192センチ、199キロの野獣が、埼玉県蕨市の駅前に姿を現わした。向かった先は都銀のATMコーナー。だが、野獣は機械が苦手なのか、ATMを操作するのはピンクのシャツを着たかたわらの女性だ。野獣はその後ろに、ただ立ち尽くしていたーー。

 大相撲秋場所で一横綱二大関を破り、あわや100年ぶりの新入幕優勝という野獣のような大暴れを見せた逸ノ城(21)。場所後の休日、川口市にある所属の湊部屋から姿を見せた逸ノ城は珍しいポロシャツ姿。まだ大銀杏の結えない長髪は、後ろで束ねている。

 隣を歩く猛獣使い(?)の女性は湊部屋のおかみさん、三浦眞さん(43)。場所中は毎日、部屋から国技館まで逸ノ城を送迎、取組後にはマッサージを施したという眞さんは、神経科の医師の資格を持つ、野獣の「日本での母親」だ。

 2人がATMの列に並ぶと、居合わせた客にイヤでも気づかれる。だが野獣は何食わぬ顔で直立。入門5場所めにして貫禄十分だ。だが順番が回ってくると……一転、母親に連れられた小学生状態。ATMから金を引き出すおかみさんの後ろ姿を、財布を握りしめてじっと見つめるだけだった。社会人経験もある逸ノ城だが、お金の管理をまかせているのか、はたまた機械が使えないのか。野獣、ATMに完敗!

 ちなみに2日後、相撲教習所の卒業式に向かう逸ノ城は、部屋を出発前にしっかり財布の中身を確認していたのだった。モンゴル事情に詳しい札幌国際大学の松田忠徳教授は次のように話す。

逸ノ城関は両親ともに、古来からの生活様式を守るモンゴルの遊牧民。生まれ育ったアルハンガイ県は海抜2千メートルを超す高地です。そこの大草原で、馬に乗り羊を追いたてる生活を続けています。遊牧生活でも、ソーラー発電でテレビを観たりできるんですよ。モンゴルの人口280万人のうち、およそ100万人が遊牧民ですね。モンゴルでも、ウランバートルには24時間使えるATMもあるのですが」

 本名のアルタンホヤグ・イチンノロブから「イチコ」と呼ばれているという逸ノ城。10日から始まる秋巡業で鍛えられ、九州場所では横綱・白鵬超え、そして強敵・ATMにも打ち勝つ。

(週刊FLASH10月 21日号)