雑誌で温度差が

 新聞の見出しを見れば、例えば湯川氏なら「湯川さん、自らを『旅人』『今までの中で一番危険かも』再びシリアへ」(産経新聞1月26日付朝刊)となり、「旅人」との言葉に新聞社が“万感”を込めたのは間違いない。一方の後藤氏は「後藤さんが語った『命』『イスラム国』人質 講演聴いた生徒ら 無事祈る」(読売新聞1月22日付夕刊)と迷うことなくその“悲劇性”を伝えている。

 だが、風向きは変わりつつあるのかもしれない。上記の二階堂発言は、後藤氏を「世の中を騒がせた」と非難しているのは明らかだ。30日に発売された『週刊文春』(2月5日号)でも特集記事『後藤健二さん 書かれざる数奇な運命』を掲載。かつて後藤氏が500万円の金銭トラブルを抱えていたことや、風俗店を経営していた時期もあったとレポートし、現在の仕事も「10分300万円」のギャラに「命を賭けた」と表現した。

 また『日刊ゲンダイ』(1月31日)も一面で「果たしてこの人質騒動 どんな意味があるのか」と問いかけ、記事では「後藤さんには無事でいて欲しいが、彼は別に政府高官でもなければ、大物財界人でもない。自己責任で外務省が渡航禁止令を出しているイスラム国に入った一ジャーナリストなのである」と指摘している。

 ある週刊誌記者も、あまりにテレビや新聞といった「大メディア」が後藤氏を「悲劇の英雄」とすることに疑問を感じるという。

「金額が正確かは分かりませんが、確かに文春の指摘する通り、後藤氏が戦場報道でギャラを手にしてきたのは事実です。彼は仕事、はっきり言えば『金のため』に危険地帯へ行き、ミスを犯して人質になってしまった。今は自主規制しているメディアも、後藤さんが無事に帰国できた場合なら、思いきって批判記事を書けるかもしれません」

テロリスト側は「交渉に応じた」と宣伝する

 後藤氏が無事に帰国し、心の底から謝罪したとしても、ジャーナリストとして活動を続けることは無理だろうという意見もある。当初は独占インタビューや著書の出版依頼が殺到するかもしれないが、果たして世論が「日本に迷惑をかけた男」を許容するか分からないからだ。あるテレビ局の関係者が打ち明ける。

「後藤さんの人柄を取材しても、本当に立派で真面目なジャーナリストであることは間違いありません。とはいえ、多大な迷惑をかけたということも否定できません。私の勝手な推測ですが、帰国しても戦場取材を続けるとは思えないですね。自主的に辞めるのではないでしょうか」

 こうした話がマスコミ関係者から出てくるのは残念である。これこそが行きすぎた「自己責任論」や「同調圧力」だ。だが、政治家や一部の報道を見ると、これもまた日本社会のリアルであるということも事実だ。

 ただし、後藤氏にバッシングを浴びせて溜飲を下げればいいというものでもない。後藤さんが解放されてからこそ、本当に「日本人にテロの危機が襲いかかる」日が始まるのだという指摘もある。

「難しい問題ですが、アメリカは自国民が人質に取られても、身代金は払いません。法律で禁止しているぐらいです。そうすると人質は殺されますし、テロの危険性は増加します。ですが、誘拐の危険性が減るのも事実なんです。テロリストからすれば『金にならない』わけですから。私も後藤さんが無事に帰国することを願っていますが、それが実現した場合、全世界のテロリストに『日本は交渉に応じる、金になる国だ』と宣伝することと同義でもあります。特にイスラム国を支持する連中は欧米にも存在します。中東の在留邦人だけでなく、欧米の観光客が狙われる危険性も今後は考慮すべきでしょう」(元外務省関係者)

 望むと望まざるにかかわらず、日本が「テロとの戦い」に巻き込まれてしまったのは間違いない。日本人なら誰でもイスラム過激派に誘拐される危険性があると肝に銘じた方がよさそうだ。後藤氏が無事、帰国できることを心から祈るばかりだ。

(取材・文/DMMニュース編集部)