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3Dプリンターの登場により、3D CADが注目を集めている。一般的なCADソフトウェアは、図面やプリント基板を作成する2D CADと、家電製品から航空機などの立体図面を作成する3D CADが存在し、ミッドレンジからハイエンドまで利用シーンは多彩だ。しかし、3D CADは内部的にデータを3次元で表現しているため、ハイスペックなコンピューターが必要となる。

さらに3D CADは、PCゲームやエンターテインメントで用いられるDirectXではなく、OpenGLという3Dグラフィックライブラリを使用しているため、通常のコンピューターでは、ポテンシャルを引き出せない。そもそもOpenGLは、SGI(Silicon Graphics International)が自社製ワークステーションに搭載していたIRIS GLを源流に持ち、現在でもCADに代表されるビジネス分野では標準的な存在である。

だが、多くのビデオカードはDirectX(3D)に最適化されており、3D CADなどのソフトウェアを使うには、OpenGLに最適化されたワークステーション向けビデオカードが必要となる。今回はAMDのHPC(High Performance Computing)向けに設計されたFireProシリーズの中でも、最も新しく最も優れたパフォーマンスを持つ「AMD FirePro W9100」を使う機会を得たので、その性能を紹介する。

○「4Kデジタルシネマ」で約5,300万ピクセルの世界を実現

「AMD FirePro W9100」は2014年3月にローンチした最新ビデオカードだが、2012年6月にローンチした前モデルのAMD FirePro W9000と比べると、メモリーを従来の6Gバイトから16Gバイトに大幅に増量し、インターフェースも384ビットから512ビットに拡大。帯域幅は264Gバイト/秒から320Gバイト/秒に広がっている。コアに含まれるトランジスタ数も43億から62億に拡大するなど、スペック面の進化もかなり興味深い。さらにOpenCLはバージョン1.2から2.0をサポートしている。

ちなみにOpenCLはCPUやGPUなど複数のリソースを用いた計算を行うためのプラットホームだ。バージョン2.0は2013年11月に発表されたばかりで、「AMD FirePro W9100」でOpen CL 2.0を現時点で利用することはできないが、AMDは2014年第4四半期に、デバイスドライバーのリリースを予定している。

また、スタジオや映像制作会社など、世界各国のポストプロダクションと共同開発されたカラーコレクター"DaVinci Resolve"(Blackmagic Design社)の推奨GPUにもなっている。マルチトラックを駆使して究極のカラーグレーディングを提供する同ソフト。高解像度のRAW映像に対して、トラッキングやマスクを使いながら映像の雰囲気を創り出すためには、負荷に耐えられる環境が当然必要になる。OpenCLとの相性の良さを物語っていると言えるだろう。

ビデオカードの外部インターフェース部分を目にするとわかるように、Mini DisplayPort 1.2出力ポートを6つ用意。さらにDisplayPort 1.2 MST(Multi Stream Transport)ハブが不要なため、ディスプレイさえ用意すれば、最大6画面の同時使用が可能になる。現在Mini DisplayPortを備えていないディスプレイをお使いの場合、変換アダプターを用意すれば、DVIおよびHDMI(別売り)接続も可能だ。

特筆すべきは出力解像度。もともとDisplayPortは、超高解像度での利用を視野に入れた設計を行っている。「AMD FirePro W9100」の各出力ポートは、21.6Gビット/秒に対応したバージョン1.2だが、ディスプレイ側の入力ポートがDisplayPort 1.1の場合は2,560×1,600ピクセル、同1.2の場合は4,096×2,160ピクセルまで設定可能。

つまり話題の「4K」を凌駕しているのだ。詳しく述べると一般的な4Kとは、ここでは3,840×2,160ピクセルを指すが、「AMD FirePro W9100」がサポートする4,096×2,160ピクセルは、米国の映画作成団体でるDCI(Digital Cinema Initiatives)が定めた「4Kデジタルシネマ」に対応していることになる。また、6ポートすべて4Kデジタルシネマに対応しているため、約5,300万ピクセルの世界を享受できるのだ。

CADや3Dグラフィックス制作などのビジネス分野では、視野の広さが作業効率に直結するため、「AMD FirePro W9100」の内部性能はだけでなく、出力機能は大きなアドバンテージとなる。

○圧倒的な性能差でレンダリング速度を向上

性能や特徴を並べ連ねても「AMD FirePro W9100」の性能を把握しにくいため、ベンチマークを行うことにした。一般的なビデオカードの性能を評価する場合、Futuremarkの3D Markなどを用いるが、HPC向けビデオカードの場合、SPEC(Standard Performance Evaluation Corporation)の「SPECviewperf」が適している。同ベンチマークソフトは3Dグラフィックスシステムの性能や、一般的なアプリケーションの各種レンダリングを実行し、その結果をスコアとして示すものだ。

具体的には、Dassault Systemes CATIA / PTC Creo / Autodesk Maya / Autodesk Showcase / Siemens NX / Dassault Systemes SolidWorksといった実際の3Dアプリケーションを元にしたベンチマークを実行。さらにSPECviewperf 12では、エネルギーおよび医療分野で用いられるボリュームレンダリングにワークロードをエミュレートするためのテストや、Autodesk Showcaseの各種トレースを利用したDirectXのテストが加わった。

今回は6月25日にマウスコンピューターから発売されたFirePro搭載モデルを試用する機会を得た。ベンチマークに用いるマシンは、「AMD FirePro W9100」を搭載したモデル「MousePro W720」の最新版にあたる。マウスコンピューターが法人向けに展開するブランド「MousePro」に属し、CADや3DCG、映像制作から研究解析までをカバーするハイエンドモデルだ。そのなかでも「MousePro W」シリーズは、4K映像編集という高いスペックを要求されるシーンでも、軽快な動きを提供すべくDual CPU構成にも対応したタワー型のワークステーションとなる。

CPUには6コア/12スレッドのIntel Xeon E5-2620 v2(2.10GHz/TurboBoost時最大2.60GHz)を2基、メモリーは64Gバイトの構成だ。なお、OSはWindows 7 Professional 64ビット版、AMD FirePro Software Suiteは13.352.1006をインストール。さらに今回は性能差を計るため、AMD FireProシリーズの2013年モデルである「AMD FirePro W8000」のベンチマーク結果も掲載する。

上図をご覧のとおり、すべての面でAMD FirePro W8000の数値を上回る結果となった。いずれもプロフェッショナル向けビデオカードだが、「AMD FirePro W9100」は次世代のワークステーションとなるHPCへの搭載を想定した設計というのも理解できる。特にAutodesk Showcaseによるベンチマークは、1.5倍もの性能差を確認できる結果となった。つまり、3D CADのレンダリング処理時間を大幅に短縮し、業務をいち早く終えることができるだろう。

3D CADアプリケーションが必要なため、今回は確認できなかったが、AutoCADや3ds Maxのパフォーマンスを向上させる「Performance Plug-in」の存在など、3D CADやプロフェッショナル向けグラフィックアプリケーションを業務で使用するユーザーにとって、AMD FireProシリーズはベストな選択肢である。確かにHPC向けビデオカードのため、「AMD FirePro W9100」は決して安くない。だが、その投資を補って余るほどのポテンシャルを持つ製品だ。今後増加していくであろう4K環境の導入を考慮しているユーザーは、本製品の導入を考慮すべきでああろう。

(沢渡和希)