本当に大丈夫?妊婦の温泉浴―専門医がコメント「付帯設備でヘルペス感染の危険性も」

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1月下旬、メディアに、「温泉禁忌症から『妊娠』規定を削除…環境省方針」、「妊婦温泉入浴問題なし 環境省が基準見直し」などというニュースが多数流れましました。

環境省が32年ぶりに温泉法(温泉の定義、成分や入浴上の注意などを規定)で掲示が義務付けられている効能や注意書きを見直し、これまで温泉浴を避けるべき禁忌症に明記されていた、「妊娠中(特に初期と末期)」という項目が削除されることになったということです。

この報道を聞いて、筆者の知人の妊婦は「温泉に行ってもいいんだ」、「温泉でゆっくりしたい」と言いますが、一方で、「気を付けるべきこともあるはず」との慎重な意見もあります。

そこで、妊娠中の温泉浴は本当に安全なのか、またその注意点について、日本産科婦人科学会専門医で成城松村クリニック(東京都世田谷区)院長の松村圭子医師にお話を伺いました。

■転倒、貧血、血圧の急変動、のぼせ、出血……のリスクあり

まず、妊婦の状態と温泉浴について、松村医師はこう話します。
「妊娠初期では約15%の流産があると言われています。温泉がどうこうという観点ではなく、安定期に入る前の妊婦は、つわり、脳貧血、のぼせ、血圧の変動、皮ふの変化、出血などが起きやすく、平時と違う症状が出やすいため、生活全般に注意が必要です。

後期では、体のバランスが取りづらく、転倒の恐れがあります」

妊婦だけではなく高齢者や体調が悪い人なら誰しも、銭湯やホテル、自宅の風呂でも、
「高温の湯に急に浸かると血圧が上がります。ぬるめのお湯でも長湯をすると逆に血管が広がって血圧が低下し、めまいなど脳貧血を起こしやすくなることも。のぼせ、頭痛、悪寒、吐き気、下痢、倦怠(けんたい)感などの症状が出ることもあります。

妊婦の場合、それらの症状が出やすいと言えます」と松村医師。

「本当に大丈夫でしょうか?」という声があります。松村医師はこうアドバイスをします。
妊婦に関わらず、どんな場合でも、その人の体質、そのときの体調、状態によりますので一概には答えられませんが、温泉の湯そのものに問題はないとしても、その設備、施設の状況によっては大丈夫とは言えないでしょう。

妊娠後期に妊婦ヘルペスに感染すると、赤ちゃんが新生児ヘルペスになることが懸念されます。共同浴場では、座いすやトイレの便座、共有のタオル、脱衣所の衣服置き場などからヘルペスに感染する可能性も考えられます。

温泉など不特定多数の人が出入りする場所の設備には、肌が直接触れないように気を付けないとなりません」

そうすると、せっかくの温泉でもリラックスしにくいような……。
妊婦温泉に行きたいと思うのは、やはりリラックスしたいから、ストレスケアをしたいからでしょう。無理をせずに適度の温熱刺激であれば、血流、代謝改善による疲労回復や、ストレスのケアに有効であると考えられます。

ただし、妊婦はのぼせやすいので長湯はできないし、またしてはいけません」(松村医師)

■リラックスと血流改善効果がほどよい足湯がお勧め

健康に良い温泉浴の方法として、5分以内の浸かったり休憩したりを2〜3回繰り返すことと聞きますが、妊婦の場合はどうでしょうか。松村医師は、
「慣れないお風呂場で浸かったり上がったりだと、滑らないか、転ばないかと心配ごとが増えます。実際、リラックスできないかもしれませんね。でもそれぐらい、注意を払う必要があります」と付け加えます。

では、妊婦温泉浴をするにあたり、気をつけるべき点を教えていただきましょう。

「まずは転倒に注意です。特に後期では足元が見えにくく、バランスを崩しやすくなります。滑って転ばないように。手すりがある場合は必ず利用しましょう。

次に、高温の湯に浸かる、サウナや水風呂に浸かるのはNGです。血圧急変のもとです。

また、敏感肌の人は、妊娠中はさらに敏感になることもあるので、硫黄泉など刺激が強い温泉は避け、皮ふに変化が出たらすぐに洗い流しましょう。

繰り返しますが、肌が直接触れる座いす、共有タオルなどの付帯設備はできるだけ使わないようにしましょう」

最後に松村医師はお勧めの温浴法について、
妊婦には、10分以内の足湯を勧めます。ほどよく血行が良くなり、リラックスできて感染症の心配もありません」と話し、こうアドバイスを加えます。
温泉法で妊婦が禁忌ではなくなったと言っても、法律が温泉を推奨しているわけではありません。勘違いしないようにしましょう。妊婦の体調は人によってかなり違いますから、温泉施設へ出かける場合は、かかりつけ医によく相談してください」

妊婦にとっての注意点は、温泉の湯そのものではなく、入浴の仕方、利用の方法であり、それは法律改正前と何ら変わりはないということを今一度認識しておきたいものです。

(海野愛子/ユンブル)

取材協力・監修
松村圭子氏。日本産科婦人科学会専門医。婦人科医。成城松村クリニック院長。『10年後もきれいでいるための美人ホルモン講座』(永岡書店)、『女性ホルモンでふわっと香る美人になる』(KKベストセラーズ)ほか著書多数。西洋医学のほか、サプリメントや漢方、オゾン療法、各種点滴療法などのメディカルケアも幅広く取り入れている。メディア、講演や執筆などでも活躍中。成城松村クリニック:東京都世田谷区砧8-23-3