「鎌塚氏、放り投げる」DVD
脚本家・倉持裕の舞台作品。今年再演が行われる。

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東大卒の研究者だった田茂青志(二宮和也)が、一年間限定の予定で母校の臨時教師に。頭はいいけれど野球の弱い野球部を率いて、甲子園を目指すドラマ「弱くても勝てます」(日本テレビ土曜夜9時〜)。
一見、ダメな生徒たちがナイスな先生との出会いによって、次第に変化していくという、よくある学園スポーツドラマのようではありますが、何かが違うんです。

なんといっても選手も監督も頭がいい。負け組のようで実は勝ち組です。
だったら、野球なんてやらずに東大行って出世するという理想的なコースを進めばいいのに、野球でも勝ちたいという欲張りさんたちが、頭の良さを生かした独自の勝利セオリーを考案していくという、応援していいのか悪いのか、いまひとつわからない、奇妙なドラマ。
でも、そのズレにこそ心惹かれてしまう。よくある学園スポ根ではない、ちょっとヘンテコな感じが逆にいい。
エンディングで、真顔で走っている田茂たちがかぶっている野球帽に「弱」という文字がついているのも、ヘン(いい意味です)ですし、密やかにおもしろ光線が発されている。これが第1話の印象でした。

そして、4月19日放送の第2話。
ダメ部員たちの中で、唯一野球のデキル部員・白尾剛(中島裕翔)が、考え方の相違から田茂と衝突。部から飛び出してしまいます。唯一デキル選手がいなくなったらかなりピンチ! 
白尾は自分が戻ってくる代わりに、田茂に監督を辞めてほしいと言います。
田茂は、辞めることをあっさり承知。「ただし、おれのやり方がまちがっているとおまえが証明できたらだ」と条件をつけます。
そして、田茂が決めた守備のポジションで、白尾がバッターボックスに立って・・・。

問題の、田茂と白尾の相違点はこう。
「普通の野球のセオリーは普通以下の城徳(高校の名前)には役に立たない」
「普通以下でいいじゃないか」という田茂に対して、白尾は、普通以下だから普通に近づきたい。

「普通以下でいい」という考え方は目からウロコ。
田茂ってものごとを違う角度から見る事ができるんですね。さすが研究者です。
ほんとの頭のよさは、当たり前のことをしない。当たり前を疑ってかかることなんですね。

鋭い視点をもった田茂による、第2話での秀逸な台詞は、「『は』じゃなくて、『が』が聞きたいんだよ」。

部員たちに「ぼくは」じゃなくて「ぼくが」と言おうと、田茂は提案します。
「は」にはどこか他人事な感じがするが、「が」にはアグレッシブな感じがあると。

これだけだと、よくある自己啓発もののような印象もあります。「自分が主役でいられるのは今だけ。社会人になったらそれはできない」という考え方も、格別目新しいわけではありません。
でも、いいんです、このドラマの良さはここではないんです。ではどこに?
例えば、次にあげる場面などに、宝を感じています。

「ぼくはライトです」(ふつうな声で)
「おれがライトだー!」(大きな声で)
 田茂は「は」と「が」の違いを示してみせますが、部員のひとり赤岩公康(福士蒼太)が「言い方だけだから」と冷静にツッコみます。
それでも田茂はしつこく「おれがライトだー!」と叫び、「が」を使うと前向きさが強調されると主張。赤岩は今一度「言い方ですよ」とぼそり。こういうのがイイ。

やがて、頭いいはずの部員たちが、田茂に丸め込まれるように「おれが」「おれが」を連発していきます。最終的には、「おれが」を使ったちょっといい話に。脚本家・倉持裕が構成力の高さを見せつけます。田茂と部員たちのルポを書こうと追いかけている記者(麻生久美子)的にいえば、「ドラマがある」です。
でも、そこよりももっといいなあと思ったところは、こんなところ。

田茂は、人数の足りない野球部に頼んで入ってもらった岡留(間宮祥太朗)に、元から部員の江波戸(山崎賢人)に対してプレッシャーを与えるからと、「退部してくれ」と持ちかけます。
田茂は1話で、強い相手チームに「点をとらせてくれ」と頼んでいましたが、ストレート過ぎてヘンなとこがあります。天才とは奇人なのですね。
その時、岡留は「おれがやめるんですか?」と驚きます。
お気づきでしょうか、田茂が使え使えと言った「が」が、ここで使われているのです。確かに「が」には「おれが? なぜ?」という強い思いが伝わってきます。

弱い野球部が試合に勝っていくありさまよりも、こういうシーンのセンスの良さに、このドラマの魅力を感じます。

ほかにも、打球を捕る自信がない部員たちに田茂は、「来いも来るなも等しく強い気持ちに変わりない」「来るなと叫べば、自ら勝負を仕掛けたことになる」と、
とんでもない提案をして、部員たちは皆「来るな」「来るな」と叫びだします。なんじゃそりゃ・・・。
こんなふうに田茂は、硬直化した野球部に、発想の転換を促していくのです。

さて、「弱くても勝てます」が、これまでの学園スポ根と少し違う、ひねりの効いたドラマであることと同時に、主演の二宮和也も、今回ちょっと違う気がしています。
これまでの彼の演技とちょっと違って、身振りがデカイと思いませんか。
例えば、2話の「おれがライトだー!」の言い方や、1話で、赴任の挨拶をする時「(ラボが)閉鎖されてしまった」と言うときの苦い顔など、誰にも等しく感情がわかる芝居をしています。今までだったら、感情をストレートには出さなかったと思うのですが。

笑いの部分なので、リアルな繊細な演技よりも、舞台的な大きめな演技が求められているのだろうし、大振りな演技への批評でもあるでしょう。いずれにしても、二宮和也の演技に新しい引き出しが加わった感じがします。3話以降も、ストーリーにも演技にも新機軸を期待です。
(木俣冬)
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